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閑話 渚の傍らで

 結婚式。

それは愛し合う男女が永遠の愛を誓い合う場。

それは俺達にとっても例外でなく、今こうして向かい合っている。


 ウェディングドレスを着た彼女はとても綺麗で、この日を迎えられて本当に良かった、そう強く実感する。


 長い間、迷い続けてきた。

長い間、悩み続けてきた。

その末、辿り着いた自分の居場所。

自分のすぐ横にいた、大切な場所。


 大勢の知り合いからの祝福の中、俺達は誓いのキスを交わした。






「…川、……瀬川」


 自分の名を呼ぶ声がする。


 目を開けてみた。

眼下に広がるは至極普通な授業風景。

教室にいるのはおよそ30人ほどの生徒と、赤鬼の如く怒りを顔に出した教師1名。


 彼、榊原さかきばら教諭は授業中にもかかわらず、惰眠を貪っていた俺が気にくわないらしい。

何度か俺の名を呼び目が覚めたのを確認した後、不気味な笑みを浮かべ


「廊下に立ってろ」


嘲笑うかの様に吐き捨てた。



「ホント、あんたは榊原に目の敵にされてるわねぇ」


 授業終了後、教室の中に入った俺に浴びせられた言葉はいつもの皮肉の混じったこいつ、柏崎 渚の言葉。


 渚なりに気を使っているので、言い返すに返せない状況。

結局、今回も適当に流した。


「そうだっ、今日家来ない?母さんが『皓一君ぐらいの美形がいないと飯が旨くない!』ってうっさいのよ」


 渚はいつもそうやって俺を家に招き入れる。

断る理由もないので、いつもお邪魔になっている俺が言える立場にいるかどうかは不確かであるが。


「ん、じゃあそうさせてもらおうかな?」


「うん!今日は私が夕食作るからいっぱい食べてよ」


 ああ、期待していると渚に目を移す。


 腰まで伸びた黒髪。

長い睫毛に黒く大きな瞳。

すらっとした鼻だちに、ふっくらとした小さな唇。


 天使を鏡に写した様な美少女(自称)が俺の2人いる幼馴染みの1人。


 もう1人は柏崎 雨琉。

雨琉は渚の双子の弟。

しかし性格から頭の善し悪しまでまったく一致せず、今は町の方の進学校に行っている。

なんでも教師になって、子供達の道標になりたいらしい。



 因みに俺は瀬川 皓一。

職業は惰眠家…じゃなくて高3。

成績もやる気も非常に低い為、進学は考えてない。



 時は流れ、放課後。渚に促されつつ1度帰宅し、母さんに渚に厄介になってくると告げる。

俺の両親は放任主義なので、嫌な顔1つせずに見送ってくれた。


 渚は母さんに一礼し、俺の手を強く握り締めて歩き出す。


 面白い奴。

そう思いながら渚の手を握り返し、並んで歩いて行った。



「そうそう雨琉ったら皓一、皓一って煩いのよ。いっその事、あいつのお婿さんになってくれない?」


 俺達はさっきからこんな何でもない馬鹿話に花を咲かせている。


 雨琉は受験勉強に勤しんでいて、食後少し話せたかと思ったらすぐに自室に籠ってしまった。


 とまあ話しは変わるが、渚の手料理は頬が落ちるほど美味しかった。


 彼女も俺がご満悦といった表情をしていると嬉しそうに笑っていたので、来て良かったと実感する。


 こんな日々が永遠に続けばいいのに…。

そんな非現実な願いが浮かぶほど、幸せな空気が俺達の周りを漂っていた。



 そんなこんなで明日は卒業式。

とうとうこの学び舎から飛び立つのか…と惜別の思いで学校全体を眺める。


 所々ひび割れ、汚れた校舎。

大きなケヤキと1列に整列した桜。


 大それた物じゃない、極普通な学校。

だけど、そこには沢山の思い出が詰まっていて。


 桜咲き誇る春には渚と一緒に屋上で1日中蒼空を眺めた。

太陽輝く夏には文化祭で馬鹿をやった。紅葉もえる秋にはコッソリ焚火たきびで焼芋を作った。

雪舞い落ちる冬にはストーブの周りで談笑した。


 どんな時も傍らには渚の姿があった。

目を瞑れば浮かび上がる渚の豊かな表情。

笑い顔、怒り顔、泣き顔が晴れの日も、雨の日も、曇りの日も、嵐の日も隣りにあった。


 俺は四六時中、渚の事を考えていた気がする。


 もしかすると、これが『恋』という物なのかもしれない。


 だけど渚には許婚がいる。俺なんかよりもずっと格好良くて、将来性もある奴が。


 そんな状況下で渚が俺と付き合う確率など皆無に等しい。

いや、絶対に有り得ないだろう。


 この気持ちは自分の胸の中にしまっておこう。

そう決心した。



 高校卒業後、俺はイギリスに行く事に。


 父さんは世界でも名を轟かす武道家で護衛人、つまりボディガードをしている。

今度はイギリス王家の護衛顧問として働く事になったのだ。

 その際、俺の話を現英国王に話したところ痛く気に入り、連れて来るようにと命ぜられたらしい。


 もう渚と会えなくなるのか…。

そんな惜別の思いが頭の中に走った。


 このまま渚に自分の気持ちを隠し通すのか?

このままで納得してイギリスに行けるのか?


 答えは否、だ。

振られてもいい、だけどこの思いを伝えたい。


 気付いたら渚の元に走って、思いを告げていた。


「……んとさ…私、皓一の事、そんな風には…思えない、かな…」


 振られる覚悟はできていたが、実際に振られるとなると話は変わる。


 今までの丁度いい距離で良かったのかもしれない。


 それから数週間後、俺は逃げる様に日本を発った。



 向こうでの日々は決して楽な物ではなかった。

護衛を任された第二王子であるラミエル王子は自由気ままな人で、俺を連れ回し世界各国を飛び回ったのだ。 ラミエル王子は無類の格闘技好きで行った国々の格闘技を極めさせられ、それらを自分なりに昇華させて護衛に役立てていた。


 忙しく充実した毎日。

だけど胸に穴が開いた様な物悲しい感情が溢れ出して。


 どんなに言い聞かせても、どんなに忘れようとしても渚の笑顔が、笑い声が浮かんでくる。


 自分の感情を押さえる為、徹底的に体を鍛えた。

只がむしゃらに、無理矢理に。


 そんな中、父さんの契約期限が終わった。

2年後、俺が20歳の時であった。


 王は渋り、契約期限の延長を求め、父さんは悩んだ末、俺を日本に帰す事を条件に王の交渉に応じた。



 帰国した俺を出迎えてくれたのは、雨琉だった。

渚はやっぱり来ていない。


「なあ皓一、お前に聞きたい事があるんだ」


 車を走らせながら雨琉が問う。


 何だ?と聞き返す。


「姉ちゃん振ったって本当かよ」

 はっ?

意味が分からない。


「お前があっち行ってすぐ、強がった表情で言ってたんだ。『いや〜皓一に振られちゃったよ〜。やっぱり私じゃ不満だったんだね〜』ってさ」


「雨琉、俺をからかっているのか?逆だよ逆。俺が告白して振られたんだよ」


 その冗談は俺への当てつけか?

だったらふざけんな。


「はっ?何言ってんのお前。お前が振ったからあんなにギクシャクしてたんじゃねぇのか」

 冷静沈着な雨琉が突然声を高らげる。

この様子を見るに雨琉はからかっている訳ではないだろう。


 となると渚が出鱈目を言った事になる。

しかし何で?

いくら考えても答えは見付からなかった。



 重い空気が流れる中、俺達は渚達の家に到着した。


 玄関を抜け、床の間に入る。

そこにも渚はいない。


 聞く所によると少し前に自室に籠ってしまったという。

この何とも言えぬ違和感を解消する為、渚と直接話さなければならない。


 そう思って渚の部屋の前まで来てみた。



「渚、俺だ。ちょっと入ってもいいか?」


 ドアをノックしながら問い掛けた。


「……うん、いいよ…」


 パッとしない返事だが、肯定には違いない。



 部屋の中で渚はベッドの上にクッションを抱いて座っている。


 置いてあった座布団に腰を下ろし、気になっている事を聞いた。


「雨琉から聞いたぞ。何であんな嘘ついたんだ?」


 渚は只俯くだけで、何も言わない。


 だんだん苛立ってきて、


「渚、何とか言えよ」


強い口調で怒鳴ってしまった。


 しかし渚が口火を切る事はなく、時計の針がいたずらに時を刻むだけで。


 半ば諦めて腰を持ち上げる。

そのまま部屋を出ようとすると、渚に引き止められた。


 うざったく感じ、渚に何か言おうと振り返る。


 だけど、何も言えなかった。渚の頬が涙で濡れていたから。



 渚が落ち着くのを待ち、もう1度問い掛けてみる。


「……あのね、私に告白したって知られたら、皓一が責められるんじゃないかなって…」


 そんな事…。


「それにイギリス行くのに、悪いレッテルを貼られるんじゃ皓一があんまりだって思ったんだ…」


 そんな事…どうでもいいのに…。


「なあ渚、お前は何か言われなかったのか?その…相手の人に」


「ううん…言われ、なかったよ」


 渚は俺に気を使っているのだろう、言葉を濁す。


 「なあ、何でそんなに俺を気遣う?俺に何を求めているんだ?」


 気付いたら、そう言っていた。


「何でって、何を求めてるって……私は…皓一の事が好きなんだよ、許婚何て関係ない、只、皓一が好きなの」



 衝撃が駆け抜けた。


 渚が俺の事が好きだった何て…。

知る由もなかったから。

「ねぇ皓一、我が儘だし自惚れだって分かってるけど…まだ私の事好きだったら、その…付き合ってくれるかな」


 渚が言い終わるが早いか、俺は彼女を抱き締めていた。


 お互いの気持ちが通い合い、俺達の影は重なった。



 それからという物、俺は働きに働いた。

無論、渚との関係を認めてもらう為に。


 とは言ってもつまらさ故に普通の企業はやめてしまった。

結局、世界各国での経験を生かし、格闘技でファイトマネーを稼ぐ事に。


 あらゆるプロ試験を受け、手当たり次第試合をする。

次々と勝ち進み、気付けば十数個のタイトルを手にしていた。



 ようやく経済的に渚を養える様になり、おじさんに俺達の事を許してもらう為、お願いしに行った。


 最初は正面に聞いてくれなかったおじさんも、毎日通うと


「渚を悲しませたら許さん」


と言い、ある条件を呑む事で認めてくれた。

 俺達の努力が実った瞬間だった。



 永遠の愛を誓い合ったこれからの道中は厳しいだろう。

だけど、それ以上に面白いに違いない。

いや面白くするんだ。


 こいつと一緒に一生笑って生きていきたいから…。

 はい、という事で投稿です。

ぶっちゃけ、今週は書くの止めようかと思ってました。

部活の大会もあったもので。


 しかし、つい先週誓った事をすぐ破るのは人間としてどうなのだろう?


 頭の中からそんな問いが聞こえたので、体に鞭を打ち筆を取りました。

お陰様で腕が上がりませんが…。


 と、今回は皓一目線ですね。

コメディーのコの字さえ見つかりませんが、気にしないで下さい。


 そんな余裕はなかったんです…。

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