04①オフェリー見下される
オフェリーを驚いたように見ていたダリルは、肩をすくめて目を逸らした。
すいぶん綺麗な女の子だと、この時初めて気がついた。
同時に痩せすぎていることや、顔色が良くないことも心配になってくる。
「悪くないよ。うん、かなり良い」
しかし、出てくるのは優しい言葉ではなく、かなり不器用な褒め言葉だけ。
実際のところ、ダリルは女の子に対する褒め方がよくわからない。
「そうだな……よく似合っている」
トリスタンの声には感情がこもっていない。
低い声でぼそりと言ったため、機嫌が悪いのかとオフェリーは勘違いしてしまう。
しかし、彼は元々、感情をあまり表に出さないだけだった。
(二人ともそっけない言い方……やっぱり似合わないわよね。こんな華やかなドレス、着たことないし。無理して褒めてくれたんだわ)
オフェリーは小さく息をついた。
そのとき、ダリルがぼそりと呟く。
「父上、レモン色の靴も買うべきでは?女の子はドレスとお揃いの靴を履いています。ほら、マリレーヌも水色のドレスに、同じ色の靴ですよ」
「ああ、そうだな。カーラー、靴職人に連絡してくれ。至急だ」
男性の靴は黒か茶が定番だ。
その感覚で選んでいたトリスタンは、違和感を覚えなかった。
オフェリーが履いているのも、先ほど彼が買ってきた既成の黒い靴だ。
他の色は、注文しなければ手に入らない。
「はい!こんなに美しいお嬢様ですから、足元まで完璧にしなければいけませんわね」
「あ、あの……」
オフェリーは戸惑ったように視線をさまよわせる。
「その……あまり、似合っていないと……思ったのでしょう?なのに、なぜ靴まで買おうとするんですか?」
「は?なんでそんなこと思うんだよ!俺はちゃんと『かなりいい』って言っただろ?」
「ん?私も『よく似合っている』と言ったはずだが?」
カーラーはくすくすと笑いながら、オフェリーに教えた。
「旦那様たちは、女の子にどう接したらいいのかわからないんですよ。奥様はだいぶ前にお亡くなりになりましたし、元々あのような話し方をなさいます。あれでも最大級に褒めていたのですわ」
(そうなの?……なんてわかりにくいの)
オフェリーはためらいながらも、お礼を言わなければと思い立つ。
「たくさんのドレスをいただき、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げた。
トリスタンは軽く頷くだけだ。そこもやはりそっけない。
美しい顔は威厳を崩さず、眉一つ動かさなかった。
(……やっぱり、ちょっと怖いわ)
オフェリーは心の中で呟いた。
「いつまでそこに立っているつもり?ほら、ここに座れよ。俺の隣」
ダリルは、どこに座ったらよいのか迷うオフェリーに声をかけ、二人掛けのソファの端に移動する。
大きなソファなので、余裕で三人は座れそうだ。
「えっ!隣……」
戸惑いながらもダリルの隣に座ると、マリレーヌが一瞬だけ顔を歪ませ、鋭い目つきでオフェリーを睨む。
オフェリーが隣に座ると、デザート皿にお菓子を次々と取り、ダリルがオフェリーの前に置いた。
「お前、せっかく悪くない見た目なんだから、もっと食べた方がいいぞ。もう少し太らないと倒れそうで、見ていられない。さぁ、食べろ!」
ダリルの口癖のひとつに『悪くない』がある。これは褒めているつもりの言葉だ。
マリレーヌは甲斐甲斐しく世話を焼くダリルに、甘えた声を出す。
「ず、ずるいです。ダリル様、私のお皿にもお菓子を取ってくださいませ」
「どうして?マリレーヌはいつも自分でお菓子を勝手に取ってるだろう?好きに自分で取りなよ」
マリレーヌはまたもや、オフェリーを一瞬、睨みつけた。
香り高い紅茶が注がれ、ダリルはオフェリーが食べるのをじっと待っていた。
トリスタンまで見つめているので、どうにも落ち着かない。
二人はただ、早く食べてほしいだけなのだが。
注目を浴びているオフェリーが気にくわないマリレーヌは、わざと食べにくいお菓子を手に取った。
「このシュークリームは特にお勧めですわよ」
マリレーヌの言葉に、オフェリーはシュークリームに手を伸ばす。
ぱくりとかじりつくと、生クリームとカスタードが口の中でとろけ合い、思わず頬が緩むほど甘くて美味しい。
けれど、くすくすと笑ったのはマリレーヌだった。
「あら、はしたないですわ。まさか公爵令嬢になった方が、平民のようにかじるなんて……これはこうして、ナイフとフォークでいただきますのよ。これではお茶会には到底参加できませんわね」
オフェリーは恥ずかしさに顔を真っ赤に染めた。
ふんっ、と鼻を鳴らしたのはダリルだった。
「俺も手に持ってかじりつくことが多いぜ。要は、美味しく食べれば問題ないだろ」
「大ありですわ!女の子は幼い頃からお茶会で貴族同士の交流を広げますのよ。食べ方がみっともなければ、次からは呼ばれませんわ」
「確かに……そうだな。オフェリーはマナーを学んだことはあるのかい?」
「……ないです。母さんが貴族だったのも、亡くなってから知りましたし、下町で普通の平民として育ちましたから」
「あら。まあ、お可哀想に……これでは、この先とっても苦労しますわね。私、人ごとながら心配してしまいますわ」
マリレーヌが、わざとらしく顔色を曇らせた。
オフェリーは思わず唇をきゅっと結ぶ。
「別に何の心配もいらない。優秀な家庭教師を手配して、今から学べば済むことだ。シュークリームなんて、上の部分を切り離して少しづつ……」
トリスタンは目の前で一口大に切ったシュークリームの上皮を、クリームにつけて食べていく。クリームが減った下の部分も、一口大に。皿にこぼれたクリームは皮ですくい取るようにする。
(どうして、使い捨ての駒のはずの私に、シュークリームの食べ方を教えてくれるの?)




