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アレクサンドラVS料理4

※調理担当を、アフカから具体名出さないように訂正しました。

 そう言ってアレクサンドラは、オシュクルの口の中にリゾットが入ったスプーンを押し込んだ。

 それは物理的にオシュクルの口をふさいでしまおうとした結果だが、実は別の思惑もあった。


(こんなに美味しいリゾットを食べたなら、きっとオシュクルもルシェルカンド風の味付けを気に入って、みんなに広めてくれるはずだわ)


 遊動の旅の人々の、食に対する無関心の根っこは、トップであるオシュクルがあまり食に関心がないからだとアレクサンドラは常々思っていた。王であるオシュクルが質素な食事を好むからこそ、皆上に習っているのだと。

 だから、普段の食事状況を改善するには、まずはオシュクルの食生活を改善すべきなのだ。

 自分だけ、特別なものを用意してくれる気持ちはありがたいが、それではやはり食事の準備の効率が落ちるし、何よりアレクサンドラ自身がどこか疎外感を抱いてしまう。

 やはり、美味しいものはみなで共有してこそだ。これを機に、オシュクルが美食に目覚めてはくれないだろうか。

 アレクサンドラは期待に満ちた瞳で、じっとオシュクルの反応を待った。

 しかし。


「…………ああ……まあ、うまいな」


 しかし、口内のリゾットを飲み込んだオシュクルから返って来た言葉は、思いの外感動が薄いものだった。


「……口にあわなかったの?」


「……いや、うまいぞ。普段は丸焼きにするフップリ鳥をこんな風に食べるのも、悪くないな。胃腸が弱った時に良さそうだ」


 違う。こんな反応を期待していたわけではない。

 自分はもっとこう……おもわず飛び上がってしまうくらいの感動を期待していたのだ。

 それなのにオシュクルは、ただ小さく頷いただけで、もう一口食べようとすらしない。

 これは一体どういうことなのだろうか。普段の食事なんかより、よっぽど美味しいのに。


「オシュクル様……下手に誤魔化さずに、素直に言ったらいかがです? ……もの足りないと」


「……いや、しかしこれはアレクサンドラの郷里の料理で、エルセトが試行錯誤して作ってくれたものだから……」


「それがしへの配慮は結構。そもそも、オシュクル様の感想は、それがしもまた抱いていたものです故。それにこのリゾットは、それがしがレシピに従わず作り出した代物。これを否定しても、アレクサンドラ様の故郷の料理をけなしたことにはなりませぬぞ」


「しかし………」


 煮えきれないオシュクルにエルセトは大きくため息を吐くと、再びアレクサンドラに向き直った。


「アレクサンドラ様……貴女様が善意からこれをオシュクル様に進めて下さったのは解りますが、残念ながらこの味はそれがし達には合いません」


「……どうして? こんなに美味しいのに!」


「確かにこのリゾットは、それがし達が普段食べるよりも、ずっと洗練された上品な味がします。……それが、それがし達には物足りないのです」


 そう言いながらエルセトは鍋の中のリゾットを、一口スプーンで取って口に入れた。


「モルドラの……少なくともカラム周辺一体で、肉と言えば、ロス肉のことと言っても過言でありません。それがし達は、離乳食として母親が噛んだロス肉を口移しで与えられたくらい、ロス肉中心の食生活を送ってまいりました。ロスは安価で、繁殖がしやすいですからな。アレクサンドラ様が不快に感じるあの香りも、それがし達には当たり前のものなのです」


「あの獣臭さが?」


「あの臭いすら、味の一つと感じてます故……だからこそ、それがし達にはフップリ鳥のブイヨンは、どこか間が抜けて浅く思ってしまうのです。ルシェルカンド特有のハーブの香りも、それがしは苦手です。その辺りは好き好きですが」


 手の中の器を持ち上げて、残ったリゾットの香りを嗅いでみた

 実に良い香りがする。健康で新鮮な鳥の香りと、清涼感があるルシェルカンドのハーブの香りがちょうど良い。

 こんなに良い香りなのに、エルセト達の食欲は変化しないなんて。

 アレクサンドラは眉をひそめて首をかしげた。


「……オシュクルも、この香りは苦手なの?」


「苦手ではないが……同じ汁物ならやはりいつものロスの干物から作ったものの方がありがたいな。一度干してあるから、旨味が強い。肉が柔らか過ぎるのも、物足りない」


「……お肉って柔らかいほど美味しいものじゃないの?」


「私は噛めば噛むほど旨味がにじみ出る、固い肉の方が好きだ。歯の健康にも良い。何より、干して水分を抜いた肉は日持ちがするからな。……そうか、ルシェルカンドでは柔らかい肉の方が好まれるのか……さて、どうやって入手するかな」


 一人また明後日な方向で悩みだしたオシュクルの脇で、アレクサンドラは愕然とした。

 食生活がとんでもなく違うことは知っていた。……だが、そもそもの「美味しい」という認識自体にずれがあるだなんて……!


「で、でも、村に立ち寄る度にご馳走になるお肉は柔らかかったわよ! あまり臭みだって気にならなかったわ」


 村で提供される肉に対して、今までアレクサンドラはあまり考えたことはなかったが、それでも臭みが気になる固い肉ではなかったことだけは確かだ。

 だったらやっぱりオシュクルの舌が特殊なだけで、一般的にはモルドラでも柔らかい臭みが少ない肉が好まれるのではないか。

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