第14話 僕の…
爺ちゃんにそんな過去があった何て思いもしなかった。
普段呑気そうな顔して……まあ、今は真剣な表情だけどさ。
だけど渚高の名前の由来に触れてないよね?
「結局何で渚になったんですか?」
僕が聞くより早く、月乃が質問していた。
「ああ、まだ言っておらんかったの。
ふむ…渚のお父さんが出した条件があったじゃろ。あれがそれじゃ」
それで渚高を作った、と。
ああ、納得ですな。
ん?納得?
……つまり、爺ちゃんが渚高の創始者って事なのか?
……いやいや、流石に無理でしょ。
散々稼いでたとは言え。
「まあ、儂一人では出来なかったじゃろう」
やっぱりそうだよね。
でもそうすると、何か大変な事を……はっ、まさか銀行強盗!?
「渚の許婚だった人がの、協力してくれたんじゃ。
向こうも色々とあったんじゃろう」
ちょっと安心。
話を戻す為に問い直す。
「そんなに聞きたいか、光?ふむ、ちょっと肩が痛むの……」
こっちをチラチラ見ながら、切なげな表情で肩を叩く爺ちゃん。
うぅ……最初は何にも言ってなかったのに…。
仕方ないので肩を揉んでいると、
「ちょっと喉が渇いてしもうた」
これまた切なげな表情で。
こうなったらとことん付き合ってやろうじゃないか。
急いでお茶を入れて持って行くと、今度は煎餅を要求される。
それも、何故か仙台名物(?)牛タン煎餅を。
そんなのここらじゃ売ってないってー!!
心の叫びが聞こえる訳がない。
有無を言わずに家から追い出されてしまった。
デパートで物産展をしているかもしれない、という僕の記憶を頼りに自転車を漕ぎ出す。
数分後着くと、案の定物産展をやっている。
傍から見ればおかしいだろうが、牛タン煎餅だけを購入し店を後に。
更に数分、煎餅片手に家に入る。
「……という訳なんじゃよ」
もう話し終わっていた……。
僕の頑張りは徒労に終わったのですか?
爺ちゃんは僕に気付くと顔をほころばせ、煎餅を奪ってスキップしながら帰っていった。
満身創痍で立ち尽くしていると、郁那が目に止まった。
いつまで此処に居座るつもりだろう?
月乃と楽しげに会話してて、帰る気無さそうだし……。
「ねぇ郁那ちゃん、そろそろ帰らなくていいの?」
「それだったら心配ご無用です!
さっきの電話で許可取りましたから」
「許可って、泊まってくの?」
笑顔で頷く郁那。
そして近付いて来る。
「ねえ光兄ぃ、泊まっていってもいいよね?」
こんな時間に帰すのも少し忍びないし、仕方ないか。
大丈夫だよ、とお泊まりを許した。
「やたぁー!じゃあ私、光兄ぃと一緒に寝る!」
「か、郁那ちゃん、私の部屋で一緒に寝よっ、ね?」
郁那は月乃の提案に顔を渋らせたが、そうする事になった。
ありがとう、と口パクで伝える。
月乃はウインクをすると、郁那を部屋に連れて行った。
ふぅー。
ため息が自然とこぼれる。
なんだか今日は疲れた。
もう寝てしまおうかと思ったが、ちっとも眠気がやって来ない。
仕方ないから数学の教科書を開き、予習をしているとノックの音が。
「光ちゃん、私だけど入っていい?」
返事をすると、ちょっと困った顔で入ってきた。
何かあったのだろうか?
「月乃、どうかした?」
「うん、郁那ちゃんがもう寝ちゃって。起こしたらマズいなぁってね」
「それで此処に避難した、と」
そうだね、へへっと笑う月乃。
うーん、せっかくだし渚高の由来を聞こうかな。
「ねえ月乃、渚高の事なんだけ「そうだ、ちょっと散歩行かない?きっと星が綺麗だよ」
何か誤魔化された様な気がするけど、まあいいや。
今聞こうが、後で聞こうが変わらないし。
二つ返事で家を出た。
外に出ると、少し冷たい風が僕達を撫でる。
もう5月だと言えども、まだ気温はそんなに高くない。
月乃は薄着で出てきた為、震えている。
風邪をひいてしまうと大変なので上着をそっと掛けてあげた。
「えっ、あの光ちゃん?」
「寒いでしょ。僕は大丈夫だから着てて」
「……うん、ありがと」
月乃が羽織ったのを確認し、肩を並べて歩き出す。
見上げると一面の星空。
雲一つない、綺麗な夜空がそこに広がっていた。
「綺麗だね」
「うん、綺麗だ」
それだけの会話。
だけど何か伝わった気がして、微笑み合った。
適当に町内を一周し、家の近くまで来たところで、月乃が立ち止まる。
続いて立ち止まると、月乃が口を開く。
「あのね、光ちゃん。ちょっと聞いて欲しい事があるんだ……」
真剣な表情の月乃に、思わず唾を飲み込む。
大きく深呼吸をした後、言葉を紡ぎ出し始めた。
「私ね、ずっと、ずっと……す、す……」
す?
「……す……す」
す、す?
「す、すきっ」
「へっ?スキー?」
「ふぇ?」
なんだ、スキーしたかったのか。
それならそうと言ってくれたら良かったのに。
「じゃあ、今年はスキー行こうか?」
提案して月乃の顔を窺う。
あれ、なんだか怒ってません?
僕、何かしました?
「……光ちゃんの、光ちゃんの……ばかぁぁあ!!」
月乃は僕を罵倒すると、物凄い速さで家に入っていった。
残されたのは疑問符を浮かべた僕と、地に落ちている月乃に羽織らせた上着だけで。
はぁ……。
これで何度目のため息だろう。
日がかわり、郁那が久遠おじさんに連れてかれてから月乃と会話していない。
それ所か部屋に籠ってしまっている始末。
そんな訳で、一人寂しくテレビを見ている。
何とか解決できないものか。
頭をフル回転させ思考するが、いい案は出てこず、いたずらに時が過ぎていく。
項垂れてソファに蹲っていると、お天気お姉さんの声がする。
顔を上げてみると、お姉さんが葉書を読んでいた。
「次はペンネーム『愛よりお金』さん、20代の女性からのお悩みです。
なになに……私には同棲している彼がいるのですが……」
本当に何でもやってる人だなぁ……。
ちょっぴり尊敬。
……てか、愛よりお金な人が恋愛相談するなよ。
「そう言う事は良くある事だけど、軽く考えるのは命取り。ちゃんと言ってあげましょう。
『ちゃんと生活費払えや!!』ってね」
やっぱりお金だったー!!
流石は『愛よりお金』さん……一筋縄ではいかない。
「はい、という事で今日のお便りはこれで終わり。
この『あなたのお悩みすっきり解決……かも』はまだまだお便り募集中です!そこの君もじゃんじゃん送っちゃおう!!」
かもって、随分アバウトですね。
にしても、お姉さんに相談……いいかもしれない。
放送されないと思うけど、やってみる価値はある。
早速葉書を書いて投函した。
それから二日。
まだ僕の相談は放送されない。
そして月乃と話せてない。
僕ってダメだなぁ……。
落ち込んでいると、月乃が部屋に入ってきて、向かいのソファに。
相変わらず目線を合わせてくれないが、避けられはしなかった。
「はい、という事で『あなたのお悩みすっきり解決……かも』のお時間です」
うーん、今日はやるかな?
「一つ目のお悩みです。ペンネーム『ヒカリ』君、十代の男の子からだね」
おっ、遂にきた。
ペンネームは光の読み方を変えただけ……。
月乃に気付かれないよね?
「えっとですね……僕は最近、身近な女の子と仲が余り良くありません。原因は良く分からないのですが、もしかすると彼女の言葉を聞き間違ったのかもしれません。
僕は何をすべきなのでしょうか?
……だそうです。
えー……これはほんのちょっとのすれ違いが起こってるのかもしれないね。今度会った時に、ちゃんと話してみよう。
きっと仲直りできるよ♪」
そうなのか?
だけど、まあ後で話してみよう。
「次のお悩みはペンネーム『ムーン』ちゃん、十代の女の子からだよ」
ん、月乃がピクッと動いた?
気のせいかな?
「私には一緒に住んでいる人がいます。その彼は凄く鈍くて、私の言葉を違う意味で取ってしまって……それ以後ギクシャクした関係なんです。
どうしたら今までの仲に戻れるでしょうか?
……だそうです。
多分これもヒカリ君と同じく、只のすれ違いだね。二人でちゃんと話し合えば上手くいくよ。
二人の気持ちはきっと同じなんだから♪」
うわー、お姉さん格好いい……。
よし、僕も頑張ろう。
そう思い月乃に目を移すと、目線が重なった。
恥ずかしかったが、ここでずらすと意味がない。
ちゃんと向き合うと決めたのだから。
「「あの」」
科白が重なる。
「「あっ、先いいよ」」
これまた重なる。
埒が明かないので、先に言う事にした。
「月乃、まずはごめん。僕が聞き間違ったんだよね?
それで、あの時何て言ったか教えて欲しいんだ」
暫しの静寂が僕達を包む。
だけどそれは直ぐに終わった。
「ううん、私こそごめんね。あの事は忘れてくれていいから……」
あの事が原因なのだから、今さら掘り下げても意味はない。
「うん、分かった」
「ありがと、じゃあこれで仲直りだね♪」
仲直りの証として手を前に出してくる。
しっかりと握手を交わすと、満面の笑顔が咲いた。
これが見れただけで安心している自分がいる。
僕って本当に月乃が必要なのかもしれない。
不覚ながらもそう実感した。
「ねえ光ちゃん、もしかしてヒカリって光ちゃんだったりする?」
突然の問い掛けに驚くも、ぎこちなく肯定する。
すると月乃の目元が柔らかくなった。
聞いてみると
「光ちゃんって、ちゃんと私の事考えてくれてたんだなあ……って思ったら、なんだか嬉しくて」
てへっと笑う月乃がいつも以上に可愛くて、ドキッとしてしまった。
もしかすると、『恋』してるのかもしれない。
そんな思いが頭をよぎった、今日この頃。
ムーンって人の悩みもちゃんと解決するといいなあ……。
終わったぁーー!
今の切実な感想です。何が終わったのかは聞かないで下さい。……色々とあったんで。
それでは、失礼致します。