手作り弁当
見張り小屋の表にあるベンチに座ると、眼下には草原が広がる。
その中を日差しを浴びたオルトスが駆け抜け、背景にある山々と共に目に入った。
それは何だが神秘的で、思わず見入ってしまうほどだ。
「綺麗ですね……」
「ああ、そうだな」
「あの山々を越えた先がヴェルダンでしょうか?」
「その通りだ。あの自然の要塞である山があるから、彼奴らは川を渡って攻めてくるしかない」
ヴェルダンがうちに侵攻するには方法が限られている。
それもあって、我が家だけでも守りきることが出来ていた。
基本的には川を渡ってくるので、発見することは難しくはない。
「今も、戦っているのでしょうか?」
「大きな戦闘はないが、小競り合いくらいは日常茶飯事だ」
「そうなのですね……王都や都市の平和は、それによって保たれている。改めて、アスカロン家に……いえ、アイクに感謝します」
そう言い、じっと見つめてくる。
嬉しいが照れてしまうので、話を変えることに。
「それより、食べていいだろうか?」
「えっ? ……もちろんです。ただ、期待しないでくださいね?」
すると、恐る恐る網状のボックスを取り出す。
その形状から、中身が何か察する。
開けると、予想通りにサンドイッチが入っていた。
「うん? 普通に美味そうだが?」
「そ、そうだといいんですけど……」
「とりあえず、食べていいだろうか?」
「はいっ、どうぞ召し上がってください」
なんだ? 目を瞑ってしまったが……もしやめちゃくちゃ緊張してる?
もしかして、セレナ様は『そういうキャラだったか?』
いや……例えドブのような味がしようとも、推しが作ったものなら死んでも食べる。
意を決してタマゴサンドから口に含むと……普通に美味かった。
「美味いな」
「ほ、ほんとです? 嘘はダメですよ?」
「嘘などではない。どれ、他のも食うか……ハムも美味い」
確かに見栄えはお世辞にも良いとは言えない。
形は何だが歪だし、具がはみ出ている。
サンドイッチの味付けなども大雑把だが……ちゃんと一生懸命作ったのがわかった。
公爵家の姫なので、きっとそんなに経験などないはず。
それでも作ってくれたことが嬉しいではないか。
「……っ」
「……何故泣く?」
「ご、ごめんなさい……違うんです」
こ、こういう時はどうすれば良いのだ!?
慰めるにしても、俺はもちろん前世の俺も経験値が浅い。
ええい! 前世の俺も役に立たん奴だ!
……ただ、何もしないのは男としてダメなのはわかる。
俺は意を決して、彼女を優しく抱きしめた。
「大丈夫だ、ここには俺しかいない。何が原因かわからないが、吐き出したければ好きにすると良い」
「アイク……ありがとうございます。そうですね……私は手料理などしたことがない家柄でした。だけど、王太子様が手料理を食べたいって言うから頑張ったんです。だけど、不味くて食えたもんじゃないって。あの子はちゃんとした料理作れるぞと……目の前で捨てられました」
「っ……!」
その瞬間、俺の怒りがピークに達する。
あのクソ王子、やはり拳1発では足りなかったか。
今度会ったらタダじゃすまんぞ。
そもそも、公爵家の姫と成り上がりの子爵令嬢を一緒にするのが間違ってる。
あっちは日頃からやってるし花嫁修行するだろうが、セレナ様は王妃になるための勉強をしてきたのだから。
「はっ、そりゃ見る目がないな。こんなに美味い飯を食わないとは」
「……ふふ、お世辞でも嬉しいです」
「言っておくが、俺はこの世で一番お世辞が苦手だ。そもそも、そんな器用な男なら王太子を殴ってなどいない」
すると、俺から離れて分かりやすく『きょとん』とした顔をする。
そのまま見つめていると……一転し破顔した。
それはとても魅力的で、心臓を鷲掴みにされる。
「……もう、アイクってば。でも、確かにそうですね」
「……ああ、だから素直に受け取ると良い」
俺は誤魔化すようにサンドイッチを食べ進める。
時折顔を上げると、セレナ様がニコニコと眺めていた。
それも見て思う……やはり、女の子は笑っている姿が一番だなと。




