おまけ.エトワール
Lucieの自由奔放な性格が、たまに羨ましく感じる時がある。私よりバレエの神に愛されていて、こちらができないような行動だって平気でできる。
才能のない自分が嫌になるけれど、母親が違くたってあの子は私の可愛い妹。これだけはずっと変わらない。
私たちの前に現れた日本人のネイロは、生意気だけど純粋で、音楽の神に愛された男の子。
Lucieは彼が大好きで、彼もあの子が大好き。ふたりなら、バレエの世界に新しい風を吹かせるかもしれない。何より、Lucieが楽しそうなことが私は嬉しい。
だから、ネイロがフランスを去ってしまってからのLucieは見ていられなかった。
彼の才能を、同じく天才の彼女だから閉じ込めたくなかったのかもしれない。お互いが辛い別れになっても、Lucieはそう判断するしかなかった。それくらい、大きくて大事な人ができたのだ。
「Lucie。大丈夫? 眠れてないんじゃない?」
「大丈夫よ。……あのね、私決めたの」
「何を?」
「ネイロへの怒りを、今日のレッスンでぶつけて活かす」
「……え?」
「私を置いていった彼のこと、たぶん一生恨むわ」
「ねぇ、ちょっと待って。Lucieって、ネイロが好きだから別れたんじゃないの?」
「違うわ」
「……え?」
「あの軟弱と付き合っていたなんて、自分が信じられない。踊り狂って忘れてやる!」
「……」
Lucieのことが、私にはわからない。
ネイロは別れるつもりなんて少しもなかった。振ったのはLucieなのに……。
私が思っているよりも、この子はずっと幼いようだ。
数年後、Lucieが突然結婚すると宣言した。
相手は絵描きのアジア人。レッスンを抜け出している最中に街で出会ったらしい。これに家族は猛反対。そしたら彼女は家出してしまった。本当に手のかかる妹だ。
その後、念のためにメールを送っておいたネイロからまさかの連絡があった。日本へ行くなんて、どうしてまたそんなことを。
それから更に数ヶ月が経って、Lucieは恋人と結婚した。妊娠した彼女を、もう誰も止められなかった。そしてハーフの男の子が産まれた。
私の甥っ子は本当に可愛い。
耳が良く、レッスンで流れる音を楽しそうに聴いている。
この子の父親は、劇場の美術スタッフとなった。仕事熱心で真面目な性格だ。子供のことをとても可愛がっており、いつも愛おしそうに抱く。
「髪色や瞳はLucieと同じだけど、それ以外はあなたによく似てるわね」
「そう思いますか? そう言ってもらえると、ちょっと嬉しいですね。僕の血は入っていないのに、ちゃんと親子だって認められたようだ」
「…………え? あなたの子でしょ?」
「あれ? Lucieから聞いてませんでしたか? 僕、病気で子供は……。今ってそういう提供があるじゃないですか。こうして元気に誕生してくれて、親にしてくれて、とっても感謝しているんです。僕はこの子のこと、本当の息子だと思って大事に育てますよ」
「……」
その後、Lucieたち三人は姿を消した。
風の噂では、どうやら田舎で自由に過ごしているらしい。
日本にいるネイロとは、今もたまにメールをする仲だ。
柔軟性を高めるストレッチの方法を教えてほしいと頼まれ、動画に撮って送ってあげたこともある。会社を設立した彼に、エトワールの私は仕事として協力を惜しまない。
Lucieのことは訊かれない。訊かれても、どう答えたら良いのか困ってしまう。あの可愛い甥っ子の父親が誰かなんて、考えたって何かが変わるわけでもない。もしLucieたちが私を頼ってくることがあったら、その時は姉として味方になるだけだ。
ただ、これだけは言わせてほしい。
Lucieの考えていることが、本当にわからない!




