第18話 王都で広がる、“ギャルたちの噂”
セレスト行きが決まった翌日、王都アストレアの空気は、昨日までよりさらに落ち着かないものになっていた。
朝の城下町は、本来なら一日の支度に追われる人々の気配で、もっとざわついていてもおかしくない。パンを焼く香り、荷車を押す音、商人の短い呼び声、眠たそうな子どもの泣き声。そういう生活の雑音が混ざって、街というものは目を覚ます。
だが今の王都は、その“目覚め方”までもどこか遠慮がちだ。
人はいる。店も開く。火も灯る。けれど、やはりどこかで音量が抑えられている。
ただし、その沈んだ王都の中で、最近ひとつだけ例外的によく動くものがあった。
噂だ。
「……やっぱり見られてる」
るなは王城の高い回廊から下の中庭を見ながら、小さく呟いた。
朝の光はやわらかい。噴水の水面がきらきら光り、手入れされた植え込みの上を鳥が二羽飛んでいく。景色だけ見れば平和だ。けれど、その中を動く侍女や侍従、若い文官たちの目線が、あまりにわかりやすかった。
気づいた瞬間に逸らす。
でも、その直前まで確実にこっちを見ている。
「うん、今日すごい」
みうも、隣で困ったように笑う。
「昨日の“ちょっと気になる”じゃなくて、“もう話題にしてます”の目」
「わかる」
ももかがすぐに頷く。
「しかもさ、侍女さん同士で絶対しゃべってたあとに、こっち見てる感じしない?」
「する」
えれなが即答した。
「完全にする」
「やだ、城の中でうちらゴシップ枠じゃん」
「今さらでは」
ジェシカが壁に寄りかかったまま言う。
るなは口を尖らせた。
「いや、今さらなんだけどさ。でも、ここまで露骨だと逆に気になるじゃん」
「気になるなら聞いてみる?」
ももかが悪戯っぽく言う。
「誰に」
「そこ歩いてる侍女さんとか」
「やめなさい」
えれながすぐ止める。
「“何の噂してました?”って直球で聞いたら終わる」
「でも気になるし」
「気になるのはわかるけど」
その時、中庭の向こうを歩いていた二人の若い兵士が、るなたちに気づいて明らかに「あっ」と顔をした。一人がもう一人の腕を軽く小突き、何か小声で言う。もう一人が小さく笑う。
その“笑い”が、るなには少しだけ意外だった。
「……兵士さんまで」
みうも気づいたらしい。
「なんか、嫌な感じじゃない」
「だね」
るなが言う。
「前みたいな“なんだこいつら”だけじゃない」
「話、回ってんでしょ」
ジェシカが淡々と答える。
「市場の件」
「村もじゃない?」
ももかが言う。
「レフィア村でちっちゃい祭りっぽいのやったのとか」
「そっちはまだ城の外にどこまで広がってるかわかんない」
えれなが冷静に整理する。
「でも王都の市場で“派手な娘たちが売り場変えて空気変えた”くらいなら、兵経由でも商人経由でも一気に行く」
「“空気変えた”って改めて言われると、ちょっと恥ずい」
るなが言う。
「でも、事実ではある」
ジェシカが返した。
そこへ、後ろから静かな声がかかった。
「朝からにぎやかですね」
振り返ると、王妃セレフィーナだった。
今日の王妃は、昼前の私的な時間らしい落ち着いた装いをしていた。濃い青ではなく、淡い灰青色の衣。髪はきっちり結い上げているが、朝の光のせいか、いつもよりやわらかく見える。
「王妃さま」
みうが少し背筋を伸ばす。
「おはようございます」
るなもすぐに頭を下げた。
「おはよーございます」
ももかは少しだけ語尾があやしい。
「“よー”はいらない」
えれなが小声で突っ込む。
「聞こえてますよ」
王妃が穏やかに返して、全員が一瞬固まった。
「うわ」
ももかが目を丸くする。
「王妃さま耳いい」
「たまたまです」
「それ絶対たまたまじゃないやつ」
王妃は五人の横に立ち、中庭へ目を向けた。
「見られている、と感じていますか」
その問いに、るなたちは顔を見合わせる。
「はい」
えれなが代表するように答えた。
「かなり」
「そうでしょうね」
王妃はあっさり頷く。
「今の城は、おそらく皆さんの話でもちきりでしょうから」
「うわ、やっぱり」
ももかが言う。
「どんな感じなんですか?」
「話の種類ですか?」
王妃は少しだけ考えるように視線を上げた。
「そうですね……“市場の商人たちが最近声を出し始めたらしい”“巡回兵の顔つきが少しましになった”“王女殿下が最近、表情を見せるようになった”」
「そこまで」
みうが目を丸くする。
「王女さまのことまで」
「城の中で一番気づかれる変化ですもの」
王妃が穏やかに言う。
「隠しきれるものではありません」
「うわー」
るなが頭を掻く。
「王女さま、マジで変わってるんだ」
「変わっていますよ」
王妃はきっぱり言った。
「少しずつ、でも確実に」
その言い方が、どこか嬉しそうで、るなは少しだけ胸があたたかくなる。
「でも」
えれなが慎重に口を開く。
「いい話ばかりじゃないですよね」
王妃は、その問いに対しても隠さなかった。
「ええ」
やわらかな口調のまま、はっきり言う。
「“民衆受けだけで国を動かすつもりか”“異界の娘たちに城の空気を乱されている”“王女殿下にまで妙な影響が及んでいる”――そういう声も出ています」
ももかがげんなりした顔をする。
「うわー、めんど」
「そこはもう仕方ないでしょ」
えれなが言う。
「立場ある人からしたら、よくわからない連中が急に目立ち始めたら警戒もする」
「わかるけど、めんどいのはめんどい」
「それはそう」
るなも頷く。
ジェシカがそこで小さく言った。
「保守派、ってやつ」
王妃はちらりとそちらを見る。
「言葉としては、そうですね」
「大体いつも厄介」
ジェシカは淡々としている。
「でも、変化が見えてるから騒ぐんだよ」
「なるほど」
王妃が少し目を細める。
「そういう見方もできますね」
「実際そうでしょ」
ジェシカは肩をすくめた。
「何も起きてなかったら、“派手なだけの異界人”で終わってた」
王妃は、その言葉を咀嚼するようにほんの少し黙ったあと、ゆっくり頷いた。
「ええ」
「うん」
るなも頷く。
「たしかに」
「だから、見られてるのは怖いけど、悪いことだけでもない」
みうが静かに言う。
「誰かがちゃんと、変化に気づいてるってことだから」
「みう、そのまとめ方きれい」
ももかが言う。
「ほんと?」
「うん、今日のMVP候補」
「なんの」
「朝の会話の」
「どうでもよすぎる」
えれなが呆れる。
王妃はそんな五人のやり取りを眺めて、ほんの少し笑った。
「おそらく、王都の人々も似たようなものなのでしょう」
「似たような?」
るなが聞き返す。
「ええ。戸惑っている」
王妃は中庭を見ながら言う。
「けれど、それと同時に、変わるかもしれないという期待も少しある。だから、目を離せないのです」
「……」
「暗い場所にいると、急に差し込んだ明るいものは眩しすぎることもあります」
「それ、褒めてます?」
ももかが聞く。
「半分くらいは」
王妃がさらりと返す。
「最近“半分くらい”流行ってる」
るなが真顔で言うと、王妃が今度ははっきり笑った。
◆
その日の昼前、五人は城下へ出ることを許された。
セレスト行きの前に、王都の現状をもう一度自分たちの目で見ておくためでもあり、王妃の言う“噂”が実際どれくらい広がっているのかを確かめる意味もあった。
護衛としてついてきたのは、いつものようにガルドと若い騎士、それに兵が二人。
城門をくぐって大通りへ出た瞬間、ももかが小さく言った。
「……やっぱり」
「うん」
るなが答える。
「見られてる」
昨日までと違うのは、視線に“意味”があることだった。
ただ珍しい見た目だから、ではない。
魚屋の前を通れば、店主が「あ」と顔を上げる。布屋の前では、若い娘二人がこちらを見て何かひそひそ言い合い、目が合うと慌てて逸らす。巡回中の兵士は、明らかに「あの時の」と気づく顔をする。
しかも、怖がられているだけではない。
どこか、期待や面白がりや、警戒が混ざっている。
「やだこれ、完全に話題の人じゃん」
ももかが半分困り、半分ちょっと照れた顔で言う。
「うちら芸能人じゃないんだけど」
「でも、街の中だとそういう扱いに近いかも」
みうが小さく言う。
「“なんか最近噂の子たち”みたいな」
「気まず……」
るなが頭を掻く。
「いや、別に悪いことだけじゃないんだろうけど、慣れない」
「慣れなくていいでしょ」
えれなが言う。
「むしろ慣れたら危ない」
「それはそう」
ジェシカがあっさり返した。
南区の市場に近づくにつれて、その“噂”の輪郭はもっとはっきりしてきた。
あのパン屋の前を通ると、店主がるなたちに気づき、ほんのわずかに胸を張った。
「おう」
ぶっきらぼうな挨拶。
「お」
るなが返す。
「今日、なんか前より声出てない?」
「……気のせいだ」
店主はそっけなく言うが、そのすぐあと、
「焼きたてだ! 今朝の分まだあるぞ!」
と、以前よりはっきりした声で通りへ向けて呼んだ。
ももかが目を丸くする。
「うわ、ほんとだ」
「普通に張ってる」
みうも嬉しそうだ。
「なんかうれしい」
「お前らのおかげって顔はするな」
店主がむすっと言う。
「してないよ」
るなが言い返す。
「でも、ちょっとうれしいだけ」
「……そうかよ」
その横では、布屋の女主人が赤い布を本当に入口寄りへ出していた。しかも、それだけじゃない。赤の後ろに淡い色を流すような並べ方になっている。
ジェシカが小さく息をつく。
「やってる」
「完全にやってる」
るなが笑う。
「温度上げたやつ」
「誰が温度だよ」
女主人が聞こえていたらしく返してくる。
「でも売れ行きは少し良かったよ」
「……!」
その一言に、ももかがぱっと顔を明るくした。
「え、マジで!?」
「朝のうちはな」
女主人はまだ素直ではない。
「たまたまかもしれない」
「でも止まったんだ」
みうが言う。
「ならよかった」
「……」
女主人は何も言わなかったが、以前より確実に五人を見る目がやわらいでいた。
その様子を、通りすがりの人々も見ている。
“市場をちょっと変えた異界の娘たち”という噂が、ただの噂でなく目の前の店主たちの態度で裏打ちされているのだ。
「……これ、噂が広がるのもわかる」
えれなが低く言う。
「当事者が普通に反応してる」
「うん」
るなも頷いた。
「しかも、なんかちょっと誇らしげだし」
「認めたくないけど助かってる、みたいな顔ね」
ジェシカが淡々と分析する。
そこへ、今度は巡回兵の一人がこちらへ来た。
カイルではない。別の若い兵士だ。だが顔見知りらしく、目に敵意はない。
「……あんたらが、例の」
その言い方に、ももかが少し身構える。
「例のって何」
「市場を変にした娘たち」
「変にって」
るなが眉をひそめる。
「褒めてるのかけなしてるのかわかんない」
「半分半分」
兵士が言う。
「でも、あの日からここ、ちょっと空気違うんだよ」
「……」
「隊のやつらも言ってた。商人の声が少し戻ると、こっちも巡回しやすいって」
「え」
みうが少し驚いた顔をする。
「そこ、つながるんですね」
「つながるだろ」
兵士は肩をすくめた。
「暗い通りを歩くのと、少しでも声がある通りを歩くのじゃ、気持ちが違う」
「……そうか」
るなが小さく呟く。
それは、市場の中だけの話じゃなかった。
商人の声が戻ることが、兵の巡回の気持ちにも繋がる。
兵の顔が戻れば、街の人も少し安心する。
あの時感じた“悪循環”が、ほんの少しだけ逆向きに回り始めているのかもしれない。
るなは、言葉にしづらいぞわっとした感覚を覚えた。
小さい。まだ本当に小さい。
でも、線がつながると、変化って急に実感になる。
◆
その日の午後、五人が城へ戻ると、今度は城の中のざわめきがさらに濃くなっていた。
控えの間へ向かう途中、向こうから歩いてきた貴族風の男たちが、すれ違いざま露骨にこちらを見た。若くはない。衣装も仕立てが良く、胸元には家紋らしき刺繍がある。明らかに高位の家の人間だ。
そのうちの一人が、あからさまに小さく鼻を鳴らした。
「これか」
「……」
「陛下がお気に入りの異界娘とは」
ももかがぴたりと止まりそうになる。
るなも一瞬だけ足を止めかけたが、先に動いたのはえれなだった。
「行くよ」
低い声で言う。
「今ここで反応しない」
「でも」
「今じゃない」
えれなの言い方は強かった。
たしかに、その通りだ。
ここで振り向いて言い返したところで、向こうの思うつぼだろう。わざと挑発している可能性も高い。
ジェシカが横目だけで男たちを見る。
「保守派?」
「たぶん」
えれなが短く答える。
「王妃さまの言ってたやつ」
「うわ、面倒くさそ」
ももかが小さく吐き捨てる。
「でもまあ」
るなが前を向く。
「“変わるの怖い人たち”ってやつなんでしょ」
「たぶんね」
みうが言った。
「それなら、嫌われるのもある意味当然かも」
その時、向こう側の廊下からエリシアが歩いてくるのが見えた。
侍女を二人連れているが、以前ほど後ろに隠れる感じではない。歩き方に少しだけ意思がある。髪も、今日もほんの少しだけ柔らかく整えられていた。
エリシアは貴族たちと五人がすれ違う場面を見ていたらしく、一瞬だけ表情を硬くした。
「皆さま」
「王女さま」
みうがやわらかく声をかける。
エリシアは五人を見て、それから貴族たちの去っていく背中へちらりと視線を向けた。
「……気になさらないでください」
「いや気にはなる」
るなが正直に言う。
「でも、まあ、いるよねああいう人」
「るな」
えれなが小さく止める。
「うん、わかってる」
「お父さまも、あの方々のことは承知されています」
エリシアが言う。
「承知してるんだ」
ももかが聞き返す。
「はい。最近、わたくしたちのことをよく思わない声が増えているのは事実です」
「“わたくしたち”」
るなが少しだけ笑う。
「王女さま、今ナチュラルにうちら側入った?」
エリシアは少し目を丸くしてから、頬を染めた。
「……その、いえ、そういうつもりでは」
「でも入ってたよね」
ももかが嬉しそうに言う。
「なんかうれしい」
「わ、わたくしはただ……」
エリシアは少し戸惑いながらも、言い直した。
「皆さまが、この城や王都にとって大切な存在になっていると、そう思っています」
「……」
「だから、反発もあるのでしょう」
その言葉に、るなは少しだけ息を呑む。
王女は、もうただ“守られるだけの姫”じゃない。ちゃんと状況を見て、自分の考えを持っている。
王妃の言っていた通りだ。少しずつ、でも確実に変わっている。
「ありがと」
るなが言う。
「言ってくれて」
「いえ」
エリシアは小さく微笑む。
「でも、本当にお気をつけてください。セレストへ行かれるのでしょう?」
「うん」
みうが答える。
「二日後です」
「港町……」
エリシアが少し遠くを見る。
「本では何度も読みました。潮の香りと、賑わう船と、夜でも灯りが消えない町だと」
「今は違うんだろうね」
ジェシカが言う。
「はい」
エリシアは静かに頷いた。
「だから……もしまた、何かを見つけたら」
そこで王女は、るなたちをまっすぐ見た。
「戻ってきたら、聞かせてください」
その言葉に、ももかがぱっと笑顔になる。
「もちろん!」
「また報告会やる」
るなも乗る。
「今度は港町編」
「“編”って何」
えれなが呆れる。
「でも、たぶんやる」
エリシアは、そのやりとりにくすりと笑った。
その笑顔を見て、るなは思う。
噂は広がっている。
支持も、反発も、好奇心も、警戒も、全部混ざって。
でも、その中でちゃんと変わっている人がいる。
それは、確かに希望だった。
◆
その夜、自室に戻った五人は、自然と同じ部屋に集まった。
もうこれは半ば恒例になっていた。何か大きなことが起きた日の夜は、顔を見てからじゃないと寝づらいのだ。
ももかがベッドに転がりながら言う。
「いやー……今日は“噂”って感じの日だった」
「ほんとに」
みうもクッションを抱えながら頷く。
「悪い意味だけじゃなかったけど」
「でも、良い意味だけでもなかった」
えれなが現実的に補足する。
「貴族の反発も見えたし」
「まあ、そっちは想定内」
ジェシカが壁に寄りかかる。
「市場と兵が動き始めた時点で、止めたい側は出る」
「うん」
るなが頷く。
「でもさ」
「なに」
「それでも、王都の人たちが“ちょっと変わってきた”のは見えた」
「……」
「兵士さんもそうだし、商人さんもそうだし、王女さまもそう」
「うん」
みうが言う。
「それに、侍女さんたちの目も少し違った」
「それ」
ももかが頷く。
「ただ怖がってるとか、バカにしてるとかじゃなくて、“この子たち何するんだろ”の目」
「それが一番厄介でもあるけどね」
えれなが言う。
「期待されるのも、観察されるのも」
「でも、ゼロよりいい」
るなが言った。
「何も思われてないよりは」
「それはそう」
ジェシカが短く返す。
少しの沈黙のあと、ももかが上体を起こす。
「じゃあさ」
「ん?」
「セレスト、結構大事じゃない?」
「まあ、そうだろうね」
えれなが言う。
「王都の外で、しかも大きな港町で何か結果出たら、噂の質も変わる」
「質」
みうが聞き返す。
「“なんか変な子たち”から、“本当に空気変える子たち”へ」
「うわ」
るなが言う。
「それ言われると重い」
「重いけど、現実」
えれなは肩をすくめた。
「しかも王様もたぶんそこ見てる」
「保守派もね」
ジェシカが言う。
「成功したら騒ぐし、失敗しても騒ぐ」
「最悪じゃん」
ももかが顔をしかめる。
「どっちでも騒ぐの!?」
「だろうね」
「じゃあもうやるしかなくない?」
るなが笑う。
「どうせ騒がれるなら、いい方で騒がれたくない?」
「るな、その雑な開き直り好き」
ももかが言う。
「でしょ」
「でも」
みうが少しだけ真面目な声になる。
「セレストは、王都や村とまた違うだろうから……気をつけようね」
「うん」
るなは頷いた。
「今までと同じノリだけじゃダメだと思う」
「そこは大丈夫?」
えれながじっと見る。
「わかってるって」
「今の返事は八割怪しい」
「ひど」
「でも、今回はほんとに」
るなは続ける。
「“港町の空気”ちゃんと見たい」
「港町の空気ってなに」
ももかが言う。
「わかんない。でも、王様が“元気だった記憶が残ってる町”みたいな顔してたから」
「……」
「そこ、たぶん大事」
ジェシカが少しだけ口元を上げる。
「珍しく、ちゃんと拾ってる」
「失礼」
るなが言い返す。
「でも、まあ」
「うん?」
「セレスト、楽しみではある」
その言葉に、四人が少しだけ笑った。
怖い。重い。反発もある。王都の噂も広がってる。
でも、それでも。
次の場所で何を見つけるのか、何が動くのか。
そこに少しだけ胸が鳴るのを、もう誰も否定しなかった。
窓の外には、王都の夜が静かに広がっている。
暗いままの街。
けれど、その中に少しずつ灯りが戻り始めている気配もある。
そして、その灯りに気づく人も増えている。
るなはベッドに倒れ込みながら、小さく呟いた。
「……よし」
「なにが」
ももかが聞く。
「セレスト行く前に、王都の空気がちょっと見えた」
「うん」
みうも頷く。
「噂も、目線も、反発も」
「全部込みで、今の王都なんだろうね」
えれなが言う。
「だったら」
ジェシカが最後に言った。
「次は、その外でどう見られるかだね」
その言葉を合図みたいに受け取りながら、五人はそれぞれ少しずつ眠気の中へ沈んでいった。
噂は広がっている。
けれどそれは、何かが確かに動き始めた証でもあった。
セレスト行きの前夜へ向かう王都は、静かにざわついていた。




