02①オフェリー虐げられる
振り向けば、腕を組んだまま、露骨に不機嫌な顔をしたサビーネが立っている。
「ご、ごめんなさい……母さんと一緒だった頃はしたことがなくて……」
「言い訳はいらないのよ。あのあばずれは、貴族の令嬢のくせに騎士と駆け落ちして家の恥を晒した挙げ句、娘を残して流行病で死んだんでしょう?まったく、最後まで迷惑な女ね」
ザビーネは鼻で笑い、オフェリーを見下ろした。
「そんな血を引いた子を、わざわざ引き取ってあげたのよ。感謝なさい。まあ、ただで使えるメイドができたから、悪い話でもないけどね。ほら、ここ。まだ汚れているじゃない!」
指先で示された廊下の隅は、長年染み付いた汚れだ。
「そこは拭きましたけど、それ以上は綺麗になりませんでした」
「私に逆らうんじゃないわよっ!こんなことも満足にできないなんて……本当に使えない子ね。やっぱり駆け落ちなんかする身持ちの悪い女の血を引いているからかしら?ここでは働かないと食事はないからね」
罵倒する声が、容赦なく突き刺さる。
次の日には、突然サビーネの部屋に呼びつけられた。
「オフェリー、私の宝石を持ち出したのはお前ね?」
サビーネの手には、見覚えのないブレスレットが握られていた。
「し……知りません」
「嘘を言わないでよ。廊下の出窓に置いてあったのよ。私はいつも自分の部屋の宝石箱に入れるのよ」
責めるような視線が、まっすぐオフェリーに向けられる。
必死に否定するが、サビーネは鼻で笑った。
「母親が最低なのだもの、子供だってまともなわけないわね」
その言葉に、胸の奥が強く締めつけられる。
結局、ブレスレットはマルグリットが持ち出し、飽きて出窓に置きっぱなしにしていただけだった。
それがわかっても、サビーネが謝ることはなかった。
マルグリットはルードとザビーネの娘で、イザックはその兄だ。
二人は、庭園でオフェリーが落ち葉をかき集める様子を、ニヤニヤと眺めていた。
「ねえ、その服。本当に似合ってるわ。まるでメイドになるために生まれてきたみたい」
マルグリットがあざ笑う。
イザックは、オフェリーがかき集めた落ち葉を、わざと足で蹴り散らした。
「ほら、もう一回だ。最初からやれよ!」
転ばされても、謝らされるのはオフェリーの方だった。
反論すれば叩かれ、黙っていれば陰気だと貶された。
ルードやサビーネはそれを咎めるどころか、ただ楽しそうに眺めているだけだった。
(ここには、味方なんて一人もいないんだ。ルード伯父さんは、初めから私をここで、ただ働きさせるために引き取ったのね……私は騙されたんだ……)
ぎゅっと、胸の奥が締めつけられる。
その瞬間――|庭に植えられたトゲのある植物が、ざわりと揺れた。
(……え?)
風は少しも吹いていないのに茎や蔓がしなり、葉が擦れ合う音が響く。
その違和感に気づいたけれど、考える間もない。
「ぼさっとしてないで働きなさい!」
サビーネの怒声が、容赦なく降り落ちたからだ。
(今のはなに?)
そしてあの日。
サロンではヴィダル伯爵家の人々が寛いでおり、オフェリーはお茶を入れて、メイドのように給仕をしていた。
そしていつもの悪口が始まった。
オフェリーは毎日のように、母を貶されていたのだ。
「お前の母親はふしだらな女だ!私の決めた通りの婚姻をすれば、コートナー男爵から支度金が入ったんだ!あれさえあれば、領地経営の失敗で空いた穴も埋められて、私だってこんなふうに追い詰められることもなかった……全部だ、全部お前の母親のせいだ!」
ルードが醜く顔を歪ませた。




