アレクサンドラVS料理6
エルセトの言葉にクイナは少し考えこんでから、最近よく見られるようになった花開くような笑顔で親指を立てた。
「……大丈夫……私が、エルセトを愛してるから……問題ない」
「ーー問題大有りですぞ! というか、クイナ、貴女、先日それがしに不整脈の相談に来て以来、おかしいですぞ!」
「不整脈、違う……あれは、恋のときめき……だって
エルセト見てる時、だけ、だから……近くて、グゥエンでいっぱいで、気付かなかった……だけど、私、エルセト好き……大好き」
「そんなこと言い出すからおかしいと言ってるのです! ……ああ、もう、フレムス! そんなところで気配消して草生やしてないで、クイナになんか言ってやって下さい!」
「……ええ。ここで俺にふるんデスか。もしかして、そうやって見せつけてるつもりデスか。……俺のことは放っておいてクダサイ。俺は、ただの空気デス。モブデス。……なんでエルセトには、気配殺しても気付かれるのカナ……いつもいつも……」
「ーーなんで、貴方達は
いつもそうやって面倒くさく拗れるのですか! 否、拗らせてるのは今更だからもう慣れましたが、それにそれがしを巻き込むのはやめて下さい!!」
横で繰り広げられる、三角関係の模様をアレクサンドラは横目で眺めながら、リゾットを口に運んだ。
フレムスには悪いが、親友の恋を応援したいアレクサンドラとしては、エルセトには是非ともこのまま押し切られて欲しいところである。
なお、遊動の旅のメンバーも7対3で、クイナの未来の夫予想はエルセトが優勢だ。
(参戦するのでなく、ただでさえ薄い存在感を殺していないふりしちゃうのだもの。望みは薄そうよね)
まあ、フレムスには、彼のトゥズルセアであるウィルカ(♀)がいる。今まで散々粗雑に扱っていたらしいので、もういっそ種族の壁を超えて嫁にするくらいでちょうど良いのではないだろうか。
(そう言えば、ドラゴンの恋愛感情とかってどうなってるのかしら……番であるグゥエンとシュレヌは、そんな熱い関係にも見えないけれど)
明日でノーティに聞いて見ようか。そんなことを考えながら、アレクサンドラはリゾットを飲み込んだのだった。
【え、おとうさんとおかあさんらぶらぶだよ。みてて、わからない?】
翌朝の行進で、昨日の疑問についてノーティに聞いてみると、返ってきたのは意外な答えだった。
「え、そうなの?」
【だって、おとうさんとおかあさんはつがいだもん。つがいはいったいだけなんだよ。うんめいのあいてなんだよ。だからおとうさんとおかあさんはいつもよりそってるでしょ?】
確かにグゥエンとシュレヌはいつも傍にいるイメージはある。今もまた、隣あって行進をしている。
しかし。
「……グゥエンはむしろクイナにべったりよね」
普段の怖さはどこへやら。額をクイナにこすりつけて甘えるグゥエンの姿に、アレクサンドラは首を捻った。
【だっておとうさんとクイナはトゥズルセアだもん。トゥズルセアはひとりだけなんだよ。うんめいのあいてなんだよ】
「………それ、番の時も言ってなかったかしら?」
【しょうがないよ。そういうものなんだもん。ぼくにとって、アレクサンドラはうんめいのあいてで、いちばんたいせつでだいすきだけど、つがいもうんめいのあいてでいちばんたいせつでだいすきなんだもん。まだ、ぼくのつがいはうまれてないけど】
分かるような、わからないような。
「……うーん。それじゃあ、ノーティの言う番は、私にとってはオシュクルのことよね。私が、オシュクルと仲が良いと嫉妬はするの?」
【アレクサンドラがぼくがいるのにオシュクルとばかりなかがよくて、ぼくにかまってくれないなら、するよ。でもぼくがいないところで、なかがよいなら、いいかな。つがいなら、しかたないよ】
「……そういうものなの?」
【あ、でもほかのどらごんとなかがよいのは、やだ! おとうさんでもおかあさんでも! ぼくのつがいだって、ゆるさないよ! だってアレクサンドラはぼくのトゥズルセアだもん!】
想像だけでぷんぷんと頬を膨らませて拗ねるノーティの頭を撫でてやりながら、アレクサンドラはお腹の子どもが生まれた後はどうなるのだろうか、と想像してみた。
子どもにかかり切りになったアレクサンドラに、拗ねるノーティの姿が目に浮かぶようだ。……それとも子どもだからしかたないよと言ってくれるだろうか。
まだ一人目だと言うのに、何だか既にもう一人産んでいるような気分だ。……ノーティには頑張って「お兄ちゃん」になってもらわねば。
【あ、でもウィルカは、フレムスにかまわれなさすぎてこじらせちゃってるから、ぼくらのにんしきとは、またちがうよ。フレムスにちかづく人はたいていてきにみなしてるから、きをつけてね。じぶんがいないときでも、ちかづいたひとは、においでわかるんだって。すごい。……アレクサンドラもけいかいされてるみたい】
……フレムスがクイナを射止める道は、ますます険しそうだ。




