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コードネーム(霊)

ただ普通の学生のように過ごす彁絲かいとは、国家暗殺組織DELETEに所属する暗殺者だ。


なぜ暗殺者なんかになったんだろうか……そんなことはもうとっくに忘れた。


朝、04:00。アラームの鳴る少し前に目が覚める。起き上がると、室内はまだ薄暗く、窓の外には月の名残がぼんやりと残っていた。カーテンを少しだけ開き、肌寒い朝の空気を一度肺に吸い込む。冷たくて、澄んでいて、どこか非現実的だ。


ジャージに着替え、玄関を出る。まだ街は眠っていて、家々の窓は閉ざされ、通りにも人の気配はない。聞こえるのは、自分の呼吸と足音、風の音と遠くの鳥のさえずり、そしてときおり微かに響く虫の声だけ。


「この時間が一番好きかもな……」


走り出す。フォームは無駄がなく、全身の筋肉が無理なく連動している。体感では40km/h。少し速すぎたか、と苦笑する。そう、ウサイン・ボルトの全盛期並みのスピードだ。一般人の限界を遥かに超えた運動能力——これはすべて、DELETEによって施された改造と訓練の賜物。


数十キロ走ったところで、公園のベンチに腰を下ろす。目の前の世界は、わずか一時間前には夜だったのに、今では淡いオレンジ色に染まり始めている。木々の影が伸び、朝の光が葉の隙間から差し込む。


「この、朝がいいんだよ……さて、もうちょい走るか」


立ち上がった瞬間、ポケットのスマホが振動した。


「ん? こんな朝早くに……」


画面を見るまでもない。通知のタイトルを見ただけで、内容は大体予想できた。


——DELETE:任務依頼


『コードネーム《霊》につぐ。

電車内にて暗殺者による重要保護人物の暗殺情報を入手。

暗殺者を排除完了と同時に登校しても良いとする。

健闘を祈る。』


「健闘を祈る……ね。どうせ“返り血は浴びんなよ”ってことだろ……そんな簡単じゃねぇよ」


ため息をつき、立ち上がる。もう少し走っていたかったが、DELETEの依頼は断れない。いや、断るという選択肢が最初から存在していない。


帰路につく頃には、街も少しずつ目覚め始めていた。新聞配達のバイク、カーテンを開ける主婦、すれ違うジョギング中の老人。そのどれもが、彁絲にとっては異世界の風景に見える。


『こちら《霊》。了解した。今回排除する対象を確認。

使用武器に鉛筆を申請。殺人許可を要請する』


返送する文面を打ち込みながら、ふと、自分の中にある“ズレ”に気づく。一般人と自分。通学鞄の中身も、目的も、過ごす日常も、全てが違う。


ふと時計を見ると、このままだと少しだけ遅刻しそうだ、急いだほうがよさそうだ


「HALOS骨格強化スーツ、起動」


『High-Adapted Limb & Osteo Suit 起動しました。コードネーム《霊》、バイタル安定。外傷なし。スーツ、正常に作動しています』


このスーツは、DELETEが開発した暗殺特化型の骨格強化スーツだ。装着者の筋力を60%以上強化し、神経伝達速度や反応速度も向上させる。


「ブースターオン、出力50%」


視界がわずかに色を変え、世界の動きが遅く見えるようになる。地面を蹴ると、風が一気に耳を裂いていく。


『高速移動を検知。最高速度53km/h』


「やべ、出しすぎたか……まぁ、誰もいねぇしな」


電柱の影を縫い、屋根の上に跳躍。途中、人影に気づき、寸前でルートを変更。スーツの静音モードが作動し、着地音すら残さず軒先に滑り込んだ。


「やっぱ、外であんまり使うもんじゃないな……」


朝陽が顔を出したとは言え、世間からしたら朝早い時間帯だ


静かに扉を開け、空腹を感じたのでキッチンに足早に向かう


冷蔵庫を開ける。昨晩の残りの肉と白ご飯。


『空腹を確認しました。栄養を摂取してください』


「言われなくてもわかってるっての……」


電子レンジに肉を入れ、温まるのを待つ間に制服へと着替える。HALOSのままでも行けるが、さすがに学校で目立ちすぎる。


制服のデザインは意外と気に入っている。収納性が高く、鉛筆――彼の主武器――を隠しやすい。


「……チーン! おっ、ナイスタイミング」


電子レンジの音が鳴った瞬間、制服への着替えが終わった。朝食を素早く平らげ、カバンに数本の鉛筆を忍ばせる。


それは、字を書くためではない


けっして、正しい使われ方をされない鉛筆たちだ


今日もまた、“普通”を装ったまま、彁絲かいとは誰にも知られず、死線へと向かっていく。



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