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異世界ギャル『異世界召喚されたのは勇者じゃなくてギャル五人でした ~魔族に荒らされた世界、でもウチらが来たからもう暗いままじゃ終わらせない~』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第69話 この町、湯を“感じる時間”より、回すことばかりになってる

 その夜、るなたちはユノハ湯郷の宿で、かなり珍しく全員が早い段階から静かだった。


 ハイレン村の時も重かった。

 でも、あれは土の重さ、労働の重さ、未来を口にできなくなった村の静けさだった。


 ユノハ湯郷は違う。


 ここは湯煙がやわらかい。

 町並みも綺麗だ。

 客はちゃんとほぐれて見える。

 なのに、働く側だけがずっと張りつめている。


 それが、じわじわ効いてくる。


「……なんかさ」

 ももかが布団へ転がったまま言った。

「うん」

 るなが返す。

「今日のやつ、地味にきつい」

「地味にじゃなくて、かなり」

 えれなが言う。

「そうかも」

 ももかが天井を見る。

「だって、華やかな町なのに、本音が死んでるって」

「うん」

 みうが小さく頷く。

「しかも、みんなちゃんと優しいんだよね」

「そう」

 るなが言う。

「シオンさんもぶっきらぼうだけど不誠実ではないし、カヤさんもちゃんと客のこと考えてる」

「でも」

 ジェシカが短く言った。

「全部が“やらなきゃ”の方へ寄ってる」

「うん」

 えれなが続ける。

「湯を守る。客を迎える。宿の格を保つ。町の評判を落とさない」

「全部必要」

「でも」

「“この湯っていいな”を感じる時間が、町の中に薄い」

「……」

 るなはそこで、膝を抱えながら少し考えた。

「たぶん、そこなんだよね」

「うん」

 みうが見る。

「この町、湯を“感じる時間”より、回すことばかりになってる」

「……」

 ももかが起き上がる。

「来た」

「うん」

 えれなが頷く。

「かなり来た」

「今日の核」

 ジェシカが言った。


 るなは深く息を吐いた。


 シオンの“湯は生きてる。でも俺たちは湯気みたいに消えるだけだ”。

 カヤの“客に休んでいってほしいのに、迎える私たちが一番休めていない”。


 あの二つの言葉は、たぶん別々じゃない。


 この町では、湯を感じるより先に、湯を回し、宿を回し、客を回している。

 だから、“いい湯”がただの業務の一部へ痩せていく。


「……よし」

 るなが言う。

「うん」

「明日、確認しよう」

「何を」

「この町が、どこまで“回す”に寄ってるのか」

「うん」

 みうが頷く。

「宿も、湯守も、客も」

「全部」

 えれなが言う。

「構造をちゃんと見る」

「来たね」

 ももかが言う。

「整理回」

「お前ほんとそういうの好きだね」

「好き」

「知ってる」


     ◆


 翌朝、五人はまず町の動線を見ることから始めた。


 どこで客が止まり、どこで流れ、どこで宿へ入り、どこで湯へ向かい、どこで出ていくのか。

 観光地としてのユノハ湯郷は、かなりうまくできている。


 入口で名物が目に入る。

 足湯がある。

 湯気が見える。

 宿の暖簾が続く。

 ちょっと歩けば共同湯場。

 その先に土産物。

 客は“温泉街に来た感”を途切れず味わえる。


「……普通に強い」

 ももかが言う。

「そこは否定しない」

 るなが頷く。

「町づくりとして、かなりわかりやすい」

「客目線での導線はちゃんとしてる」

 えれなが言う。

「そう」

「でも」

 ジェシカが少し先を見る。

「見て」

「……」

 ちょうど足湯から上がった客が、すぐ次の宿の案内を受けている。

 その横では、別の客が“有名な湯はどこか”を聞いている。

 休んでいるようでいて、町の流れは常に“次へ次へ”だ。


「……」

 みうが眉を寄せる。

「客も、ちゃんと止まってないのかも」

「うん」

 るなが言う。

「休んでるけど、味わってるっていうより、“温泉街をこなしてる”に近い人も多い」

「名所巡りっぽい」

 ももかが言う。

「それ」

 えれなが頷く。

「湯を感じる前に、“どこ入った”“何食べた”“次はどこ”」

「回遊」

 ジェシカが言った。

「しかも働く側も、客をその流れに乗せることで手いっぱい」

「……」

「来たね」

 るなが言う。

「町全体で“回す”が強い」

「うん」

「味わう前に、全部が次へ進む」

 みうが小さく言った。


     ◆


 午前のうちに、五人はもう一度シオンのところへ行った。


 今日のシオンは、昨日以上に忙しそうだった。

 宿から宿へ動き、湯の流れを見て、温度を確かめ、誰かに短く指示を出し、また次へ行く。


「おはよう」

 るなが声をかける。

「……おはようございます」

 シオンは少しだけ驚いた顔をした。

「また来た」

「来た」

「暇なんですか」

「そこそこ忙しい」

 るなが言う。

「でも、気になるから」

「……」

「今日は何見てるの?」

 みうが聞く。

「湯の落ち方です」

「落ち方」

「宿の入り具合で変わる」

「……」

「この時間帯は、共同湯場より宿側が先」

「なるほど」

 えれなが頷く。

「全部、流れで見てるんだ」

「そうしないと回りません」

「……」

「また出た」

 ももかが言う。

「“回らない”」

「何が悪いんですか」

 シオンが聞く。

「悪くはない」

 るなが答える。

「でもたぶん、この町それが強すぎる」

「……」

「シオンさん」

 みうが静かに聞く。

「はい」

「この町の湯って、どういう時に“いい湯だな”って感じますか」

「……」

 シオンは一瞬だけ黙った。

「今、そこ聞く?」

 ももかが小さく言う。

「聞く」

 るなが答える。

「そこ重要」


 シオンは湯を見ながら答える。


「……朝」

「朝?」

「客が入る前」

「……」

「一番静かで、湯が荒れていない時」

「……」

「その時は、少しわかる」

「……」

「どうわかるの」

 みうが聞く。

「湯の匂いとか」

「やわらかさとか」

「音とか」

「……」

「へえ」

 るなが言う。

「ちゃんとあるんだ」

「あります」

「でも客が入ると?」

「回す方が先です」

「……」


 その答えに、るなははっきりした。


 この町には、“湯を感じる時間”は存在している。

 でも、それはシオンみたいな人間が、仕事の合間のほんの一瞬でしか持てないものになっている。


「……」

「シオンさん」

「なんです」

「それ、もったいない」

「……」

 シオンは少しだけ眉をひそめた。

「何が」

「この町の一番いいところ、たぶんそこなのに」

「……」

「朝の静かな湯とか、匂いとか、やわらかさとか」

「……」

「今の町、それを“良さ”としてちゃんと届かせてない」

「……」

「届かせる必要が?」

 シオンが聞く。

「ある」

 るなが即答した。

「だって、今は“有名だから入る”とか“評判だから泊まる”が先に来てる」

「……」

「でも、本当にいい湯なら、そこが届いた方が町も楽になりそう」

「……」

 シオンは何も言わなかった。

 でも、その無言は“そんなこと考えたこともない”に近かった。


     ◆


 次に五人はカヤの旅館へ向かった。


 昼前の旅館は、客の出入りと掃除、湯上がりの支度、昼食の準備が重なる時間で、かなり慌ただしい。


 それでもカヤは、昨日と同じように整った顔で出てきた。


「お越しになると思っていました」

「バレてた」

 るなが言う。

「なんとなく」

 カヤは微笑む。

「今日は何を見に?」

「流れ」

 えれなが答える。

「この町が、どれだけ“回す”に寄ってるか」

「……」

 カヤは、その言葉に少しだけ苦く笑った。

「ずいぶん核心ですね」

「うん」

 るなが言う。

「かなり」

「否定できますか」

 みうが静かに聞く。

「……」

 カヤは少し考えてから、首を横に振った。

「できません」

「やっぱり」

「宿は、止まるとすぐに目立ちます」

「……」

「客は流れる」

「……」

「一人待たせれば、その空気が次へ伝わる」

「……」

「湯上がりの席が乱れていれば、それも見える」

「……」

「笑顔が硬ければ、それも見える」

「……」

「だから、ずっと整える」

「……」


 みうが、小さく言う。


「この町、ほんとに“休んでいい空気”が薄いんですね」

「……」

「客は休みに来ているのに」

「はい」

「町は、客を休ませるためにずっと緊張している」

「……」

 カヤは頷く。

「その通りです」

「しかも」

 るなが聞く。

「他の宿のことも、結構気にしてる?」

「……」

 カヤは一瞬だけ黙った。

「気にしない宿はないと思います」

「……」

「やっぱり」

「宿の格」

「評判」

「湯上がりの甘味」

「部屋の整い方」

「女将の立ち居振る舞い」

「……」

「全部、比べられます」

「……」

「だから」

 カヤは続ける。

「休むより先に、“崩れないこと”が大事になる」

「……」

「そこ」

 えれなが言う。

「かなりルクレツィアに近い」

「削り合い?」

 ももかが聞く。

「そこまで露骨ではないけど」

「“比べられ続けることで、工夫より先に消耗が来る”」

「……」

「うわ」

 るなが言う。

「そうだ」

「うん」

「この町、客を癒やす前に、町の人がずっと自分を消耗してる」


     ◆


 午後、五人は足湯の見える茶屋で、ようやく今日の整理を始めた。


 湯気の向こうに見える客は、相変わらず悪くない顔をしている。

 でも今は、その悪くなさが逆に町の働く側を追い込んでいる構図まで見えてしまう。


「……整理できた」

 るなが言った。


「うん」

 えれなが頷く。

「かなり」

「この町、湯そのものはちゃんと良い」

「うん」

「宿もある」

「客も来る」

「接客の技術もある」

 ジェシカが順に言う。

「でも」

 みうが続ける。

「全部、“回すこと”に寄りすぎてる」

「そう」

 るなが湯気の向こうを見る。

「湯守は、湯を守るより先に回す」

「女将たちは、客を休ませるより先に崩れないように整える」

「客も、味わうより先に次へ次へ行く」

「……」

「だから」

 ももかが言う。

「湯を“感じる時間”が死んでる」

「うん」

 るなは深く頷いた。

「今日の結論、それだ」

「かなり」

 えれなが言う。

「真ん中」

「この町、たぶん」

 みうが言った。

「湯そのものを増やしたり、客を増やしたりする話じゃない」

「うん」

「“この湯、こういうふうにいい”って、一回ちゃんと味わえる形が要る」

「客にも」

 ジェシカが言う。

「働く側にも」

「そう」

 るなが頷く。


 少しの沈黙のあと、ももかが言う。


「ねえ」

「うん」

「昔、この町にそういうのなかったのかな」

「……」

 るなは少しだけ顔を上げる。

「あるかも」

「ハイレン村の収穫祭みたいに?」

「うん」

「昔の湯祭りとか、湯の町ならありそう」

「……」

「来たね」

 えれなが言う。

「次の入口」

「うん」

「“昔の復活”じゃなくて、“今の町でできる小さな湯の見せ場”」

「それ」

 みうが静かに言う。

「たぶん、この町に必要」

「よし」

 るなが湯のみを置いた。

「次、そこ聞こう」

「誰に」

「シオンさんとカヤさん、両方」

「うん」

 ジェシカが頷いた。

「両輪だから」

「湯と宿」

「裏と表」

「その両方が、“少しならやれる”まで行かないと動かない」

 えれなが言う。

「そう」

 るなが笑う。

「来たね」

「突破口」

 ももかが言った。


 湯煙の町は今日も華やかだ。

 でも、その華やかさの奥で、五人はようやく“本当に足りないもの”の形をつかみ始めていた。

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