8.実音、おつかいに行く
島原に来て初めてひとりで買い物に行く実音を、海と大護が後ろから見守るお話。
海:はい、これ地図ね。
実音:手作り?
海:手、込んどるでしょ!
大護:海は描いとらんやろ。
海:うん。ひーちゃんにお願いした。
実音:これなら迷わないね。じゃ、行ってきます!
海:いってらー!
大護:気をつけてな!
実音:うん!
海:ちゃんと撮れとる?
大護:わからん。普通のスマホだしな。ってか、これストーカーしとるみたい。やっぱ気が進まん。
海:文句言わんの。感動ドキュメンタリー作っとるけんね、気分は撮影スタッフよ。わたし、テレビ局の偉い人ね! プロデューサーとかディレクターとか。大護は下っ端AD。
大護:そこはベテランカメラマンやろ!
海:やぐらしか(うるさい)! 実音が気づくでしょうが! あ、消えた!
大護:あそこ、まだ曲がらんぞ。
海:はい、早速迷子! 言っとったとおりの方向音痴だったね!
大護:追いかけるぞ!
海:ラジャー!
海:ワンコ! ワンコと遊んどる! 散歩中のワンコも実音にメロメロやね。もしかして、ルートずれとるの、まだ気づいとらん?
大護:……可愛い。
海:キモッ! 今、大護ただの変質者よ。
大護:いかん、いかん! 俺としたことが。心にベテランカメラマンを宿さんとな。
海:あ、動いた。行くよ、下っ端AD!
大護:だから撮影しとるけん、カメラマンやって!
海:……見失った。
大護:海が途中で動かんくなったのが悪い!
海:だって、美味しそうな匂いのする家あったら、自然と止まっちゃうもんでしょ!
大護:ならんよ! とにかく捜すぞ!
海:スーパーにもおらん!
大護:どこだ!? どこにおる!? まさか誘拐か!? け、警察にーー。
海:大護、落ち着いて! こういう時、まずは電話よ! えっと、警察は一一九だっけ?
大護:お前が落ち着け! それは救急車呼ぶやつだ!
海:あ、実音から電話! もしもし!?
実音:『もしもし。目的地着いたよ。買うものにお菓子ならなんでもって書いてあるけど、リクエストないの?』
海:え、実音もう着いたの!?
実音:『うん。結構遠かったね』
大護:え、おらんぞ?
海:わたしたちもスーパーおるんよ。実音どこ?
実音:『え? ふたりいるの? どこに?』
大護:写真撮れるか?
実音:『うん。ちょっと待ってて』
海:あ、来た。えっとー……どこ?
大護:……ここじゃなか! 実音! どこまで行ったんだよ!
海:本当だ。そこ、指定した場所と違うよ。
実音:『……あれ?』
大護:実音。迎え行くけん、そこ動くなよ。
実音:『わかった。見えやすい所で待ってる』
大護:だから動くなって!
海:お菓子だけ買っといて! なんでもよかよ!
実音:『了解』
海:実音ー!
実音:お迎えありがとう。
大護:地図見てもここが間違っとるって、わからんかったか?
実音:お店の名前が違うなぁとは思ったよ。
海:ま、おつかいできたならそれでよか。で、何買ったと?
大護:いや、帰れとらんけん、おつかいできとらんよ。
実音:「丸ぼうろ」買った。
海:やったー!
実音:これ、東京だとあんまり見かけないんだよね。九州の物産展とかアンテナショップならあるけど。
大護:そうなのか?
海:これってこっちだけなんだぁ。
実音:たしか、佐賀発祥だっけ? 東京で「ぼうろ」って言うと、「たまごぼうろ」になっちゃうよね。
海:ふーん。ま、食べよ、食べよー! 桟橋行こ! あそこで食べよ!
大護:飲み物もいるな。
実音:牛乳買ってあります!
海:完璧だね! また実音におつかい頼もっと!
大護:もうさせんって。




