きた理由
残党処理や死体処理などを部下に任せ、俺はセレナ様と共に街に戻る。
詳しい事情は、屋敷に帰ってからということにした。
俺自身も心の整理がつかない状態だったので、正直言って助かった。
馬を馬車に並走させていると、窓からセレナ様と目が合う。
すると、アワアワしながら目をそらす。
「……なんだあれ、めちゃくちゃ可愛いのだが?」
「アレス様?」
隣にいたエレンが不思議そうに首をかしげる。
しまった! 声に出てしまった!
「い、いや、何でもない。それより、お主は何故ここにいる?」
「そんなに難しい話ではないのですが、貴方が出て行ってすぐに村長の許可を取って村を出たんです。それで、その道中でセレナ様一行と出会いまして……僕がアイク様と会ったことがあるというと、一緒に行こうと言ってくださったのです」
「なるほど、許可を取ったなら良い。しかし、何故うちに?」
「え、えっと……お恥ずかしながら貴方に憧れまして……兵士として雇って頂けないかと」
「……すまない、すぐには答えられんな。後で時間を取ると約束するので、少しだけ待ってくれるか?」
「い、いえ! もちろんです!」
はっきり言ってうちは常に人手不足だ。
故に大歓迎ではあるが、すぐに死んでしまうようなら意味がない。
後できちんと適性を判断するとしよう。
……何より、今の俺では冷静な判断が出来ん。
何故なら先程からセレナ様がチラチラと見てくるからだ。
そして門を通り、皆に出迎えられた後……屋敷の中に入る。
すると、サーラとオイゲンが出迎えてくれた。
そこで軽く自己紹介と挨拶を終え、すぐに客室に通す。
ようやく落ち着いたので、詳しい話をすることに。
「まずは助けて頂いたことに感謝を。そして、いきなりきて申し訳ない」
「ご迷惑をかけて本当にごめんなさい」
「頭をお上げください!」
二人して深々と頭を下げてくる。
この世界は階級がモノを言う世界、公爵家ともなれば王族に連なる家。
王族以外に、軽々しく頭を下げていい方々ではない。
「いや、どうか下げさせてくれ。我々の家は、貴方に救われたのだ。サーラ殿や寝たきりの前当主にも感謝を」
「本当に……なんてお礼を言ったらいいか」
「それについてはお気になさらずに」
「そうですよ、お二方。私は誇らしいし、お父様もお褒めになるかと」
しかし、二人は中々頭を上げようとしない。
こうなるから嫌だったのだ。
律儀なことは知っていたので、こうなることは目に見えていた。
俺はただ自己満足のためにやったに過ぎない。
「こほん……割って入ることをお許しください。我が主人はそういうのが苦手でして、私がお相手いたしましょう。ひとまず、その先についてお話をしては如何でしょうか?」
「確かに話が進まないか。では、私から説明させてもらおう。我々としては借金は別として、大事な娘と家を救ってくれたアスカロン家にお礼がしたいと思ってきたのだ」
「なるほど、そういうことでしたか。借金については、後程サーラ様とお話になるとよろしいかと。それで……襲われていたのは何故でしょうか?」
「それは……おそらく、オズワルド家の刺客だ」
あの狸ジジイ、ここで出てくるか。
なるほど、セレナ様を手に入れるために放ったのか。
目撃者を始末してセレナ様を拐えば、後はどうとでもなると思ったに違いない……度し難い。
「っ……」
「に、兄さん! 落ち着いて! セレナ様が!」
ふと我に帰り前を見ると、セレナ様が目を見開いていた。
しまった、俺としたことがあまりの怒りに殺気が漏れてしまったか。
「も、申し訳ない」
「い、いえ……」
「これが英雄と呼ばれる青年の覇気か……娘のために怒ってくれて感謝する」
「ふむふむ……整理しますと我が家に恩を感じて訪ねたところを、オズワルド家に狙われたと……アイク様のせいですな。そもそも、きちんとお礼を受ければ良かったのです」
そう、それも怒りの原因だった。
俺がきちんと後始末をしなかったからだ。
推しに会うという緊張もあって避けてしまった。
「ち、違います!」
「いや、オイゲンの言う通りだ。俺がきちんとすべきだった……申し訳ない」
すると、セレナ様が身を乗り出して……俺の手を握ってくる。
それはとても柔らかく、心臓が跳ね上がった。
思わず声が出なかった自分を褒めてやりたい。
「そんなことありません! 貴方は私を救ってくださいました! もうどうしようもなくて……だから謝らないでください」
「……わかりました」
「これ、アイク殿が困ってる」
「あっ……ご、ごめんなさい」
「いや、それこそ誤る必要はないです。さて、お礼についてですが……一応、受け取りましょう」
これは受け取ると言わないと終わりそうにない。
とにかく、一刻も早く部屋から出たい。
さっきから目が会うたびに心臓が痛くなってくる。
一体、これはなんだろうか。
「感謝する。今さっき助けてもらった上に、これがお礼になるかはわからないのだが……娘をアイク殿の側に置いてもらえないだろうか?」
「………はっ?」
その言葉に、再び俺の脳は停止するのだった。




