《騎士学校》 4
夕食時の食堂は、昼の訓練場よりもよほど騒がしかった。長卓がいくつも並び、木製の皿と杯がぶつかる音、笑い声、愚痴、剣の話が渾然一体となって天井に溜まっている。見習いたちは自然と出自ごとに固まり、騎士家の子弟たちは壁際の卓、平民出身者は配膳口に近い側を占めていた。誰かがそう決めたわけでもない。ただ、そうなっている。
ジルベールとヴァレリアンは、その中間に位置する卓に腰掛けていた。煮込みと黒パンという質素な夕食を前に、ヴァレリアンは何でもない顔で匙を動かしているが、ジルベールの意識は別の方向に向いている。
「……聞いたか?」
壁際の卓から、抑えた声が漏れてくる。騎士家の紋章を付けた少年たちだ。
「第二騎士団が動いたらしいぞ」
その一言で、周囲の声がわずかに落ちる。ジルベールは杯に口を付けるふりをして、視線を伏せたまま耳を澄ませた。
「外地だろ。人域の向こう」
「正式発表は巡察だけど、あの人数で巡察はない」
「二区って考えると、魔性領域か? 幽界に血の都ワラキス。人外騎士が治めるとはいえ、何があってもおかしくないな」
「厄介な遺物が見つかったって話もある」
低い声で笑う者がいた。
「外地周辺にそんなものあるかよ。あったとして、それなら全ての遺物目録と照らし合わせてるはずだ」
その単語に、ジルベールの胸が小さく跳ねる。
「遺物目録……」
彼が呟くと、ヴァレリアンは何も言わずにパンを割り、静かに咀嚼している。聞いていないふりが、逆に聞いている証拠だった。
「それってここにもあるんだろ。確か旧蔵書庫の奥だ。ずっと騎士が張り付いてる」
「伽藍城の封印指定も載ってるって話だし、近衛騎士クラスじゃないと閲覧不可なんだ。警備も付くさ」
「年代、由来、破壊可否……」
博識らしい騎士見習いの言葉がそこで一瞬、途切れる。
「……竜の遺骸、って項目もあるらしい」
伝説上の存在に見習達のどよめき、別の誰かがすぐに「声がでかい」と咎めた。
「遺骸って言っても、骨の一部だろ」
「それでも竜は竜だ。魔力の塊みたいなもんだぞ」
「もしかして、見つけたのはそれかもな。秘密主義の第二騎士団が出た理由にも説明が付く」
話は推測の域を出ない。それでも、いつもの自慢話よりも、生々しい重さがあった。ジルベールは喉を鳴らして飲み込み、胸の内に広がる違和感をやり過ごす。
そして、部屋に置いてきていた星剣とその鞘について考えていた。
もしその目録が見られれば、発表されていない竜の遺骸の場所が分かるかも知れない。長い騎士団の歴史の中で三体しか討伐されていないのかも怪しい話だった。
「旧書庫か……」
ジルベールはそう呟いて、ステラの事を考えた。もしかすれば、近道があるかも知れない。




