3.実音、先頭を歩く
実音が小学生時代、サン=サーンスの『動物の謝肉祭』を部活で演奏することになり、勉強のために部員みんなで動物園へ行った時のお話。
実音:バスに忘れ物してないですか? ……大丈夫だね。園内は広いので、迷子にならないようにちゃんと二列でついてきてください。あと、ほかのお客さんもいるし、動物も寝てるかもしれないので、騒がないように気をつけてください。
部員たち:はい!
実音:じゃあ、行きます。
部員A:ペンギン可愛い! ヨチヨチしてるね!
部員B:シーッ! 声、大きいよ。
部員A:あ、はーい。……止まんないの? ゆっくり見たいのに。これ、水族館の場面じゃないの?
部員B:後でまた来るんじゃない?
部員C:今どこに向かってるの?
部員D:なんか実音ちゃんが「完璧なルートで進む」って言ってた。
部員C:ふーん。猿見たいなぁ。
部員D:猿は関係ないでしょ? あ、ピアノ置けばいいのかな?
部員C:えー。弾いてくれるかな? やっぱそこは人間じゃないと。でもそれとは別で猿見たい。
部員E:鈴木さん、今日は来てないんだね。
部員F:ママたちに写真撮ってもらって、今度来た時に見せてあげようよ。
部員E:そういえばハル先生たちは?
部員F:先にお昼休憩の場所で待ってるって。奥さんがおにぎり作って持ってきてくれたらしいよ。
部員E:え、楽しみ!
部員F:ね! ママのお弁当も美味しいけど、奥さんお料理上手だから、おにぎり早く食べたいね。
保護者A:みんな全然止まんないね。どこまで行くつもり? なんだか四年生の子たち疲れてない?
保護者B:というか、ここさっき通らなかった? 入り口の方に戻ってる気が……。
保護者A:ねぇ。みんな何見に行くところ?
部員A:さあ?
部員B:部長についていってるだけだもんね。……ん? 後ろの方で誰か叫んでる。
部員A:あ、走ってきた。
副部長:実音ちゃん! 道違くない!?
実音:…………あれ?
春里:園内のマップ見て、事前にルートを確認したんじゃなかったのか? そう言ってたもんな?
実音:……しました。
春里:だったら、なんで午前中ほとんど動物を見れてないんだ?
実音:わかんないです。
春里:ん?
副部長:実音ちゃん、マップのとおりに進んでたつもりなんだよね?
実音:うん。曲の順番に沿って見ようと思って、まずはライオンのエリアに行きたくって……。
副部長:でも、全然そこに着かなかったんだよね?
実音:うん。ごめんなさい。
副部長:私も後ろの子たちを見るのに精一杯で、道順が合ってるのか確認してあげられなかったです。ごめんなさい。
春里:謝るならみんなにだろ?
実音:はい。
副部長:はい。
春里:ご飯食べたら、移動する前にみんなに言うんだよ。それにしても、いつも迷うことなんてなかったのに、こんな目印の多い場所でどうしてこうなるかな?
副部長:知ってる道なら大丈夫なんじゃない?
実音:うん?
副部長:ホールはさ、何度も行ったことあるから迷わないでしょ?
実音:あ、うん。
副部長:初めての場所だと、マップ見ても実音ちゃんには難しいんだよ。ごめんね。実音ちゃんの方向音痴度、私ナメてた。
実音:……方向、音痴?
春里:なんだ、迷子になったことがあるのか?
実音:えっと…………あ、はい。
春里:まぁ、誰にでも苦手なことはあるからな。午後はふたりの位置を入れ替えなさい。いいね?
実音:はい。
副部長:はい。実音ちゃん先頭にしたら、いつまで経っても辿り着かなくてみんな化石になっちゃうもん。
実音:へ?
春里:お、上手いな。
実音:え?
春里:雅楽川さんはこの先、初めて行く場所は必ず誰かに案内してもらいなさい。
実音:……はい。




