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守るための殺し

学校へ向かう道。

朝焼けに染まる金時通りは、今日も騒がしい車の音と、登校中の学生たちの足音が混ざり合っていた。街のざわめきの中、ふとした静寂が耳を刺す。賑やかさの裏に潜む静けさに、彁絲かいとはふと首をすくめる。まるで、その沈黙が何かを告げようとしているかのように感じられた。


「ねぇ彁絲くん、今日の一限目って何だっけ」

「それさっき賢太とも話したわ。数学だよ」

「えぇ!本当?数学かぁ……大変だなぁ…」


愛桜あいらは両手を頬に当てて、嘆くように顔を歪めた。彁絲はその様子に苦笑する。


(まぁ確かに、朝早くから数字とにらめっこはしたくないか……)


愛桜が急にくるりとこちらを向いて、微笑んだ。


「あっそうだ、彁絲くんさ、今日の私、いつもとどこが違うでしょうか?」


彁絲は思わず目を細めた。


前髪が2cmほど短くなっている。ピアスが宝石から、和柄の花札風に変わっている。靴下は膝上まであるロングタイプ。そして唇には、普段よりも少しだけ鮮やかなリップグロス……恐らく「ichizyo」のNo14。


「いっぱいあって、どれのことかわかんないや……」


「うっそだぁ!本当は一つもわかってないんでしょ〜?」


「あーじゃあ……前髪切った? 2㎝短くなってる。ピアスは宝石じゃなくて花札モチーフ。靴下は12㎝長い。リップグロスの色もNo14に変えた?」


言い終えて、彁絲は内心で顔をしかめた。


(……やべっ、言いすぎたかも)


「嘘っ……すごーい!全部わかっちゃうなんて……さすが彁絲くん…」


愛桜は、驚きと喜びの混じった声で顔を赤らめた。


「試したのか?」


「うん、にしても全部わかっちゃうんだ……いや~すごいわ~」


「……あとはそうだな。いつもよりも、少しだけ機嫌がいいかな」


「うん、そのとおり!だって——」


その瞬間だった。


(んっ……この気配……狙われてる)


彁絲の中で空気が凍りついた。視線の端に、建物の陰に潜む黒い影が映る。


「愛桜、足元気を付けてね」


愛桜が言われた通りに足元へ目を落とした瞬間、彁絲は袖口から一本の鉛筆を抜き取った。


(今がチャンス……50m以内。殺れる)


風を切る音と共に、鉛筆が正確無比に宙を走った。その直後、遠くで小さな音とともに気配が霧のように消える。


「どうかしたの?彁絲くん」


「いや、なんでもないよ。ちょっと段差が気になっただけ」


(……あっぶねぇ。あと一歩ずれてたら、別のやつに当たってた……余計な動きすんなよ)


彁絲は笑顔を崩さず、いつもと変わらぬ学生の顔を装う。


『こちら霊、護衛対象・愛桜を狙撃しようとしていた者を一名排除。クリーナーを要請。目撃情報なし』


耳に仕込まれた通信装置から、短く確認の音が返る。日常の皮をかぶった非日常の世界。その中を、彼は今日も歩いていく。


もちろん、晃成。以下はあなたの元の文章に情景描写と心理描写を加えた改稿です。全体の雰囲気を壊さないよう注意しながら、緊張感や感情の揺らぎを丁寧に描きました。


---


夕暮れ時の駅前。朱に染まり始めた空の下、雑踏の中を肩を並べて歩く二人。その中で愛桜は、ふと足を止めて言った。


「あっそうだ彁絲くん、今日帰りに寄りたい所あるんだけど付き合ってくれる?」


彼女の声には、いつもの柔らかさと少しの期待が混じっていた。


「もちろん、愛桜とならどこでも」


一瞬の間。小さな微笑みが彼女の唇に浮かぶ。そして、少し冗談めかした口調で問いかけてくる。


「やっぱり、私のこと好き?」


その言葉に、俺は少し戸惑いながら答える。


「うん?うん、もちろん、大好きだよ」


——だが、本音を言えば、俺には「好き」という感情がよくわからない。


好きな食べ物、好きな映画、好きな人——どれも今までの人生において空白だった。

美味しいものは美味しい、それだけ。心が特別に動かされることはない。

映画も同じ、面白ければ面白いし、つまらなければそれだけ。誰かに「一番好きな映画は?」と聞かれても、答えに詰まるだろう。


「うん、私も~」


何気ない会話の中で、愛桜は笑った。その笑顔を見て、俺は——本当に俺は、大切に思っているのか?と自問する。


……あそこだ。赤塚ビルの屋上。何かの違和感に目を細める。


高架を越えて500mほどの位置に一人。狙撃手——こっちを狙っている。

身を乗り出したが、今の俺の位置では排除は無理。


『こちら霊、赤塚ビルの屋上に狙撃手がいる、俺からは排除できない。狙撃手の手配を頼む』


『こちらオペレーター。その地域には狙撃手を手配済みです。恐らくもう排除されるかと』


肩の力が少し抜けた。

だが、同時に胸の奥に小さな焦燥感が広がる。


「おっ…」


「ん?どうしたの彁絲くん?行こ、ほらほら遅刻しちゃうぞー」


愛桜の無邪気な笑顔が、今の状況と奇妙なほど対照的だった。


「いつもより時間に余裕あるから大丈夫だよ」


さりげない嘘を重ねる俺。守るべき者がそばにいる。それだけで、任務に対する重みが違ってくる。


『こちら霊、まさかとは思ったが…オリオンか?』


『はい。護衛対象に懸賞金の上乗せが発表されましたので、配備しました。なにか問題でも?』


『いや、最高だ。ありがとうございますと司令に伝えておいてくれ』


コードネーム:オリオン。俺の同期で、狙撃に特化した男。


近接戦闘に関しては壊滅的な才能しか持たないが、狙撃だけならF1クラス。惜しくもランクは「F2」どまりだ。


この組織について話しておこう。


DELETE——暗殺者たちの階層構造を持つ組織。

ランクはF12からF1まであり、数字が小さいほど実力者。

暗殺の才能がないと見なされた者はF9以下になり、クリーナーやオペレーターとして働く者が多い。


そして俺は「F0」。

階層外——その存在自体が、特異で、例外で、規格外。


俺が本当に「好き」という感情を理解する日は来るのだろうか。

守るべき人がすぐそばにいる。それだけは、確かなことだった。

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