休息、ルオーレにて
ロレアーノ王国を滅ぼした俺達帝国軍の元に、西の隣国ザカルシュが帝国に攻め込んできたとの急報が入った。
急いで帝国に帰還しようと主張する諸侯に対してフランツ殿下は、まずは兵に休息を与えるべきだとした。
殿下に言いくるめられた諸侯は休息を受け入れ、帝国軍はルオーレで少しの間休息をとることにしたのだった。
(殿下はいつから、そしてどこまで考えているんだろう……)
多分殿下は帝国が手薄になった時にザカルシュが攻めて来る事を読んでいた。
ザカルシュが攻めて来た報告を聞いても全く動揺していなかったし……。
更に、急いで帰還しようと言う諸侯の主張を一蹴して兵に休息をとらせた。
時間をかけて戻りたいという思惑が透けて見える。
(時間をかければそれだけ帝国の領地が失われる。殿下はそれを狙っているのか?)
帝国の領地が減れば、いずれ帝都も……。
(まさか、それを狙っているのか?)
段々見えて来たかも知れない。
殿下は帝都をザカルシュに落とさせるつもりだ。
となると……。
(皇帝陛下を討たせるつもりなのか……)
皇帝を討たせ、多くの領地を失った帝国。
その領地をとり返し、その功績で皇帝になるつもりか。
ヴィルヘルム殿下はルバリエ方面を攻めていた。
恐らく負けて帰還してくるだろう。
負けて帰って来たヴィルヘルム殿下と、ロレアーノ王国を攻め滅ぼして凱旋してきたフランツ殿下。
そしてそこに帝国の領地を奪還し、帝都をとり返したフランツ殿下。
ヴィルヘルム殿下を推していた諸侯はフランツ殿下へと鞍替えするだろう。
(フランツ皇帝陛下の誕生か……)
何もかもがフランツ殿下の思い通りに行き過ぎている。
……どこから始まっていたんだろう。
恐らくザカルシュが帝国に攻め込んだのもフランツ殿下が何かしたんだろう。
(情報でも流したのかな……?帝国はかなりの兵をつぎ込んでいた。その情報を流してザカルシュを動かした……)
ロレアーノ王国攻めで間引きをしたのも、自分が皇帝になる事が前提だったのかも知れない。言う事を聞かない、使えない諸侯を排除した。
そう考えるのが自然な気がする……。
「アルバート様。大丈夫ですか?顔色が良くないです」
「エルザ……。いや、ちょっと考え事をしてたんだ」
エルザはこの休息の間、ずっと俺の傍から離れなかった。
ずっと考え事をしている俺に寄り添ってくれていた。
「フランツ殿下の事ですか?」
「え?」
「あの方は、恐ろしい所があります。非情な策を用いて将を減らすような事を、進んでやるような」
エルザは見抜いていたのか。
「エルザ。そう言う事はあまり口にしない方が良い」
「誰かに聞かれたら、私は処分されてしまうかも知れませんね」
「わかってるなら、思ってても口には出すな」
「大丈夫です。あの方は私を処分しません。アルバート様の騎士である私を処分する事はあり得ません」
自信満々に断言するエルザ。
その自信はどこからくるのやら。
「これは勘ですが……フランツ殿下は全てお見通しなんだと思います。これまでの事も、これから起こる事も」
「これから起こる事……?」
「何が起こるのかまではわかりませんが……そんな気がします」
確かにあの殿下の事だから、これから起こる事も全部わかっててやっていてもおかしくはない。
「俺は止めるべきなんだろうか」
「わかりません。アルバート様が止めれば殿下は止まると思います。ただ……」
「ただ?」
「アルバート様の騎士としては、止めないで欲しいと思っています」
「その方が俺が出世しそうだからか?」
エルザは謀略とかはあまり好きではなさそうなイメージがあったけど、そうでもないのだろうか。
「似ていますが、ちょっと違います」
「どう言う事だ?」
「アルバート様の騎士として、主の飛躍を一番近くで見たいと思っています」
「それは出世とは違うのか?」
「ただフランツ殿下に取り入って出世するのと、実力で高みに昇るのとでは全く違います」
エルザは俺にその実力があると思っているんだろうか。
「アルバート様なら、どこまででも飛んで行ける。私はそう思っています。……恐らくフランツ殿下も」
「買い被りすぎだ」
「そうでしょうか?フランツ殿下はそれすらも考慮に入れて動いているように見えます」
「どう言う事だ?」
俺に飛躍するだけの力があるとして、それすらも考慮にいれて殿下は何をする?何をしている?
「アルバート様は、フランツ殿下が皇帝に即位された後、何をしたいか聞いたことはありますか?」
……ない。皇帝になりたいとはいつも言っていたが、じゃあ皇帝になった後どうしたいかを聞いたことは、ない。
「皇帝になる事が目的。そこが終着点。では、その皇帝を動かすのは、誰ですか?」
……俺、なのか。
「そこからアルバート様の飛躍が始まるのだと、私は今から楽しみにしています」
「エルザって結構黒い一面もあるんだな……」
初めて見たかも知れん。
「見損ないましたか?」
「……いや。綺麗なだけの人よりは良い、かな」
「そんな人はいません。うまく隠しているだけです。そう言う人は信用なりません」
「確かに。それもそうだな」
それから三日の間兵を休ませた俺達帝国軍は、帝国に向けて帰還し始めた。
「殿下。帝国領に入ったらどうするおつもりですか?」
「多分ルバリエに攻め入っていたヴィルヘルム兄さんが敗走してくるだろうから、それと合流しようかな」
「では、一旦シュターブで合流するようにしましょう。恐らくかなりの領地が奪われているでしょうから」
「そうだね。そのように伝令を出しておこう」
殿下は兵を急がせなかった。
俺達の行軍は、とても自分達の国が攻められているとは思えないような、ひどくゆったりとしたものだった。
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