ヒロイン視点
……私は一体、どうすれば良かったのだろう?
もうすぐお別れになる部屋の窓から外を眺める。
でも、答えは一向に出てこない。
「私はただ……殿下に良き王になって欲しかった。確かに大変なことも多いけど、私はそれを全力で支えるつもりだったのに」
物心ついた時には殿下の婚約者となり、人生の大半を生きてきた。
王太子の婚約者として様々な勉強をしたり、他国に行って挨拶をしたり。
殿下が恥をかかないように、見た目や所作にも気を配ってきた。
それなのに会えば文句ばかりで、最終的には……この有様。
「何か、私が間違ってたのかな?」
いつのまにかあの子が殿下に近づいていて、確かに私は注意をした。
だけど神に誓っていじめなどはしていない。
なのに何もかも私がやったことになっていた。
「まるで、そうなるのが決まっていたかのように……」
お父様とお母様も抗議したが、仕事相手の家々はどんどんうちから離れていった。
王太子に婚約破棄されたのだから仕方のないことではある。
ただ、二人に申し訳ない。
そのせいで、我が家は多額の借金を背負うことになった。
「っ……嫌だ」
あんな男に嫁ぎたくない。
自分の親よりも年上なのに、いつも私を舐め回すかのように見てきた。
だけど、多額の借金を返すには同じく公爵家である彼を頼るしかない。
そう思うと、泣きたくないのに涙が溢れそうになる。
「いっそ、誰が連れ去って……ううん、無理ね」
王太子に婚約破棄された私なんて、誰も貰ってくれるはずがない。
私が可愛げがないのは事実だし、身体は好まれても私自身に惹かれる人はいなかった。
そもそも、そんなことしたらお父様とお母様に迷惑がかかる。
「……明日、あの脂ぎった公爵と会うのね」
おそらく私はろくな扱いを受けず、愛人のような感じになるだろう。
嫌悪感から身体が震えてくる。
そして頭の中をずっと『どうして?』『嫌っ』という言葉がぐるぐるする。
「相手があのアイク殿のような方だったら良かったのに……って私ってば何を!」
私は殿下の婚約者で……もう違うけど、他の男性に目移りするような真似はしてない。
でも、あの時……物凄く素敵だったなとは思う。
すると、ドタドタと足音が聞こえてきた。
「「セレナ!」」
「お父様? お母様?」
珍しく二人は慌てた様子で、息を切らしていた。
私が戸惑っていると、二人から強く抱きしめられる。
「あ、あの……」
「すまなかった! もうお前があいつの嫁になる心配はいらない!」
「そうよ! 本当に頼りない親でごめんなさい!」
「え……? ど、どういうこと?」
「だから! もう良いんだって!」
「そうよ! うぅ……」
聞き間違えかしら? もう、嫁に行く必要はないって。
ううん、ぬか喜びはダメ。
ほんとだとしても、両親が無理をして借金したとかだったら大変だ。
私は深呼吸をしてから、改めて両親と向き合う。
「お父様、お母様、詳しく話してください」
「そ、そうだな、私としたことが」
「確かにあまりの出来事に慌てちゃったわ」
「ではソファーに座って話すとしよう」
そうして席に着き話を聞くと……それは驚愕すべきことだった。
なんと、あのアレス殿が借金を全て立て替えてくれたという。
正確にはアスカロン辺境伯家ではあるが、彼は私財をほぼ投げ売ったとか。
「な、なぜでしょうか?」
「何でもご迷惑をおかけした詫びだそうだ」
「流石に辺境伯家から出たお金は返して欲しいが、自分の私財については気にしないで良いと。更に利子とかもいらないから、ゆっくり返してくれたらいいって言ってくれたそうよ」
「そ、そんな、助けて頂いたのは私なのに……」
不敬ではあるが、アレを見てスッキリした自分がいたから。
もしかしたら、私が手を上げていたかもしれない。
私の代わりに殴ってくれたのに、どうして助けてくださったのだろう。
「そうなのだよ」
「そ、それで、アイク殿は? 私もお礼を言わないと……」
「そういうのは良いと、既に王都を出て行ってしまったらしい。私達も国王陛下から聞いただけで、彼と直接会ったわけではないのだ」
「本当に噂通りの騎士道に溢れる殿方みたいね。私達に会うと礼を言われてしまうので、それはご遠慮願いたいと。ただ貴女に謝罪と、次の幸せを見つけてくださいと伝言があったわ」
なんということだろう、未だにそのような殿方がいるなんて。
なぜだか、胸の奥が熱くなってくる。
さっきまでの絶望感から一転して、まさかこんなことになるなんて。
「で、でも、何かお礼をしたいです」
「うむ。我々も何かお礼をせねばと思ったのだが……」
「私達に出来ることは早く借金を返すことくらいしか……」
確かにうちにはお金がない。
あのアイク殿のことだから、勲章とか爵位はいらないだろう。
そうなると、本当に我が家にはできることがない。
私が悩んでいると、お父様が何かを思い出したように手を叩く。
「そういえば……かの家は父親が身体を悪くしていて、アイク殿が早めに後を継いだとか。戦争で家臣も減り、中々に人手不足な状態とか」
「だったら……私がお手伝いに行っても良いでしょうか? 何かお礼をしないと気が済みません」
「確かに貴女は回復魔法の使い手でもあるわね。それに、人の目があるから暫く王都を離れるのも良いわ」
「幸い、これから夏休みに入る……うむ、早速陛下に聞いてみよう」
この胸の熱さが何なのかはわからない。
でも、このまま何も言わずに享受するなんて私には無理です。
アイク殿のお役に、少しでも立てたら良いのですが……頑張りましょう。




