6.外部対策
定期演奏会数日後の実音とメガネーズのお話。
実音:じゃ、左向くとこね。一と二と三と四とストップ! ……田中、ちょっとベル下げて。うん、そこ。長谷部は上げて。あと角度つけすぎ。そう、そこ。……小野、姿勢。
小野:これでも良くしてるつもりなのー!
実音:胸からお客さんに見せるつもりでやってみて。小野は肩が内側に入ってる。もっと後ろから引っ張られてる感じ。
小野:こう?
実音:まだ猫背。
小野:こ、こう?
実音:うん。最低でもそれね。
小野:キツいよー!
長谷部:文句言わない!
小野:怒らないでよー。
長谷部:うるさい!
小野:雅楽川ー。長谷部が恐いよー。
実音:小野の位置は目立つんだから、嫌でもちゃんとやんないとだよ。
小野:ふぇーん。
実音:それと、みんな顔が全然楽しそうじゃない。
長谷部:……笑いながらなんて吹けないし。
実音:目尻と眉の力を抜いてみて。あとは、吹いてない時に全力で笑顔ね。こんな風に。
小野:うん、可愛い。
田中:(やだ、可愛い!)
長谷部:(ギャー! 反則級の笑顔向けられたー! 激カワー! 今の写真撮りたかったー!)
実音:はい、やってみて!
小野:えっと、えへへへへ。
田中:……。
長谷部:……。
実音:小野、目線動かさないで。笑顔も引きつってる。田中は……か、変わった? ほ、ほら、笑って! にーって! ……うん。ごめんね。……長谷部は目がバキバキだよ。顔の筋肉がピクピクしてるし、力抜かないと。
百鬼:……これはなんの練習なんだ?
実音:あ、先生。お疲れ様です。この前の定期演奏会で小野のアンコールでのスタンドプレイが上手くいかなったので、みんなで練習してるところです。
百鬼:小野。公演後に講師の先生方と話した時のこと、覚えてるか?
小野:えっと……褒められました!
百鬼:そういうことじゃなくて、お前はずっと下向いてただろ。
小野:目は見てました。
百鬼:姿勢が悪いと言っているんだ。
小野:……はい。
百鬼:訊かれたことにもすぐ答えられず、ずっとヘラヘラしていたな? あの後、先生方が私に心配そうに尋ねてきぞ。こちらから上手く言っておいたが。
小野:ヘラヘラしてるつもりはないんですけど、えっと、ああいうやつ苦手っていうか……。
百鬼:吹いてる時の堂々っぷりはどこに行った? 楽器だけできても、それではこの先苦労するぞ。……三人も同じパートなんだから、小野をしっかりフォローしなさい。
長谷部:はい。
実音:はい。
田中:……はい。
百鬼:もう時間だ。そろそろ片づけするように。お疲れ。
長谷部:はい、お疲れ様でした!
実音:お疲れ様でした。
田中:……お疲れ様でした。
小野:でしたー!
長谷部:……小野!
小野:ん?
長谷部:もっと言動に気をつけて!
小野:え? オレ、なんかした? ……あー、百鬼先生、マジ恐かったぁ。
長谷部:そういうところ!
小野:何が?
長谷部:はぁー。雅楽川もなんか言ってやって。
実音:小野はさ、ここの代表として振る舞わないと。態度も言葉も、小野個人じゃなくて方南として捉えられるんだからね。
長谷部:そう! せめて顔だけでもなんとかして!
小野:顔?
実音:先輩たちの顔、小野もやってみよ? 本番とか部員以外と話す時は姿勢を伸ばして、キョロキョロしないでじっとするの。真剣な顔、できる?
小野:えっと……どう?
実音:うーん、まぁ、及第点?
長谷部:外部から何か訊かれたら、その顔作って。田中も後ろで同じ顔してれば圧かけられるでしょ。で、質問に答えるのは代わりに私たちがやるから。
小野:……うん。わかったよ。
実音:よし。片づけしながら小野は真剣な顔作って、長谷部と田中は笑顔の練習ね!
小野:……雅楽川って、まともそうだけどスパルタなとこあるよなぁ。
田中:(無自覚なスパルタなのよね。でも、可愛いから許せちゃう!)
長谷部:(好き!)




