外堀が埋まっていく
……言ってしまった。
いや、仕方ないだろ。
剣を振りながら考えたが、セレナ様は王都に行ったら狙われる。
そんなことは断じて許さん。
だったらうちにいれば、ひとまずは安心なはず。
問題は……俺の心臓が保つかということくらいか。
「ふぅ……こんなものか」
「お、終わりましたか?」
「っ……セレナ様」
振り返ると、そこにはセレナ様がいた。
どうやら集中し過ぎていたらしい。
何故か後ろにはオイゲンとサーラがいて、ニヤニヤしてるし。
「邪魔をしてごめんなさい」
「……いや、平気だ」
いかん、目が合うと顔がにやけそうになる。
見た目もそうだが、声も落ち着いたトーンでタイプだし。
これは気を引き締めていかねばなるまい。
「全く、主人が愛想が悪くてすみません。さあ、お昼ご飯にしましょう」
「くっ、放っておけ。さて、もうそんな時間か……セレナ様、良かったらご一緒に」
「は、はいっ……」
すると、見たことのない顔で微笑んだ。
普段は大人っぽいのに、まるで少女のような微笑みに胸が痛くなる。
俺は何とか平常心を保ちながら、食事が用意されている部屋に向かうのだった。
そのまま昼食を共にし、食後のコーヒーを飲む。
基本的には食事中は喋らないのがマナーなので、ここからが話し合いの続きだ。
正直言って……少し見慣れる時間が欲しかったから助かった。
「ご馳走様でした。とっても美味しかったですわ」
「それなら良かった。さて……セレナ様」
「はいっ」
「アスカロン家当主として、貴女を領地に置くことを認めます」
はっきり言って、ここは安全とは言えない。
故に、彼女には平穏にストーリーが終わった後は平穏に暮らして欲しかった。
しかし肝心の王都が危険となると、そういうわけにはいかない。
というか、俺の見通しが甘かった。
てっきり破滅ストーリーをクリアしたら、彼女は平気だと思い込んでいた。
「——ありがとうございます」
「いえ、お気になさらずに。ここにいる間は、好きに過ごして構いませんので。何かお願いがあれば、言って頂ければ善処いたします」
彼女は今まで頑張ってきたから、ここをひとまず休息の場所としてもらうのがいいか。
その間に俺は彼女に取り巻く悪意を粉砕する準備をするとしよう。
どうやら、彼女を救うためにはあれでは足りないようだ。
「それでしたら……その……」
「何でしょう? 遠慮なくおっしゃってください」
「……敬語をやめて、出来たら呼び捨てにして欲しいです」
「し、しかし、貴女は公爵家ですし」
「でも、お世話になる身ですから。それに、私達同い年だって聞きました」
タメ口? いやいや、公爵家の前に推しの女の子だし無理だろ。
そもそも女の子にタメ口などきいたことがない。
というか、そんなにじっと見ないでくれ……!
助けを求めるようにオイゲンとサーラに視線を送る。
「ん、とってもいいと思う」
「ほほっ、ですな」
「おい?」
待て待て、何でノリノリなんだ?
だめだ、この二人はあてにならん。
俺は最後の砦だと思い、バルド様を見る。
流石に大事な娘にタメ口など許さないだろう。
「ふむ……アイク殿、そのようにお願いする」
「はっ? し、失礼しました! しかし……」
「貴方が紳士なのはわかっている。ただ貴女が畏まっていると、娘はリラックス出来ないだろう。それに、高貴な女性だと周りにバレてしまう」
確かにその通りではあるか。
先程も言ったが、俺は彼女に休んでほしいと思っている。
……仕方ない、ここは頑張るとしよう。
「わかり……わかったよ、セレナ。その代わり、俺にも様をつけなくて良い」
「は、はいっ……アイク」
すると、少し恥ずかしそうに名前を呼ぶ。
その破壊力に、俺の脳が破壊されそうだ。
「っ……後は何かあるだろうか?」
「それでしたら……領地などを見てみたいです」
「それくらいならお安い御用だ。誰かに案内……痛いのだが?」
ふと隣を見ると、サーラが俺の足を踏んでいた。
更にはジトっと睨みつけて、俺に近づき耳打ちをしてくる。
「兄さんの朴念仁、アホ」
「酷くないか?」
「ん、兄さんに案内してって意味に決まってる」
「なに? 俺なんかが案内したところでつまらんだろ」
「それは本人が決めること……嫌なの?」
「もちろん、嫌なわけがない」
「なら良し」
そこで俺から離れる。
正面を見ると、セレナ様がオロオロとしていた。
クールな見た目とのギャップがあり、めちゃくちゃ可愛い。
「コホン……では、俺が領内を案内するとしよう」
「よ、よろしくお願いします——イタッ」
「……はい?」
頭を下げる際に、思い切り頭をぶつけたぞ?
あれ? こんなドジをする女の子だったのか?
……最高じゃんよ。
「うぅー……ふ、普段はこんなことしないんです!」
「ククク……そうなのか」
「あっ、絶対に嘘だって思ってる……」
「いや、そんなことない。さあ、出かけるとしようか」
きっと今までは真面目に、しっかりしなきゃと頑張ってきたに違いない。
良く良く考えてみれば、彼女はまだ十六歳の女の子なのだ。
これからは年相応に暮らしていけるように俺も手伝うとしよう。




