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第17話 雨雲の下で会議を

「フッフッフ」


「ハッハッハ」


「ワッハッハ」


 天まで届きそうなほど、馬鹿笑いする男が一人。名を琢磨、又は猿という。



「キモいぞ、猿琢磨」


「見てみなよ、この周囲の冷めた目を。君ひとりが馬鹿笑いしてるから、他が喜んでいいかどうか困るんだよ」


「たっくうっさいな。そのままだと『この猿野郎、ちっとは黙ってやがれ! それともあれか? 黙るということさえ出来ないほど、知能が低いのか? だったら悪かった。謝るよ、知能ゼロの単細胞生物君』って言っちゃうよ」


 憲治、僕、朱音ちゃんに罵倒を受け、落ち込むは琢磨。


 そんな彼にとどめを刺したのは、紫苑さんのこのどすの利いた一言。


「琢磨さん……ちょっと黙ってろ」


 その後、彼は窓から飛び降りようとしたが、止めてもらえず、シクシク泣き崩れていた。誰も宥めなかったために諦めて、ひとり膝を抱えていた。非常に切なげな表情であった。





 僕達二年二組はバスケ優勝、ソフト、サッカー準優勝など、大いに活躍した。だが、他の学年にめぼしい活躍がなく、結果は第二位。


 されど、体育祭は終わりではない。明日の“姫騎士”がある。


 そして今、作戦会議中だ。


「私達は負けてしまった。二位だなんて意味を成さない。つまりただの負け犬だ。この状況を打破するためにも、明日勝たなくてはいけない。分かったかな諸君? ということで作戦会議だ。いい策がある者は挙手して述べよ」


 千智先生……盛り上がり過ぎです。そしてどこの上官ですか? アメリカ軍大佐辺りですか?


「光ならば、敵陣を攻め敵の頭を取って来るのも可能であるかと」


「おい、猿。貴様、自分が何を言ってるか分かっておろうな? 貴重な戦力、それも最後の砦を無駄死にさせるなど、貴様如きがほざけるか! 身の程を知れ!! 貴様は呑気に懐に草履を抱えておれば良いのだ」


「それでは二十五人が攻め、瀬川殿を含む残りの十四人が春日姫君を守るのは如何なものでしょう?」


「ほう、ポンカン、良い策じゃ。貴様等、それで行くが異論はなかろう? ふっ、これであの今川に一杯喰わせられるというものだ」


 武将だった。織田信長だった。豊臣秀吉だった。明智光秀だった。戦国の世に翻弄され、自らの正義を貫き通し、そして散って行った三人の武将がそこにいた。


 いきなり現れた三人の武将を怪訝な表情で見つめる。一瞬、鎧を身に着け、戦法を語り合う武者が見えたが、瞬きするとなんともない。幻であったようだ。


 隣りでピクリ肩を震わす月乃を見た。同じ幻を見たようだ。親近感が高まった。



 それからも誰も突っ込まず、滞りなく作戦が決まっていく。驚いたのは上杉謙信が敵に塩を送ったように、敵におにぎりを送る作戦。本当に効果があるものか、明日に期待しよう。



「良し、こんなもんで大丈夫であろう。各自明日に向け休め。以上じゃ」


 先生、いや信長の言葉にははぁーと頭を下げ、教室を出る。ブルリ寒気が襲う。時は五月下旬。寒いと感じたのは、それだけ熱が籠っていたということ。それだけ皆が団結していたということ。


 これなら、明日はいい所まで行けそうだ。理由はなかったが、漠然とそう感じた。





 月乃と昇降口で靴を履き替え校門を出る。部活のある皆とは教室で別れたため、僕達二人での下校だ。


「光ちゃん、空……」


 言われ、空を仰ぐ。朝より黒みの増した雲が浮かんでいた。


 生憎傘は持っていない。月乃も首を横に振るばかりである。


 雨に打たれては堪らない。早足になり、帰路を急いだ。



――ポツン


 頬に水滴を感じ、見上げる。雨粒が目に飛び込んだ。


 不味いと思ったのも束の間、雨が僕達を襲う。


 咄嗟に月乃の手を掴み走り出す。その間も雨は僕達の体力と体温を奪っていく。



 雲行きが怪しかったため、早足になったのが幸いし、一分足らずで家に到着した。


 しかし僕達の体は冷えきり、風邪をひいてしまいそうだった。


 お風呂を沸かし、月乃に薦める。彼女は僕に入るよう言ってくれたが、強引に脱衣所に押し込んだ。ふるふる震える彼女の姿が見るに堪えなかったのだ。



 服を着替え、タオルで頭を拭いていると、月乃がお風呂から上がってきた。濡れた黒い髪をタオルで挟んで拭いている彼女が、とても色っぽかった。お風呂の神様がいるとしたら、彼女のようだろうと勝手に想像してしまった。



 月乃と入れ替わりで入浴する。お湯で軽く体を流した後、浴槽に浸る。冷えた体が徐々に解きほぐされ、体内に血が巡った気がする。充分に体が火照ったのを感じてから、入浴を終えた。



 リビングに着くと、ソファの上で自分を抱き締め小刻みに震える月乃が目に入る。例の如く熱を計ると少し熱い。微熱だ。


 具合を尋ねると、大したことはないと笑顔を返したが、大事を取って寝てもらうことにした。明日のこともあるが、それ以上に彼女の苦しむ顔が見たくない。


 月乃を自室に向わせ、飲み物片手に読書をする。内容が頭に入らず、文字の羅列をただ眺めていた。彼女が心配だった。


 彼女の部屋の前で耳を澄ませ、寝息を確認してから床についた。僕の大半を月乃が占めていると知って、思わず赤面。暫く眠れず天井を眺め、彼女との思い出を思い出していた。


 いつの間にか瞼が下がり、気が付いたら朝になっていた。


 昨日の天気が嘘のように、空は澄み渡り、朝日が眩しい。


 かくして体育祭二日目、姫騎士の開催日は始まりを告げるのだった。


 はい、作者です。始めての方もそうでない方も、作者です。


 皆さんは花粉症ですか? 作者は小学五年生から仲良くさせてもらっているので、かれこれ五年の付き合いです。


 毎年、この季節は憂鬱なのですが、今年は酷いです。


 通っている高校の真後ろに山があって、杉が植えられています。はい、こんにちわですよ。


 そんな訳で、学校が辛い作者でした。


 因みに、第4話の光と月乃の話を編集しました。暇な人はどうぞ!!

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