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第六章 夜闇に吹く赤い風

 その後の検査で、愛桜は特に異常も見つからず、そのまま学校へと戻っていった。

一方の俺はというと、警察に事情聴取のため呼び出されて、結局その日は学校を休む羽目になった。

重たい空気の中、やけに静かな取り調べ室で、何度も同じ質問を繰り返されるたびに、胸の奥がズンと沈んでいくのを感じた。


「今週は時間が早く感じたな……昨日でもう金曜日だったのか……」


ぼんやりとした頭で、天井の蛍光灯を見つめる。部屋の中には誰もいない。時計の針がやけに大きく音を立てていた。

そういえば、DELETE本部から招集が来てたんだったな……正直、行きたくない。でも、今回は司令からの直接命令。サボればそれ相応のペナルティがあるのは、痛いほどわかってる。


『こちら霊、これから本部へ向かいます……行きたくないけど……』


無線越しに吐き捨てるようにつぶやく。朝の空気はじっとりと重く、心なしか息苦しい。


『こちら、司令。行きたくないのはわかるが、定期検診もライセンスの更新も、専用武器の登録もしないといけないのだ』


ああもう……めんどくさいことばっかり。

いろいろ詰め込まれてるからこそ行きたくないんだっての。身体をだらりとソファに預けていたその時——


ピンポーン。


玄関チャイムが鳴った。思わず飛び起き、のぞき穴から見ると、黒スーツが立っていた


「まじかよ……ここまで来なくてもいいだろ」

「こんにちわ、開けてください、行きますよ」

「いま、着替えてるんで……そろそろ行きます」

「失礼しまーす」

「ちょーいちょいちょい、待て待て!なんで入ってこれてんだよ……」


ドアが開く音と同時に、部屋に入ってきたのは制服姿のDELETE所属のエージェント。

いや、まぁDELETEなら鍵くらい持ってるかもしれないけどさ……プライバシーってもんがあるだろ。


「着替え終わってるじゃないですか、行きますよ」

「いやだー!はなせー!行きたくないー!」


駄々をこねながらも、体はゆっくりと玄関の方向へ引っ張られていく。

本気で逃げるつもりもない。いや、逃げられないのをよく知ってるからだ。

黒塗りのバンが目の前に迫る。両脇をがっちり固められて乗せられる様子は、どう見てもただの誘拐。

通行人が振り返っているのが視界の端に映った。


「こりゃ親子みたいだな……休日くらい休ませてくれよ……」


車内に押し込まれた瞬間、微かに香るレザーのにおいが、いつもの“仕事”を思い出させる。


「やぁ霊くん、休日なのにすまないね」


前方の席から声がした。低く落ち着いた声。使い古された白い帽子が見える

顔を向けると、神楽坂司令がにこやかにこちらを見ていた。


「っ!神楽坂司令……そんな、司令自ら足をお運びいただくことなかったのに……」

「いや、こうしないと来ないかと思ってな。本気で逃げれば逃げられるだろう?」


冗談めかして言っているが、その目の奥はまったく笑っていない。

司令は俺の性格を熟知している。逃げ道を封じた上で、なお「自分で選ばせる」ようなやり方をしてくる。

ほんと、嫌な大人だよ。


いやまぁ、逃げたら逃げたで、その瞬間に“バックスペース”されかねないってのが現実だからな……

頭の中で冷や汗が滲んだ。


「それと、この件は君に直接伝えたくてね。新しくできた個人経営の暗殺組織『Caps Lock』という組織があるのを知っているか?」

「いえ、聞いたこともありません……」

「どうやら、表向きは個人経営らしいのだが、バックに『Shift』がついているらしくてな」


Shift——DELETEと同じく暗殺専門の組織。だがshiftは非合法で、政府の認可もない。

以前は活動の噂がちらほらあったが、最近はその名も耳にしなかった。

まさか、その裏でそんな動きがあったとは。


「そのCaps Lockが我々DELETEを破壊すると言っているそうだ。少数精鋭の部隊らしくてな。そのトップは、霊。お前並みだそうだ」


……俺並み?は、そうかい。

そんな奴、見たことねぇけどな。


けど……胸の奥にほんの少し、ぞくりとするような不安と興奮が走った。

何かが静かに始まっている。そんな予感がした。


「そういうことがあるために、我々の戦力を増強しなければならない。そのため君にはF1の強化をしてもらう。これは命令だ」


ははは……やりたくねぇ……

けど、司令からの命令を断った時点で、俺の存在も”バックスペース”されるのはわかってる。

この世界は、そういう透明な掟で動いてる。


「わかりました。やりたくはないですけど、やります」

「ははは、実に君らしい」


車は静かに、しかし確実に“本部”へと向かっていた。

重くなる心を振り切るように、俺はゆっくりと窓の外に目を向けた。


「それと、霊、護衛対象で四月一日愛桜(わたぬきあいら)だが、昨日の奇襲は予想以上だった、正直こちらも対応が遅れてしまって申し訳ない、捕まえた一人から話を聞いたのだが、一番最初に生け捕りにしたやつには賞金の3倍払うといわれたそうだ」

「生け捕りですか…殺さずに?かかっているのは暗殺懸賞金のはずですが?」

「あぁつまり、何らかの理由があっての行動だ、おそらく身代金の要求でもするつもりだったのだろう、無駄だというのに…」


はぁ…やばいもうついちまう…胃がいたい…

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