stage:スコルピオン伯爵家別宅
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この世界の中心である大国ユーウルムの西部の都市クリューソス。
広い田畑と裕福な家々が並ぶ街の外れに、世界一の富豪と言われるスコルピオン伯爵の冬の間の別宅がある。
伯爵との話を終えたソフィアが応接室を出ると、廊下で待っていたアリベルが駆け寄って来た。
「ソフィア!大丈夫……っあう!」
アリベルは、廊下の絨毯に足を取られて顔面からずっこける。
裾が短いメイド服のスカートが大きく捲れて、中の下着が丸見えになった。
ソフィアとアリベルの味方が1人もいないスコルピオン伯爵の屋敷。
メイドや執事はソフィアとアリベルを完全に無視していたが、派手に転んだアリベルに流石に目を向けた。
「ちょ、ちょっと、見ないでよ!ソフィア、大丈夫?!」
「ええ、少し話をしただけです。アリベル、まだパンツ見えてますよ」
「ふわわ!お、お前ら、見るな!」
ソフィアに言われて、アリベルは捲れたままだったスカートを慌てて直した。
つやつやとした赤い髪と緑の大きな瞳を持つアリベルは、ソフィアの唯一の味方だった。
身の周りの世話から、敵を倒す警護も行う戦闘メイドだが、頭に「ドジっ子」の文字が付く。
対するソフィアは、銀色の胸までかかる長い髪の小柄な少女で、足が不自由で車椅子に乗っている。そして、その両目はいつでも閉じられていた。
地位も財産もない少女だが、この世界を統べる神王の候補だった。
同じく神王候補のスコルピオン伯爵に呼び出され、ソフィアはどんな酷い目に遭うのかと身構えていたのに、スコルピオン伯爵は紳士だった。
声を荒げることもなく、裏取引を持ちかけて来ることもなく。
ソフィアが何を企んでいるのか必死に聞き出そうとしているのはわかったけれど、ソフィアはのらりくらりとかわし続けた。
長時間待たされたアリベルは不服そうな顔をしている。
スコルピオン伯爵もソフィアと同じ神王候補の1人であり、本当はソフィアに尋問のような事をする権限はない。
しかし、今回のことはソフィアが予想していなかったとはいえ、スコルピオン伯爵に問題を大きくされたら、ソフィアの候補者としての立場が危うくなるところだった。
「……ソフィアが招いた異邦人が人を殺したというのは本当?」
アリベルが小声で尋ねると、ソフィアは小さく頷いた。
「ええ、スコルピオン伯爵の私兵団、18人が殺されたそうです」
「じゅ……18人も……?!」
「アリベル、声が大きいです」
「ご、ごめん……でも……」
小銭稼ぎに貴族の私兵団として務めていたこともあるアリベルは、大きなショックを受けていた。
神王の候補者は、異世界から異邦人を招くことが許されている。
この世界に1人も味方がいない人間が候補者に指名された場合でも、異邦人を味方にして候補者争いで戦えるように。
ソフィアには誰よりも信用できるアリベルがいるが、アリベル1人を危険な目に遭わせないために、異邦人を招いた。
「ソフィアは、18人も殺した奴を味方にするつもり?」
「そうですねぇ……」
ソフィアは細い指を白い頬に当てて、首を傾げて考えた。
アリベルの不安も尤もであり、彼女を危険に晒したくないのはソフィアの本心だ。しかし、このまま2人で戦い続けるのは不可能なことも確実である。
「でも、少なくとも、実力は確かでしょう」
ソフィアはアリベルの不安を払うように明るい声で言った。
異邦人を招く時にソフィアはその世界で最強の人間を賢者の石にオーダーした。
石がそれをどんな風に読み取ったのかわからないけれど、強いことは確かだ。
「ソフィア」
「はい」
アリベルに呼ばれて、ソフィアは素直に返事をした。
熱くなりやすいアリベルを止めるのはソフィアの役目だが、今日は珍しく立場が逆転している。
「1人や2人ならともかく……それも良くはないけど、でも、18人よ」
「伯爵は、異邦人が私と出会う前に殺そうとしたようです。突然殺されそうになったのだから正当防衛ですよ」
神王候補者には、候補者争いで役立てるために賢者の石の欠片が渡される。
ソフィアの欠片は、アリベルの首にペンダントになってかかっている。
ソフィアにとって一番安全で信用できる場所だ。
賢者の石の欠片をどう使うかは、候補者各々に一任されているが、神王になるまでは使い道に制限が掛かっていて悪い事には使えない。
今回、ソフィアは異邦人を呼ぶために初めて大きな力を使った。
スコルピオン伯爵は、領地を栄えさせることに賢者の石の力を使っていて、異邦人を招く余力が残っていない。
だから、ソフィアが異邦人を呼んだのに気付いて、自分が不利にならないように異邦人を殺そうとしたらしい。
招いた時に目の前に現れてくれればこんな問題にはならなかったのに、少し離れた所に現れてしまったからスコルピオン伯爵に先に見つかって騒動になってしまった。
「ソフィア、危険よ。その異邦人は諦めた方がいいって。伯爵家の私兵団に任せれば、仲間を殺された恨みでそのまま処分してくれるでしょ」
「いいえ、私が招いた客人です。招待したのだから接待もしてあげないといけませんよ」
その異邦人は地下牢に入っていて、私兵団が見張っていると伯爵はソフィアに教えてくれた。
おそらく、勝手に持って帰れということだろう。
ソフィアが促すと、アリベルは嫌そうな顔で渋々と車椅子を押して地下に向かった。




