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第3話 暴風域に突入

 あれから教室に戻り、千智先生のありがたいお話を聞いて、今日はお終い。これから入学式があるためだ。


 部活に入っていない僕と月乃は勿論、朱音ちゃんと紫苑さんも部活禁止なので四人で帰る。


 例の如く、女の子三人で会話が弾み、僕は一人寂しく空を見上げる。


 うん。本当に綺麗な空だ。この下で昼寝したら、気持ちいいだろうなあ。考えたら眠くなってきた。帰ったらちょっと横になろうかな?


「光ちゃん、何してるの? 置いてっちゃうよ!」


 えっ? ……うわ、月乃も朱音ちゃんも紫苑さんもかなり小さい。いつの間にこんな距離が……。


「ごめん、今行く」


 少し大袈裟に返事をし、追いかける。彼女達が止まっていてくれたお陰で程なくして追い付いた。


「もう、しっかりしてよ! 端から見たらおかしな人、良くて変な空好きの人だよ」


 ……以後気を付けます。


「いいや、違うね。あの目は恋する乙女の目だったね。さあ光君、愛しの男性ひとは誰なんだね?」


 うん、違う。第一、僕は乙女でもなければ女性でもない。


「いやいや、朱音さんも間違っていますよ。光さんはあの空の向こうに何があるのかを、真剣に考えていたのですよ」


「「えっ?」」


 月乃と朱音ちゃんの声が重なり、お互いの顔を見合わせた後、


「光ちゃん……私は光ちゃんがどんなに病んでても、ずっと側にいるからね」


「光君、大丈夫だよ。まだまだこの世界も捨てたもんじゃないよ。ね? だから早まっちゃ駄目だよ」


 変な方向に行ってしまいました……。


 そんなことはない。そう否定すると、月乃は安堵の表情を、朱音ちゃんと紫苑さんは不満気な表情を見せた。月乃、心配してくれてありがとう。朱音ちゃん、紫苑さん……ふざけるの、やめれ。


 ため息を吐くも、吐息は見えず、春を実感する。


 またこんな騒がしい一年が始まるのか――そう思うと頬が弛む。


 楽しくなりそうだ。小さく呟き、また空を見上げる。澄み渡る青と、所々浮かぶ白。


 こんな空が一番好き。何となくだけど、穏やかな気持ちになれるんだ。


 大きく深呼吸をし、せっかちな彼女達の後に続いた。





「そうだ! せっかくだから皆で“あそこ”行こうよ」


 帰り道の途中、“あそこ”へと続く坂の下で、月乃が提案する。


 僕は断る理由もないので賛成。朱音ちゃんと紫苑さんは用事があるようで、ごめんと謝り帰って行った。


 気を取り直し、坂を登る。結構傾斜があるのでなかなかしんどい。だけど登って行く。それほどの価値がこの上、“あそこ”にはあるのだ。


「ねえ、今日って本当に今世紀最低の運勢なの? そんなに酷いことなかったよね?」


「いや、結構あったよ。勘違いから始まり、委員長にされ、立ち寝中に転びそうになったし。……まあ、最後のは自業自得だけどね」


「ははっ……そっか。ま、まあ凄く不味いことはなかったんだから、良かったんじゃないかな? ほ、ほら、早く行こ」


 手を引っ張られ、急かされるように坂道を登る。ふと後ろを振り向くと、町並みがとても小さかった。





 坂道を登りきり、“あそこ”に到着する。


 目の前には満開の桜。風になびき、花びらが散っていく。それらは空高く舞い上がった後、地に落ちる。


「綺麗、だね」


「うん、綺麗」


 もっと他の言葉で表現したかったが、言葉が見つからない。そんな形容しきれぬ美しさがここ一帯に溢れていた。


 ここは“花見公園”。名の如く、桜の名所として名高い。幸い、平日の午前であったため、花見客はほとんど見られない。


「ねえ光ちゃん、あの人達って……」


 目前の光景に目を奪われていた時、後ろから声が掛かった。何々? と振り向くと、ここにいるはずのない人物が、そこにいた。


 見間違いかな? と思っていたら、その人達がこっちに手を降ってきた。


 間違いない。――父さんと母さんだ。小走りで駆け寄った。





「よう光、月乃ちゃん。元気にしてたか?」


 まあね、と答える。いつ帰って来たの? と質問しようとしたが、遮られてしまった。


「光、重要な話がある。実は父さん達、今年一年間アメリカで仕事があるんだ」


 ん? そんなに重要? いつもと大して変わらない気が……。


 首を傾げていると、父さんはまた口を開いた。


「でな、その時のビジネスパートナーが、月乃ちゃんの両親のあいつらなんだよ」


 ふーん……ビジネスパートナーが月乃の両親ね……。って、月乃もアメリカ行くの!?


 驚きのあまり、声を失っていた。すると月乃が慌てた様子で口を開いた。


「ちょっ、晃司こうじさん。それって本当ですか!?」


 ああと返答し、苦虫を噛んだような顔をする父さん。横で笑っていた母さんが喋り出す。


「月乃ちゃん、貴方はこの一年、良かったら光と暮らしてもらうわ」


 僕と暮らす? どういうこと?


 月乃共々、疑問符を浮かべていると、父さんさんが笑いながらこう告げた。


「いやぁ、さとるの野郎がな、『大事な娘を一人、日本に残してアメリカなんて行けるか!!』って叫んでよ。そしたら紗織さおりが『それなら光君と一緒だったら安心ね』ってほざいてよ……」


「それからは言わずもがなね。怜さんが頼むわ土下座するわ、大変だったのよ」


 聞いた月乃は、顔を引きつらせていた。月乃の父親である怜さんが土下座して頼み込み、その横で月乃の母親である紗織さんが笑っている。そんな情景が浮かんだのであろう。


「それで、僕と月乃が一緒に住むって決まった、と」


 笑顔でコクンと頷く二人。


「なんで勝手に決めてんのさ!! 第一、月乃に聞いた? 聞いてないよね?」


 声を荒げ、問詰める。


「落ち着け。まあ、月乃ちゃんに聞かなかったのは悪かったが、大丈夫だろ。ほれ」


 諭され、指差す方向に目を向ける。その先には月乃。彼女は、「光ちゃんと一緒に暮らす……それも一年……」と呟きながら頬を押さえ、体をくねらせていた。


 あれって大丈夫なの? 到底大丈夫そうには見えないよ。


「もう、もう少し自分に素直になさい。本当は月乃ちゃんと一緒に暮らしたいのでしょ?」


 そんなことない……とは言えなかった。心の中では、月乃と暮らしたいのかもしれない。


「結局は、月乃ちゃん次第だな」


 父さんに言われ、聞いてみる。


「ねえ月乃。僕は問題ないけど、月乃はどう?」


「わ、私も大丈夫、だよ」


 青臭い会話だったと思う。ぎこちなくて、歯痒くて。


 父さん達は、そんな僕達を温かい目で見守っていた。


「決まったなら善は急げだ! ほら早く帰って支度するぞ」


「そうよ。月乃ちゃんも家帰ったら、準備するの忘れないようにね」


 善なのか大いに疑問だが、まあいい。月乃と顔を見合わせ、笑い合った後、父さん達に続いた。


やっと書き終わりました。会話を考えるのに時間がかかって、こんな遅さに…。本当に自分の無力さに嫌気を覚えます…。


兎に角、後二回ほどで一段落です。まずはそれまで頑張りたいと思います。


蛇足ですが、次話とその次はそれぞれ光視線と月乃視線になりそうです。


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