19.旧友
マエストロが旧友と再会するお話。
マエストロ:……ここはどこだ?
春里:佐藤君。
マエストロ:……ハル? ハルなのか!? どうしたんだ、その姿は!? まるで出会った時のようじゃないか!
春里:君、自分の姿も見てみなよ。
マエストロ:なんだこの手は!? まさか、若返ってる!? この肌……間違いない。昔の私だ。そうだ、ルミ子は? ルミ子に見せてやろう! おーい!
春里:ここにはいないよ。
マエストロ:なんだと? ……ここは、もしかして……。
春里:佐藤君。君に話したかったことが、たくさんあるんだ。全部ではないけど、ちゃんと見ていたよ。葬式にも顔を出してくれたね。
マエストロ:遅くなってすまなかった。
春里:何を言ってるんだ。君はいつだって忙しいだろ。私から会いに行けたらよかったんだ。できるならそうしたかった。……ごめん。……でも、こうして会えたね。
マエストロ:あぁ。そうだな。寂しくなかったか?
春里:そんなにかな? だって愛する妻がいるし、子供たちの演奏会を聴きにいったりして、毎日充実してるんだ。みんな壁にぶつかったら、悩んで、もがいてもがいて、それでも前に進んでる。頼もしいね。それに誇らしい。そういえば、この前教え子のひとりが墓参りに来てくれてね、知らない男を連れているかと思えば、嬉しいことに結婚の報告だった。あんなに小さかった子がもう大人になったんだなぁって、妻としみじみしてしまったよ。……あ、そうそう。その子から聞いたんだが、佐藤君の孫と仕事してるらしい。
マエストロ:そうなのか?
春里:自慢してきただろ? あの子に君の孫の演奏を聴かせたことがあるんだ。
マエストロ:世間は狭いな。あいつ、会社建てたんだ。どんどんでかくなってるよ。
春里:てっきり、プロ奏者になるかと。
マエストロ:ハルが教える側になったように、あいつも人を育てる方を選んだんだよ。私に似てるからね。
春里:才能があるところ?
マエストロ:いや、ないから努力するところだ。ま、正確には「ないと思ってる」だがな。現状に満足しないから貪欲に吸収できる。たくさん人が育てば、自分の世界がまた広がって成長するとわかってるんだ。……あ、孫といえば。
春里:なんだ?
マエストロ:孫が三人になった。ひとりは知らぬ間に産まれていたようだ。
春里:ん?
マエストロ:おまけに曾孫と玄孫までな。会ってはないが、たぶん元気で暮らしてるだろう。それと、三人目の孫もヤンチャで可愛いよ。あれは完全に母親似だ。将来大きくなったら、スピードスケーターとしてオリンピックに出ると意気込んでる。
春里:音楽の道じゃないんだな。
マエストロ:なんだっていいさ。好きなことが好きなようにできるのは、とても幸せなことだから。……私もね、楽しい人生だった。ルミ子が来るまで、これからはここでハルたちとみんなを見守っていこうかな。
春里:それはまだ早いようだよ。
マエストロ:え?
春里:ほら、呼んでる。行きなよ。私はもう少し待ってあげるから。
マエストロ:ハル……!
マエストロ:……っ!
ルミ子:あ、やっと起きた。
マエストロ:……ハルは?
ルミ子:何寝ぼけてるの? うつ伏せで寝てて動かないから心配したわよ。
マエストロ:……戻ってきたのか。
ルミ子:そんなに早く三途の川渡りたかったの?
マエストロ:いや、それはない! ルミ子ともっとイチャイチャしていたいからな! 愛してるよ、ルミ子。
ルミ子:……冗談言ってないで、さっさと顔洗ってきなさい。
マエストロ:本気だって知ってるだろ?
ルミ子:はいはい。
マエストロ:(……ハル。またな)




