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異世界ギャル『異世界召喚されたのは勇者じゃなくてギャル五人でした ~魔族に荒らされた世界、でもウチらが来たからもう暗いままじゃ終わらせない~』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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最終話 異世界は、少しだけ明るくなった

 ユノハ湯郷を発つ朝、湯煙はいつもよりやさしく見えた。


 町が劇的に変わったわけではない。

 宿は今日も忙しい。湯守は今日も湯を見ている。女将たちは今日も客を迎える。

 でも、共同湯場のそばには、小さな縁台が置かれていた。


 湯上がりの客が、そこで一杯の冷たい飲み物を受け取り、ふう、と息を吐く。


 その横で、シオンが湯を見ながら低く呟いた。


「……今日は、少しやわらかい湯だ」


 客が振り返る。


「へえ、そうなんですか」


「朝の名残が残っています。急がず入る方が、たぶん合います」


 それだけ言って、シオンは少し照れたように視線を逸らした。


 るなは、それを見て笑った。


「……言えるようになったね」


「まだ硬いけどね」

 ももかが言う。


「でも、届いてる」

 みうが嬉しそうに頷く。


 旅館の前では、カヤが客を見送っていた。

 その笑顔は、以前のような“崩れないための笑顔”ではない。

 ほんの少しだけ、彼女自身も息をしている顔だった。


「皆さま」

 カヤが五人へ頭を下げる。

「ありがとうございました」


「こちらこそ」

 るなが答える。

「この町、きっともっと良くなるよ」


「はい」

 カヤは湯煙の向こうを見た。

「急がせるだけではなく、ほどけてもらう町にします」


 その言葉を聞いた時、るなは胸の奥が熱くなった。


 最初に召喚された時、この世界は暗かった。

 魔族の爪痕があり、人々は疲れていた。

 王都は沈み、村は不安を抱え、港町は声を失い、商都は削り合い、農村は実りを喜べなくなり、温泉街は休み方を忘れていた。


 でも今、それぞれの場所に小さな灯りが残っている。


 レフィア村には、明日の話をする声が戻った。

 セレストには、港の風と一緒に笑い声が戻った。

 ルクレツィアには、前向きな競争が戻った。

 ハイレン村には、実りを喜ぶ顔が戻った。

 ユノハ湯郷には、休んでいい空気が戻り始めた。


 大きな奇跡ではない。


 けれど、確かに世界は変わった。


     ◆


 王都へ戻ると、城では静かな騒ぎになっていた。


 五人が各地で起こした変化は、もう“異界の娘たちの珍しい行動”では済まなくなっていた。

 宮廷には支持する者もいれば、警戒する者もいる。

 けれど王は、玉座の前で五人を迎えると、迷わず言った。


「よくやった」


 その一言に、るなたちは少しだけ黙った。


 王は続ける。


「お前たちは、魔族を剣で倒したわけではない。城を建て直したわけでもない。財を降らせたわけでもない」


「……はい」


「だが、この国に必要だったものを戻した」


 王妃セレフィーナが静かに微笑む。


「明日を話す声。作ったものを誇る気持ち。休んでいい空気。誰かと笑う余白」


 エリシア王女は、目を潤ませながら言った。


「皆さまが来てくださらなければ、わたしたちは“暗くならないように耐えること”ばかり考えていたと思います」


 るなは少し困ったように笑った。


「でも、私たち、そんな立派なことしてないよ」


「そうそう」

 ももかが言う。

「わりと毎回、現地で“これどうする?”ってなってたし」


「泥まみれにもなりました」

 みうが笑う。


「話を聞いて、並べて、食べて、座って、一緒に考えただけ」

 えれなが言った。


「でも」

 ジェシカが短く続ける。

「それが足りなかった」


 王は深く頷いた。


「そうだ。この国は、戦いのあとに、生き方を忘れかけていた」


 広間が静まり返る。


「だから、これより国の復興は新しい段階へ入る。各地の者たちに任せる。王都は支える。命令ではなく、耳を傾ける」


 その言葉に、宮廷の空気が揺れた。


 反発する者もいるだろう。

 簡単には進まないだろう。

 でも、もう始まっている。


 この国は、ただ元に戻るのではない。

 少しずつ、新しい形で立ち上がる。


     ◆


 その夜、五人は王城の庭で並んで空を見上げていた。


 異世界の星空は、相変わらず少し知らない色をしている。


「……終わったね」

 みうが言った。


「うん」

 るなが答える。

「たぶん、私たちの最初の役目は」


「なんか寂しい」

 ももかが言う。

「でも、いい寂しさ」


「この世界、もう自分で歩き始めてる」

 えれなが静かに言った。


「うん」

 ジェシカも頷く。

「だから、完結」


 るなは笑った。


「急に締めに入ったね」


「大事」

 ジェシカが言う。


 五人は顔を見合わせて、少し笑った。


 召喚された時、王は目が点になっていた。

 魔法陣から現れたのは、勇者でも聖女でもなく、ガヤガヤうるさいギャルたちだったから。


 けれど、そのうるささが、暗い世界に風穴を開けた。


 前向きで、遠慮がなくて、すぐ褒めて、すぐ驚いて、すぐ笑う。

 その明るさは、剣より遅く、魔法より地味で、奇跡よりずっと小さかった。


 でも、人の顔を変えた。


 だからきっと、この世界はもう大丈夫だ。


 るなは、夜空を見上げて言った。


「ねえ、みんな」


「うん?」


「いつかまた、あの村とか港とか商都とか温泉街、全部回りたいね」


「絶対行きたい」

 みうが即答する。


「温泉街は長めに」

 ももかが言う。


「農村の焼き菓子も確認したい」

 えれなが続ける。


「商都の見本市も」

 ジェシカが言った。


 るなは笑った。


「じゃあ、それが次の旅だね」


 この世界には、まだ課題がある。

 傷も残っている。

 すべてが明日から急によくなるわけではない。


 でも、もう誰も、ただ暗さに耐えるだけではない。


 作りたい人がいる。

 見せたい人がいる。

 休ませたい人がいる。

 また来年を語る人がいる。


 そして、その全部を見て、笑う人がいる。


 異世界は、少しだけ明るくなった。


 だからこれは、終わりではなく。


 明るくなった世界が、自分の足で歩き出すための、最初の完結だった。

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