3.人員確保
食事を済ませ、片付けが終わると、樹精老人はジコクを彼の部屋へ案内した。
今日はもう遅いので、ジコクは仕事に入らなくていい。
ジコクは歩きながら道順を覚え、樹精老人が去った瞬間に逃げ出すつもりでいた。
職員寮は敷地の奥深くにあり、正門から少なくとも数百メートルは離れている。この建物も、少なくとも五十人が住むよう設計されたものらしいが、今は一つの灯りも点いていない。
樹精老人はジコクを連れて、広間の床に転がっている破れた網戸を踏み越え、一階の廊下の突き当たりにある真新しい鋼板の扉まで案内し、押し開けた。「ここが君の部屋だ。もう掃除は済ませてある。布団も枕も新品だ」
ジコクは警戒しながら部屋の中を覗き込んだ。
これまで見てきた状況から推測するに、寮も廃墟と大差ないはずだ。ところが前の雇い主がくれた部屋に比べたら、ここはまさに天国だった。
部屋は清潔で整頓されている。ベッドと小さな机があり、天井には魔灯が取り付けられている。
壁のエマルジョンペイントは平らで、剥がれなどない。
布団カバーと枕カバーの「黄色いヒヨコが芝生の上で遊ぶ」柄は子供向けみたいだが、ジコクはそんなことなど気にも留めなかった。
部屋に、扉と正対する大きな窓がある。高さ約二メートル、幅一メートル。今はカーテンが閉められている。
ジコクは窓に近づき、カーテンを開けようとした。すると樹精老人は枯れ枝のような手でジコクの袖を引っかけ、カーテンに触れさせなかった。
「太陽はもう沈んだ。窓を開けるのは駄目だ」樹精老人は言った。彼は顔をジコクに近づけ、眉頭のしわを上へ持ち上げ、下の二つの目の隙を少し広げた。こうしてジコクは彼の目を見ることができた。
樹精老人の眼球は真っ黒で、白目が見えない。
瞳の奥に奇妙な黄色い光点がぐるぐると回っている。その軌跡は、水の入ったコップに浮かぶ小さな球を入れて、同じ方向に円を描きながらかき回したときのような感じだ。
ジコクは、それが年寄りにありがちな眼の病気だろうと推測した。
ジコクは首をすくめて樹精老人から距離を取った。「うん、わかりました」
樹精老人はジコクの返事に満足したらしく、口を耳まで裂けるように笑った。目は細くなり、再びしわの奥に埋もれた。
樹精老人は足を引きずりながらゆっくりと後ずさりでドアへ向かった。「九時以降は部屋から出るのを禁じる。ゆっくり休んで、おやすみ」
彼は後ずさりで部屋を出るときに、ついでにドアを閉めた。それからジコクは小さな音を聞いた。「キ──カチャ」
音のした位置は、ドアノブの高さあたりだ。
金属製の小さな物体が、同じ素材の平らな面を滑り、それからあるラッチに入り、最後に木にぶつかるような音だった。
鍵をかける音だ。
ジコクはドアに駆け寄り、ノブを掴んで力任せに回した。ノブは少しだけ動いただけで止まった。
彼は部屋に閉じ込められた!
「おやすみ。明日の朝食の時間に迎えに来るよ」樹精老人がドアの外から言った。跳ね上がるような語尾はかなり楽しげに聞こえた。
ジコクはドアを蹴りつけた。結果、痛みが爆発して片足でぴょんぴょん跳ねるだけだった。
この何もかもが老朽化した場所で、なぜか彼の部屋のドアだけが鋼板製の、真新しいものだ。新人を閉じ込めるためにわざわざ取り付けたんじゃないのか?
床も天井も、配管穴が残されている様子はない。ジコクが部屋から脱出する道は、あの大きな窓だけだ。
樹精老人が鍵をかけた行為は、ますますジコクの逃げたい気持ちを煽った。彼は警告を頭から追い払い、両手で一気にカーテンを開けた。
この窓には何の景色もない。外なんてまったく見えないのだ。
鉄格子に、黄色い封印札がびっしりと貼りつけられている。風を通す隙間すら残さず、まるごと紙の壁にされてしまっている。
これらは普通の封印札じゃない。光明之杖の赤い印が押されている。これらの封印札には法術を封じる効果がある。これらを先に剥がさない限り、通抜術のような法術は跳ね返され、窓を別の場所への転送門に変えることもできない。
この瞬間、ジコクの胸に浮かんだ思いは──この場所は一体どれほど居づらいんだ。新人が逃げないようこんな強硬手段を使うなんて──だった。
ジコクは開ける時よりもずっとゆっくりとした動作で、カーテンを閉めた。
彼は腰を屈めて床に置いた大きなトランクを開け、一番底に押し込まれていた祭刀を取り出した。
この素朴な黒木の柄の短刀は、彼にとって最も重要な資産の一つだ。重要度で言えば、樹精老人にとっての入れ歯くらいのものだろう。もし金庫があったら、彼もこの刀を金庫にしまいたかったはずだ。
ジコクは元々ショニ語系の法術を使う魔法師だった。その法術は全国的に有名な邪教団体が使っていたものだ。彼がそこを抜けた後、魔法師の夜校で現代の法術を学んだ。
彼は人生の中で、現代法術よりもショニ語系法術を使っていた時間の方が圧倒的に長かった。だから法術が必要なとき、真っ先に頭に浮かぶのはショニ語系のやり方だ。そして祭刀こそが、ショニ語系法術の重要な媒介だった。
今ではショニ語系法術が禁止されているわけではないが、あの邪教事件があまりに有名すぎたせいで、大半の民衆にとって「ショニ語系魔法師」は依然として「悪人」の代名詞だ。
ジコクは祭刀を堂々と見せびらかすわけにはいかない。だからこうして隠すしかない。
今はちょうど九時くらいだろうか、少し過ぎているかもしれない。ジコクは九時の禁止令を守る気などなかった。
ルールなんて、破るためにあるものだと、自分に言い聞かせた。
彼はドアの前に立ち、使い魔にドアを喰わせるかと考えた。
このドアはこの施設で数少ない、まだ売れそうなものだ。ジコクはそんなものに手を出す気にはなれなかった。
この新人確保装置は厄介だ。これを取り付けた者は、ここに来る新人が必ず魔法師だとわかっていたらしい。ドアには付魔が施されていて、開錠術は効かない。
ジコクは脱出方法を考えながら、祭刀の柄でドアノブを叩き、「コツ、コツ、コツ」と音を立てた。
突然、ドア板が彼の方へぐっと跳ね上がり、四方の隙間から冷たい風が吹き込んできた。
ジコクはびっくりして大きく後ずさった。
ドアが再び激しく跳ね、天井から屑が少し落ちてきた。その跳ね方は、まるで外に巨大な雄牛が突進してきているようだ。
三秒ほどして動きが止んだ。ジコクはそっとドアの方へ一歩近づいた。
二秒後、ドアの外から連続した金属の打撃音が始まった。音はどんどん大きくなり、後にはいくつものヘヴィメタルバンドが外で演奏し、飛び跳ねるダンサーたちが大勢加わっているかのようだった。
ジコクはベッドに飛び乗り、祭刀を握りしめてヒヨコの布団に潜り込み、頭から被って丸くなった。
翌朝、樹精老人が朝食に呼びに来た。
ジコクが出るときに見たところ、真新しい鋼板ドアの外側に、昨日はなかった二十いくつもの凹みができていた。
このエピソードの原文:
吃飽後收拾完畢,樹精老人帶璽克去他的房間。今天已經晚了,璽克不用上工。璽克一面走一面記住路線,打算等樹精老人一離開就逃跑。
員工宿舍在園區深處,距離大門至少有數百公尺遠。這棟建築看起來也像是設計來給至少五十人住的,但現在沒有一盞燈是亮著的。
樹精老人帶著璽克踩過躺在川堂地板上的破紗門,帶璽克走到一樓走廊底端一扇全新的鋼板門前面,推開門說:「這是你的房間。已經打掃過了,被子和枕頭都是新的。」
璽克戒慎恐懼的看進房內。從先前看到的情況推測,宿舍想必也與廢墟沒有兩樣,結果跟璽克上一個老闆給他的房間比起來,這裡根本就是天堂。
房裡乾淨整齊,有床和小桌,天花板上還裝著魔燈。牆上的水泥漆平整,沒有出現剝落狀況。就是被單和枕頭套的「黃色小雞在青草地上玩耍」圖樣像是小孩用的,但璽克才不在乎這種事。
璽克看到房間裡有一扇和門正對的大窗戶,大約兩公尺高,一公尺寬。現在窗簾是拉上的。於是他走上前打算拉開窗簾,樹精老人卻伸出枯枝手勾住璽克的袖子,不讓他碰窗簾。
「太陽已經下山了,不可以開窗戶。」樹精老人說。他把臉貼近璽克,眉頭的皺皮往上抬,稍微拉大底下的兩條眼縫。於是璽克終於可以看到他的眼睛。樹精老人的眼球是全黑的,看不到眼白,瞳孔裡有奇怪的黃色亮點在打轉,軌跡很像是在水杯裡放一些會漂浮的小球,再順著同一方向畫圓攪拌的結果。璽克猜測那是某種年紀大的人會有的眼部病變。
璽克縮著脖子以遠離樹精老人,回答:「嗯,好。」
樹精老人對璽克的回答很滿意,笑得嘴都快咧到耳邊了,眼睛瞇了起來,再次埋藏進皺皮底下。他拖著腳慢慢倒退走向房門:「九點以後禁止離開房間,好好休息,晚安。」他在退出房間的時候順便把門帶上,然後璽克聽見一聲小小的:「戚──喀啪。」
發出聲音的位置,高度大約在門把那裡。聽起來像是金屬材質的小型實心物體,先在同材質的平面上滑行,再進到某個卡榫裡,最後撞到木頭的聲音。
這是鎖門的聲音。
璽克衝到門前,抓住門把用力轉,門把只稍微動一下就卡住了,他被鎖在裡面了!
「好睡。明天吃早餐的時候我會來叫你。」樹精老人隔著門說。飛揚的尾音聽起來相當愉快。
璽克踹了門一腳,結果只是讓他痛到單腳跳來跳去。在這個什麼東西都年久失修的地方,偏偏就他這間房間是嶄新鋼板門,難不成是特地裝來關新人的?
無論是地板還是天花板,看起來都不像有留管線孔的樣子,璽克只剩一條路可以逃離房間,就是那扇大窗戶。樹精老人鎖門的行為更加刺激璽克想逃的意念,他把警告拋諸腦後,雙手一口氣拉開窗簾。
這扇窗戶毫無景觀可言,因為根本看不到外頭。鐵窗上面嚴實的貼滿了黃色封條,連一絲能透風的隙縫都不留,根本就糊成了一整片紙牆。這些不是普通的封條,上面蓋有光明之杖的紅色印記。這些封條有法術封鎖的效果,除非先拆掉這些東西,否則穿牆類法術會被擋下來,也無法用法術把這扇窗變成通往別處的傳送門。
這一刻,璽克心裡浮現的念頭是:這個地方到底有多難待,居然要用這種激烈手段阻止新人逃跑?
璽克用比拉開時慢上許多的動作拉上窗簾。他彎腰打開放在地上的大皮箱,把壓在最底下的祭刀拿出來。這把樸素的黑木柄短刀是他最重要的資產之一,重要程度大概就像假牙對樹精老人來說那麼重要。如果他有保險箱,他應該也會想把這把刀鎖進去。
璽克原本是使用所尼語系法術的法師,這種法術是一個全國知名邪教團體使用的法術。璽克在脫離那裡之後,才去法術補校學習現代法術。在他的人生中,他使用所尼語系法術的時間遠多於現代法術,所以當他需要用到法術時,他也是直覺先想到所尼語系的做法。而祭刀,就是所尼語系法術的重要媒介。雖然現在所尼語系法術並非禁止法術,但是因為當年那起邪教事件實在太有名,對大多數民眾來說,「所尼語系法師」仍然是「壞人」的同義字。璽克不能大大方方的展示祭刀,只好像這樣藏起來。
現在時間應該差不多正是九點,可能過了一點點。璽克並不打算遵守九點的禁令。他告訴自己,規矩這種東西就是設來給人打破的。他站到房門前,思考是要叫使魔把門吞了嗎?這扇門看起來是這地方少數還能賣錢的東西,璽克不太想對這種東西下手。這面新進人力保障設施不好對付,裝的人有想到這地方的新人必定是個法師,上面有附魔,開鎖術對它無效。
璽克一面思考離開方法,一面用祭刀刀柄敲敲門把,發出「篤、篤、篤」的聲音。突然,門板猛然往他這邊跳了一下,四邊門縫吹進來一陣冷風。
璽克嚇得後退一大步。門又猛跳一次,震到天花板掉下幾許碎屑。這種跳動方式有如外面有頭大公牛在撞門。門過了三秒沒有動靜,於是璽克又往門的方向跨了一小步。兩秒後,門外開始有連續不斷的金屬敲擊聲,聲音越變越大,到後來簡直像是有好幾支重金屬樂團在門外演奏,外加大批蹦跳不停的舞者。
璽克轉身跳上床,抓緊祭刀把自己埋進小雞棉被裡,蒙住頭縮成一團。
隔天早上樹精老人來叫璽克吃早餐。璽克出門時看到,全新的鋼板門外側多了二十幾個昨天沒有的凹痕。




