デート?
そのまま歩き続け、次は住宅街にやってくる。
そこでは子供達が走り回ったり、奥様方が井戸端会議をしていた。
すると、俺に気づいた子供達が駆け寄ろうとする。
「あっ! アイク様だ!」
「こ、こら! やめなさい!」
母親が慌てて止め、俺に頭を下げる。
今までは何も気にしなかったが、前世の記憶がある分対応に一瞬戸惑う。
そうだ、俺は割と怖がられてるんだったな。
無理もない……余裕がなく、常に殺気立っていた日々だった。
しかし、今更どうして良いものか。
「なんで〜!?」
「な、なんでって……」
「行かないなら僕がいく! アイク様みたいに敵をバッタバッタ——イタッ!?」
そんな中、一人の男の子が走ろうとしてこけた。
すると、慌ててセレナ様が駆け寄る。
「だ、大丈夫?」
「うぅー……痛いよぉ〜」
「ほら、治してあげるから泣かない……ヒール」
掌から光が漏れて、少年の膝から傷が消えていく。
盛大に転けたので、かなりの傷だったが……これが使い手の少ない回復魔法か。
「……痛くない」
「ふふ、それなら良かった」
「あ、ありがとう!」
「すみません! ありがとうございます! ……あの、お金とか」
「いえ、そういうのはお気になさらずに」
「で、ですが……」
本当は無償の奉仕はあまり良くないのだが、今回は見逃すとしよう。
問題は、無償の善意を受け取った側だ。
貴族からの善意ほど、平民にとって怖いものはない。
俺はゆっくり近づき、母親に話しかける。
「大丈夫だ、報酬なら俺が払っておく。ところで少年、強くなりたいのか?」
「う、うん! アイク様みたいになるんだ!」
「俺を手本にしちゃダメだな。もっと優しくならんと……本当に強い男とはそういうものだ」
「そうなの?」
「ああ、俺もまだまだ修業中の身だが」
「わかった! 僕も優しくて強い男になる!」
「ああ、楽しみにしている」
そうだ、俺も最初の頃は父上のような強くて優しい男になりたかった。
まさか、今更気づかされるとはな。
母親に改めてお礼を言われ、散策を再開する。
「セレナ、感謝する」
「えっ? い、いえ、あれくらい……あれ?」
すると、彼女の目から涙が出てきた。
「す、すまん!」
「ち、違うのです! ……あんまり感謝されてこなかったので嬉しくて」
「……そうか」
それ以上は無粋だと思い踏み込むことなく歩く。
おそらく、王太子関連だとわかったからだ。
暫く歩くと、セレナ様がこちらを向く。
「……聞かないのですね?」
「言いたくなったらいうと良い」
「……ふふ、優しいのですね」
「そんなことはない」
いかん、微笑まれるとにやけそうになる。
しかしセレナ様が求めるならば、改めて強く優しい男を目指すとしよう。
そのまま歩き、最後に商店街近くにやってくる。
うちの都市は広い割に人は多くない。
なのでオルトスも安心して歩けるが、流石に商店街は話が別だ。
オルトスを入り口にある小屋に預けて、店が立ち並ぶ商店街に向かう。
そこには人々が溢れて活気がある。
「わぁ……凄いですね」
「王都の方が賑わっているのでは?」
「確かにそうかもしれないですが、私が行くときは静まり返ってしまって」
確か悪役令嬢として根も葉もない悪い噂を流されていたのだったか。
それに彼女ほどの身分の者が行けば、人々は萎縮してしまうだろう。
と言っても俺も人のことは言えない……よし、愛想は良くないが俺も頑張るとしよう。
覚悟を決めて、商店街に入って行く。
「あれって領主様? 隣にいるのは誰かしら?」
「物凄い美人だぞ」
「まさか、そういうあれかしら」
いかん、結局目立ってしまうか。
よし、なるべく愛想よく。
「ア、アイク? 物凄い怖い顔ですよ?」
「なに? ……笑ってるつもりなのだが」
「へっ? 私も良く言われますけど、アイクもそうなのですね。では、こうしてみましょう」
「な、なにを……」
何故か、両手で俺の頬をグニグニする。
その柔らかさと、彼女のドアップに心臓が跳ね上がった。
そして、彼女も気づいたらしい。
「……ご、ごめんなさい!」
「い、いや、平気だ」
「で、でも、これで良いはずですよ」
「ふっ、そうだと良いな」
確かにリラックスは出来たので、そのまま商店街を歩く。
幸いなことに避けられることもなく、騒がれることもなく店を眺めていく。
「こういうの初めてでワクワクしますねっ」
「まあ、そうだろうな」
「色々なものがあるんですね……あっ」
手作りのお土産物や屋台などを見てると、セレナ様が一瞬立ち止まる。
しかしすぐに動き出そうとしたので、慌てて手を引いて引き止めた。
「ア、アイク?」
「……アレか? 店主、そこにあるのをくれるか?」
「は、はい! もちろんです!」
「お代はこれで良いか? 多かったら取っておいてくれ」
「あ、ありがとうございます!」
俺は手早く会計を済ませ、すぐ近くにあるベンチに移動する。
そして、買った可愛らしい鷹の人形を差し出す。
セレナ様は遠慮しがちなので、考える隙を与えないように。
「あ、あの……」
「違ったか?」
「い、いえ、あってます……でも、ただでさえお世話になってるのに」
「先程のお礼だ。そうしないと、俺が民に嘘をついたことになってしまう」
すると、セレナ様の表情がコロコロと変わり……最後にコクリと頷いた。
やはり、押し付けて正解だったな。
すると、人々からヒソヒソと話し声が聞こえてくる。
「 プレゼントだわ」
「あら、領主様ったら人形を渡すなんて可愛いところあるのね」
「でも、領主様もまだ十六歳だもの。きっとデートの記念ね」
そんな会話があちこちから聞こえてくる。
セレナ様は人形に顔を埋めてプルプルしていたが、俺はデートという言葉に固まる。
今更なことに気づく……如何にもデートっぽいではないかと。




