03②オフェリー同情される
「私には難しいことはわかりかねます。ただ、旦那様からは誠心誠意、お嬢様にお仕えするよう命じられておりますので」
カーラーは眉尻を下げてそう言うと、マリレーヌに一礼した。
マリレーヌは肩をすくめる。
「私はダリル様の従妹ですわ。侍女の立場で、私に帰るように指図しないでくださらない?お茶の時間まで、おりますわ」
カーラーは「申し訳ございませんでした」と短く返した。
オフェリーが湯浴みを済ませ部屋に戻ると、カーラーは早速レモン色のドレスを選んだ。
「少し顔色が優れませんね。でも、この明るい色ならお顔も華やかになりますよ」
オフェリーはあまりの展開に言葉が出ない。一瞬沈黙した後、ポツリと漏らす。
「私はどれでもいいわ……そんな綺麗なドレスは着たこともないから……何が似合うかもわからないもの」
「どんな色もお嬢様にはお似合いですよ。髪も肌も、ここにいればすぐに艶が戻ります。香油を少しお塗りしますね。こうして毎日丁寧にブラッシングして、手入れを怠らなければ、すぐに美しいプラチナブロンドに戻りますよ……」
(そういえば、母さんは綺麗なプラチナブロンドだった。私も同じような色だったのに。ルード伯父さんのところに行ってからは、どんどん白くなって、「おばあさんみたいだ」とマルグリッドたちにからかわれていたっけ……)
レモン色のドレスは、やわらかな布地に優美なレースがあしらわれていて、清楚で上品な仕立てだった。
栄養が足りていなかったせいで痩せすぎてはいたが、オフェリーの本来の美しさは損なわれていない。
「まぁ!とってもお綺麗ですわ。旦那様にお見せしましょうね。サロンでお待ちですよ」
サロンに向かうと、トリスタンとダリル、マリレーヌもいた。
テーブルには四人分のティーカップが並べられている。
オフェリーが来るのを待っていたのか、まだ紅茶は注がれていなかった。
「まあ、とても綺麗ね!トリスタン伯父様もダリル様も、センスがいいですわ。この子にとてもよく似合っていますもの。あなたって、ちゃんとした恰好をすると、まるで貴族の令嬢みたいよ」
マリレーヌがにっこりと微笑みかける。
オフェリーと二人でいた時の無愛想な態度とは、まるで別人のようで、ニコニコと声も柔らかい。
「“令嬢みたい”ではなく、オフェリーはれっきとした貴族の令嬢だ。父親は平民出身の騎士だったが、母親はヴィダル伯爵令嬢だった。そして今は、ギラマン公爵令嬢だ」
トリスタンの言葉に、マリレーヌが大きく目を見開いた。
オフェリーもまた、耳を疑った。
「驚くだろ。俺も今さら、妹ができるなんて思わなかったぜ。マリレーヌ、お前、用もないのによく来てるんだから、オフェリーと仲良くしてやれよ。女同士のほうが、打ち解けるのも早いだろ?」
「えっ?あぁ、確かにそうですわね。私はルーヴィエ伯爵家の長女、マリレーヌですわ。オフェリー様、私が色々と教えて差し上げますわね」
「は、はい。よろしくお願いします」
オフェリーはペコリと頭を下げた。
「ヴィダル伯爵家は、確か没落寸前だと聞いたことがありますわ……お気の毒に。それに、お父様が平民出身の騎士だなんて大変でしたのね。本当にお可哀想。これから仲良くしましょうね」
マリレーヌの声音は穏やかで、オフェリーを労っているように聞こえた。
言葉だけを拾えば、優しさに満ちている。
けれど、その「お気の毒」や「可哀想」という言葉は、どこか上から目線で、オフェリーの胸にかすかな引っかかりを残した。




