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アレクサンドラVS料理7

 しかし、まあドラゴンの恋愛感については、とりあえずまあ、いい。

 問題は食事だ。

 これからは二日に一度はルシェルカンド風味の料理をアレクサンドラの為に用意するようにしてくれると言ってくれたが、その手間が申し訳ないうえに、残ったあまり好みでない食事を食べさせるのも悪い。

 アレクサンドラのつわりは、残念ながらいつ終わるかわからないのだ。それどころが日が経つごとに重くなってさえ来ている。

 なんとかして、もっと手軽かつ簡単で、みんなに迷惑をかけない方法で、自分の分の食事は用意出来ないものだろうか。


(……万物を見通すドラゴンであるノーティなら、何か良いアドバイスくれるかしら)


【わあ、へんなむしー。おいしいかな? ……うわ、にが! したが、したがしびれるよう、アレクサンドラ~】


 ……どうも、期待できなそうだ。


「だから、得体のしれない虫を口にしちゃいけないっていつも言ってるでしょ! ちょっと来なさい! オシュクルを通じて、シュレヌに食べて大丈夫な虫か聞くから」


【えーやだあー。おかあさんに、おこられるよー。となりにはおとうさんもいるのに】


「それで体調悪くした方が怒られるわよ! ほら、行くわよ」


 尻尾をびたんびたん降って同行を拒否するノーティは無視して、お腹の辺りを脇に挟むようにして、前を歩いているオシュクルの元へ連れていく。


「……ん? アレクサンドラ。どうした。……まさか、具合が悪いのか!? 背負うか!?」


「……違うわよ。ノーティが変な虫を食べて、舌がしびれてるらしいから、シュレヌに話を聞こうと思って」


【うそだよ、おかあさん! ぼく、むらさきときいろの、まだらもようの、へんなむしなんかたべてないよ! アレクサンドラがうそをついているんだよ!】


「………ふーん。ノーティは私を嘘つき呼ばわりするのね」


【あ、アレクサンドラ?】


「ノーティが自分が悪いことしたのに、人を嘘つき呼ばわりするような、卑怯なドラゴンだったなんて、残念だわ」


 慌てるノーティの傍でわざと悲しそうに目を伏せると、ノーティは目に見えて狼狽えだした。


【アレクサンドラ……その……今のは】


「私は、悪いことをしたノーティを言いつけようとしたわけじゃなく、純粋に変な虫を食べたノーティの体が心配だから、シュレヌのもとに来たのに……」


【……アレクサンドラ……】


「でも、そんな心配ノーティには伝わってなかったのね……唯一無二のドラゴンから嘘つき呼ばわりされる【トゥズルセア】なんて、【トゥズルセア】失格だわ……今からでも、私ノーティの【トゥズルセア】の立場を返上した方が……」


【うわあああん! ごめんなさい! ごめんなさい、アレクサンドラ! うそつきだったのは、ぼくのほうだよ。あやまるから、トゥズルセアをやめるなんていわないで!】


 わんわんと泣き出しながら、ノーティは必死にアレクサンドラにすり寄る。


【かわりのトゥズルセアなんて、いないよ! ぼくのトゥズルセアは、たったひとり、アレクサンドラだけなんだよ! だからはなれていかないで!】


 少しやり過ぎただろうか? ……いや、躾は大事だ。ここで甘やかしたら、ノーティ自身の為にならない。

 ここは心を鬼にして、しっかり反省させねば。


「……それじゃあ、ノーティ。よい子のノーティは、お母さんに自分から事情話せる?」


【……え】


「嘘つきを反省したなら、本当のことを打ち明けないとだめなのよ? よい子ならできるわよね」


【……でも……】


「大丈夫。しっかり反省したなら、お母さんもそれほど怒らないわよ。さあ、ノーティ。よい子だから行ってらっしゃい。ここで見守っていてあげるから」


 頬にキスを落として鼓舞すると、ノーティは尻尾を股に挟んで項垂れながらも、シュレヌのもとへ進んだ。

 まあ、聡いシュレヌのことだから今のアレクサンドラとの会話で既に状況は把握しているはずなのだが、その辺りに気づかない辺りノーティは何だかんだで子どもだ。


(全く……ドラゴンの子どもって精神年齢高いのか低いのかわからないわね)


 肩を竦めながら、ノーティがシュレヌから鼻先で小突かれているのを眺めていると、不意に視線を感じた。


「……どうしたの? オシュクル」


「いや……お前は、腹の子の良い母になるだろうと思ってな」


 心底感心したように告げられた言葉に、アレクサンドラは思わず頬を赤く染めたのだった。




【うえーん。アレクサンドラ。こわかったよー】


「よしよし、ノーティ。えらいわ。ちゃんとお母さんに報告できたわね。……それで、食べても大丈夫だって?」


【うん、おなかはこわすことはないって】


「安心しろ。寧ろ腹には良いくらいだ」


 隣でシュレヌの説明を聞いていたオシュクルが、口を挟む。


「タアハ虫は、この辺りではしばしば腹下しの薬に使われている。乾燥させたものを、煎じて飲むんだ。ひどく苦くてまずいが、よく効くから、覚えておくといい」


 ……何だか、今、とんでもない爆弾発言を聞いた気がする。

 切実に、知りたくなかった。そんなこと。

 この辺り一帯では、けしてお腹は壊すまい。

 ノーティの頭を撫でてやりながら、アレクサンドラは一人肝に銘じた。


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