4.
あの日、わたしはママに多大な迷惑をかけただろう。すべての研究は行き詰まり、美術館は閉館、ママは学会から追放され隠遁生活を送る羽目になったはずだ。でも、それはママとわたしとできちんと話し合って、決めたことだった。
あれ以来ママには会っていない。生きているのか死んでいるのかもわからない。ただ、今日は特別な日だった。数十年と海洋を漂い、流されてしまったライラの亡骸を見つけたときは自分でも奇跡のように思われて、意図せず感動してしまった。それまでの道程でダイヤモンドを作るにふさわしい地も見つけていて、亡骸を見つけることよりも、それを作り出すのにだいぶ時間がかかってしまった。もともと子どもで体が小さいうえに、海流の侵食によって炭素として活用できる部分が少なくなっていて、出来上がったダイヤモンドは一カラット未満と、雀の涙にも満たない大きさだった。それでもママなら、きっとどんな宝石よりも大事にしてくれるはずだ。
もし出来上がったら、カンクン水中美術館のピンクの羽衣を召した彫像の手のひらに乗せておいて――そのようにママからお願いされていた。聞くと、ママが初めてその美術館に行ったとき、幼いながらに一番感動した彫像なのだという。そして、ママはこういうふうにも告げた。毎日確認するから――と。
目的の彫像は数十年以上の時を経てすでに苔むしており、とてもではないがママの言っていた記憶の天使とは程遠い気がした。それでも私はその天使の手のひらに珊瑚に埋め込んだダイヤモンドを乗せ、水で流されてしまわないよう海藻の切れ端で結びつけておいた。
すると突然、海面のほうが慌ただしくなった。コバルトブルーの水面近くに二つの影が見える。わたしは急いで離れて、遠巻きにその影を見た。ひとりはもうひとりの手を取り、助けを借りながらあの天使の彫像へと泳いで向かっていく。
ああ――。
わたしは安心した。そして、その場からひっそりと離れた。きっとこれでもう彼女は大丈夫。これが、わたしが彼女に用意した最後の答えだろう。そして、わたしはもう彼女に会うことはない。
さて、今度はわたしのやってみたいことを成し遂げに行こう。晴れてわたしは自由の身になった。新しい生物を作り、新しい問を作りに行こう。
そして、彼らの行く末を見届けよう。
了