04②オフェリー庇う
(どうして、使い捨ての駒のはずの私に、シュークリームの食べ方を教えてくれるの?)
オフェリーはわけがわからないまま、トリスタンの食べ方をじっと見つめた。
さすがに王弟だけあり、見惚れるほど完璧な所作だった。
けれど、マリレーヌが帰り際に、そっと耳元で囁いた。
「きっと、身分の高い家に潜入するときに、マナーが必要になるのですわ。公爵令嬢にしたのは、これから重要な任務を任されるのよ。決して、オフェリー様が気に入られてお嬢様になったわけではありませんことよ」
オフェリーはそう言われて、なるほど、と納得できた。
だとしても、こうしてドレスを買ってもらい、美味しいお菓子も食べられている。
しかも、家庭教師までつけてくれると言った。
(してもらったことには、ちゃんとお礼をしないと……その重要な任務とやらをやり遂げたら、ここから出て行けばいいわよね)
◆◇◆
その数日後、ギラマン公爵家のサロンには、マナー教師の姿があった。
「さぁ、これからミルフィーユの食べ方を教えますわ」
オフェリーと教師の前には、苺が飾られたミルフィーユが置かれている。
(シュークリームじゃないのね。でもこのお菓子もずいぶん食べにくそうだわ)
講義が始まろうとした、そのときだった。
「――あら、ちょうどよかったですわね」
優雅な足取りで現れたのは、マリレーヌだった。
「私も一緒に講義を受けたいですわ!オフェリー様、いいわよね?あなたも一緒に学べる人がいた方がやりやすいでしょう?」
オフェリーの答えも待たずにソファに座ると、メイドに自分の分のお菓子も持ってくるように命じた。
マナー教師は肩をすくめただけで、そのまま授業を進めていく。
「まずは私がいただきますので、皆様は私の真似をするように召し上がってください。」
ミルフィーユを横に倒す。小さく切り分け、崩れた部分はクリームで絡め取るようにして、少しずつ食べていく。
「さぁ、同じようにどうぞ」
オフェリーは慎重に横に倒し、少しずつ切り分ける。マナー教師の所作をあっさりと真似てみせた。
(なるほどね……思ったより簡単だわ)
そんなオフェリーに教師が一瞬言葉を失い、マリレーヌは食べるのも忘れて見つめていた。
「とても完璧ですわ。優雅ですし、注意するところは全くありません」
マナー教師がニコニコと感心したように言った。
「本当は食べ方を知っていたのではなくて?一度でそんなに綺麗にいただけるわけがないわ」
マリレーヌは明らかに不満げな表情で、キッと睨みつけた。
「ミルフィーユを食べたことはあります。でも、フォークで食べたことはなかったです。こうして食べた方がテーブルや床が汚れなくていいですね」
他のお菓子も運ばれてきて、次々と作法を教えられる。
そのすべてを難なくこなしてしまうオフェリーに、マリレーヌは「ちっとも面白くないわ!」と吐き捨て、途中で席を立った。
授業が終わると、隅に控えていたカーラーが興奮した様子でオフェリーの元に来た。
「お嬢様、素晴らしかったです。とても初めてとは思えないほど完璧なマナーでしたよ。お疲れになったでしょう? 気分転換にお散歩してきたらいかがですか。ちょうど中庭では薔薇も見頃ですし……」
オフェリーは頷く。一人、ぶらぶらと庭園を散歩することにした。
すると、マリレーヌが誰かを叱責する声が聞こえた。
「ちょっと!どこ見て歩いていますの!私にぶつかるなんて失礼なっ!……異能者なんて気持ち悪いだけですわ!そんな子たちが堂々と歩いているなんて、目障りなのよ。トリスタン伯父様も物好きですわ。こんな怖い子たちを集めるなんて……」
オフェリーは声のする方へ足を向けた。そこには自分より少し年下の少女と少年が、悲しそうな顔で下を向いていた。
(この子たちが私と同じ異能者ということ?……可哀想に。弱い者いじめをする子は、大嫌いよ)
自分がルードの屋敷で罵倒され続けていたことを思い出す。
オフェリーは、思わずその子たちとマリレーヌの間に立ちはだかり、叫んだ。
「怖いのはマリレーヌ様だわ!異能者だからって気持ち悪いなんて、口にするべき言葉じゃありません。ここは公爵様のお屋敷です!堂々と歩いてなにがいけないの?」
いつもお読みいただきありがとうございます。
更新についてのお知らせです。
明日からはサブタイトルを付け、しっかり読める分量(3,000文字以上)を1日1回、夕方(18時前後)に更新していきます。
引き続きお楽しみいただけたら嬉しいです!




