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魔法師助手の夜は死体と共に過ごす~魔法師の三法則~  作者: 笑獅抜剣
CASE2 魔法廃棄物解体員がポルターガイストに取り囲まれる
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1.廃墟へ赴く

本巻の内容は2011年4月11日に初めて発表されました。

 国道を歩く一人の若い男がいる。ガリガリに痩せ細った体つきだ。


 彼の名前はジコク.サイグ。この名前は生まれたときに付けられたものではないが、今の身分証に載っている名前だ。


 彼は濃いコーヒー色の魔法師ローブを着ていた。長年の着用で袖の端はほつれ、薬剤で焼けた斑点があちこちにできている。幸い、この服の色自体が汚れと大差ないので、斑点は目立たずに済んでいた。


 黒い短髪は乱れ、伸びすぎている。前髪が不快を与える鋭い視線を隠していた。


 肌が恐ろしく白いため、黒髪の対比が余計に目立つ。


 彼は二十歳だが、いろんな事を経験してきたため、実際の年齢よりもずっと老けて見える。


 彼は魔法師だ。光明之杖──この国の魔法師を管轄する国家機関──が発行した魔法師免許証を持っている。


 ジコクは塗料の剥げた赤い大きな革のトランクを提げ、足を引きずりながら進んでいた。


 足の裏が焼けるように痛い。二ヶ月かけて、徒歩で国道を旅し、新しい職場までやってきたのだ。


 乗車券を買う金もなく、旅中の宿泊費や食事代も払えない。仕方なく野宿を繰り返した。旅の途中、野草と「下水道の毛むくじゃらたち」を食べてしのいできた。


 魔法師業務管理局から通知が来て、第四焼却炉に廃棄物解体員の欠員が出たと知らされたのだ。


 第四焼却炉はこの国に数多くあるゴミ焼却炉の中で特別な地位を占めている。


 それは「魔法廃棄物」専用の焼却炉だ。環境保護局の管轄ではなく、魔法院の管轄下にある。


 焼却されるのは巻物やお守り、最近流行っている魔器など、法術エネルギーを含んだ物体ばかりだ。そうしたものを普通の焼却炉で処理すると、物品から解放されたエネルギーが予想外の結果を引き起こす。


 たとえば、ゴミの分別がまだ徹底されていなかった頃、焼却炉の半径一キロ以内のほとんどの電球に人面の影が浮かび上がった事件があった。


 ジコクは環境保護局が管理する普通の焼却炉を見たことがある。あの施設は美しくて、ここがゴミ処理場だということを忘れさせるほどだった。


 純白やオフホワイトの外壁、淡いブルーのガラス、鮮やかな色の解説ポスター、新緑の芝生は転がりたくなるほどだ。遠くからでも目立つテーマペイントの煙突は、まるで遊園地のシンボルのようだった。


 さらに、ゴミを燃やす熱エネルギーを利用した温水プールがあって、季節に関係なく一年中開放されている。


 ジコクは泳ぐ気がまったくないが、プールって聞くだけでなんだか高級そうじゃないか!


 だから、この欠員が出たと知ったとき、彼はかなりの期待を抱いていた。


 二ヶ月もかけて歩いて赴任できるような底辺の仕事に、きっと何か問題があるはずだ──そんなことは考えもしなかった。


 目的地に近づき、道名の標識を探し始めたときになって、ついに違和感に気づいたのだ。


 一般的に、こうしたランドマーク級の建築物なら、数個の交差点手前から専用の案内標識が立っていて、ここへ向かう道を指し示しているはずだ。だがジコクは一つも見当たらなかった。


 ようやく一つ見つけたとき、その標識は折れ曲がっていた。明らかに誰かが乱暴に引き抜いて、路肩のゴミの山に放り投げたものだ。


 ジコクがようやく第四焼却炉の前にたどり着いたとき、目の前の光景に心がずしんと沈んでいった。


 正門前のアスファルト道路はでこぼこで、左右に広がるはずの芝生の場所には一本の草も生えていない。土壌には破れたビニール袋や焼いた冥紙(めいし)の灰が混じり、多くの箇所にぶちまけられたペンキがこびりついていた。


(注:「冥紙」とは、華人が死者を祭る際に焼く紙である。死者はこれらの紙幣をあの世に持って行き、使用するとされている。生者はそれによって、死者があの世で豊かに暮らせるよう祈るのである。


 台湾の抗議の場では、冥紙を撒いたり卵を投げたりする行為がよく見られる。


 冥紙は葬儀や鬼神との結びつきがあるため、撒くことは人目を引き、汚れを生み出すだけでなく、呪いの意味合いも持つ。)


 本来白くあるはずの壁は水垢だらけで、スプレーで書かれた罵りの言葉がびっしり。


 正門のガラスはもうなく、潰して平らにしたダンボール箱で代用されている。そのため、重要な正門に「両開き魔法冷蔵庫」「古木の柚子」「取扱注意」といった文字が並ぶ羽目になっていた。


 ジコクは首を上げてそびえる煙突を見た。手入れ不足で錆斑だらけで、鉄錆が水の流れに沿って上の絵柄に追加の筆を加えていた。


 ここまで近づいてようやく、ジコクはこの場所の彩色塗装テーマを細部から推測できた。ひまわりを持って可愛いドレスを着た少女のはずだ。


 遠くから見ていたときは、どう見ても腸を握り、鮮血をドレス代わりにしたゾンビにしか見えなかった。


 こんなボロボロの場所がいつ崩れてもおかしくない。というか、むしろこう言うべきだ──とっくに崩れててもおかしくないのに、今まだ崩れていないのが不思議だ。


 ジコクは労働市場の最底辺、出血大セールでも誰も欲しがらない売れ残り品だ。それでも、天井がいつ自分の頭に落ちてきてもおかしくない場所で働く気にはなれなかった。


 このまま入り口に突っ立っていたら、太陽が沈んでしまう。


 彼は門前を見下ろし、そこに「第四焼却炉」と書かれた反射ベストを着た樹精が一人、箒と塵取りを持って、草一本も生えていない芝生の上で卵液と卵の殻を掃いているのに気づいた。


 箒でそんなものを相手にするのは効率が悪く、どう見ても地面に卵を溶いているようにしか見えない。


 ジコクは何秒かじっくり見て、ついにそれが樹精ではなく、樹精にそっくりな老人だと確信した。


 老人は骨ばった体型が余計に目立つ薄手の服を着て、肉のまったくついていない細い四肢はまさに木の枝のようだった。全身がしわくちゃで、特に顔はパグ犬よりも皺が多く、目も口も皮膚に埋もれて細い隙間しか残っていない。


 微かに震えながら、足を引きずって移動している。猫背のせいで頭の高さはジコクの胸にも届かない。


 ジコクの腹が鳴った。


 何ヶ月も三食きちんと食べられていない生活を送ってきた。「下水道の毛むくじゃらたち」は腹を満たすには向いていなかった。


 今はちょうど夕食時だ。この仕事は食事と住居つきらしい。ジコクは、とりあえず一食食べてから辞めることにした。


「すみません、廃棄物解体員として参りました」ジコクは腰を折って樹精老人の身長に合わせた。


 樹精老人は反応せず、震えながら掃除を続けていた。


 ジコクは手を樹精老人の前に差し出し、箒との間に割り込んで二度振った。


 それでも樹精老人は反応しなかった。


 ジコクは自分が勘違いしたのではないかと疑い始めた。


 これは老人でも樹精でもなく、ただの木かもしれない。


 木であるなら、反射ベストを着て箒を持つことはできても、震えながらゆっくり移動することはあり得ない。


 ジコクは両手を腰に当て、直接中に入って他の人を探すべきか考えた。


 十秒ほど経って、樹精老人が突然背筋をぴんと伸ばし、あごをぐっと引いて、目の前の物体を避けるような動作をした。そして、二秒に一文字くらいのゆっくりとした速度で大声で話した。「び――っくり――し――た――」


 樹精老人は箒と塵取りを放り投げ、ジコクが見ていようがいまいがどうでもいいという投げやりな態度で手を振った。それから第四焼却炉の敷地正門へと歩き出す。


 ジコクはトランクを提げて、樹精老人の後ろをついていった。


 ロビーの状態は外よりもひどいと言っても過言ではない。


 天井の蛍光灯はほとんど黒く変色している。壊れた天井パネルが空中にぶら下がっていた。


 床のタイルは一枚として無事なものがなく、角が欠けているのはまだマシで、まるごとなくなってセメントだけ残っているところが多かった。配管点検口の蓋は行方不明で、ぽっかりと穴が開いている。


 ジコクは樹精老人がでこぼこの床につまずいて、そのまま起き上がれなくなるのではないかと心配した。


 だが樹精老人はこの場所を隅から隅まで知っている。道を下見すらせず、平らなところだけを踏んで、すいすいとカウンターの奥まで進んでいった。


 逆にジコクの方が、トランクの底をぶつけたり、靴先を引っかけたりした。


 樹精老人はカウンター裏の壁から一枚のタイルを外し、ダイヤル式の金庫を露出させた。


 その金庫は表面がつやややかで外見も完璧で、周囲の荒廃した様子とまるで噛み合わない。


 ジコクは、中にはきっと大事なものが入っているに違いないと思った。


 樹精老人が十七桁の暗証番号を入力すると、金庫が開いた。中には洗浄液に浸かった入れ歯が入っている。


 樹精老人はそれを口に放り込み、あごを動かして、はっきりとした発音で言った。「これで──ずっと──いい」


 樹精老人は、老人とは思えないほどの怪力でジコクの肩を叩き、ぼうっとしていたジコクを現実に引き戻した。「何か問題でもある?」


 ジコクは我に返り、片手を握り拳にして掲げた。彼には非常に重要な問題があった。「ご飯はどこですか?」

このエピソードの原文:


 一個皮包骨的年輕男子走在省道上。他的名字是璽克.崔格。這個名字雖然不是他出生時獲贈的名字,但是是他現在身分證上的名字。他穿著一件深咖啡色法師袍,長期磨損下來袖子邊緣都綻開了,上面還有許多藥劑燙出的斑點。幸好這件衣服顏色本來就跟汙跡差不多,能把斑點隱藏起來。他的黑色短髮雜亂而過長,瀏海掩飾住他讓人不舒服的尖銳目光。由於皮膚白得可怕,對比之下黑髮顯得更加突兀。他今年二十歲,但是飽經風霜的外表看起來遠比實際年齡要大。


 他是一個法師,擁有光明之杖──這個國家的法師主管機關──發放的法師執照。


 璽克提著一個掉漆的紅色大皮箱,一步一拐的前進。他覺得腳底在燒。


 他花了兩個月的時間,徒步沿著省道旅行到新的工作地點。他買不起車票,也沒有錢支付旅途中的食宿費用,只好到處打地鋪,一路上靠著吃野草和「毛茸茸的下水道居民」維生。


 他收到法師執業管理局的通知,說在第四焚化爐有廢棄物分解員的職缺。第四焚化爐在本國眾多垃圾焚化爐中地位特殊,它是「魔法廢棄物」專用焚化爐,不歸環保局,而是歸魔法院管轄。它焚燒的是些卷軸、護身符,時下流行的魔器等等含有法術能量的物體。這些東西如果由普通焚化爐處理,從物品裡解放出來的能量會造成不可預期的後果。像是在垃圾分類還做得不夠確實的時候,就發生過焚化爐方圓一公里內大多數電燈泡上都出現人臉影子的事件。


 璽克看過那些由環保局管轄的普通焚化爐,那些建築都漂亮到讓人忘記這裡是垃圾處理設施。純白或米白色的外牆,淺藍色的玻璃,顏色鮮豔的解說海報,鮮綠的草皮看起來可以讓人上去打滾。從遠處就能看到的主題彩繪煙囪彷彿是遊樂園的標誌。還有利用燃燒垃圾產生的熱能,不受季節影響,整年開放的溫水游泳池。


 雖然璽克從來不游泳,不過游泳池聽起來很高級的樣子!


 所以當璽克知道這個職缺時,他懷抱相當大的期待。他當時並沒有想到,一個可以允許他花上兩個月時間步行赴任的基層工作,一定有問題。直到他快到了,開始找附近路名的時候才察覺不對勁。


 一般來說像這種地標,都會在好幾個路口外就有專屬路牌指向往這裡的路,但是璽克一個也沒看到。當他好不容易找到一個的時候,那個路牌居然是折彎的,顯然是遭人用粗暴的方式拔下來,扔在路邊的垃圾堆上。


 等璽克終於走到第四焚化爐前面,眼前所見讓他的心一直往下沉。


 門前的柏油路坑坑巴巴,兩邊本來應該要是草皮的地方一根草都沒有,土裡混雜著破爛的塑膠袋和冥紙灰燼,許多地方還蓋著被隨意潑灑的油漆。本來應該是白色的牆壁上滿是水垢和用噴漆寫上的咒罵。


 正門的玻璃已經消失了,用一個個展平的紙箱代替,使得重要的門面上出現「雙門魔冰箱」、「老欉柚子」、「小心輕放」之類的字樣。


 璽克抬起頭看那高聳的煙囪,缺乏維護而滿是鏽斑,鐵鏽還順著水流給上面的圖案加筆。在走到這麼近的地方之後,璽克終於可以從細節推測出此地的彩繪主題,應該是拿著向日葵穿著可愛洋裝的少女。而他在遠處時不管怎麼看,都覺得那應該是一個手持一團腸子,以淋漓鮮血代替禮服的殭屍。


 這種破爛地方什麼時候塌掉都不奇怪,應該說,它早該塌了,現在還沒塌才奇怪。


 雖然璽克是就業市場最底層,跳樓大拍賣都沒人要的滯銷品,他也不想在一個天花板隨時會砸下來的地方工作。


 璽克再不進去,太陽就要下山了。他低頭看門前,發現有一棵樹精穿著貼有「第四焚化爐」字樣的反光背心,拿著掃把和畚箕,在沒有草的草皮上掃蛋液和蛋殼。由於用掃把對付這種東西缺乏效率,看起來比較像是在地面上打蛋。璽克仔細看了好幾秒,才確定那不是樹精,而是一個非常像樹精的老人。他穿著會導致骨架稜角更明顯的薄衣服,一點肉都沒有的細瘦四肢就像樹枝。全身都是皺皮,尤其是臉部比哈巴狗更皺,眼睛和嘴巴都埋在皮裡了,只剩下細縫。他一面微微發抖一面拖著腳步移動。因為駝背的關係,腦袋高度還不到璽克胸口。


 璽克的肚子在叫。他過了好幾個月三餐不繼的日子,「毛茸茸的下水道居民」並不適合用來填肚子。現在是晚餐時間,這個工作包吃包住,璽克決定他至少要吃到一頓飯再走。


 「不好意思,我是來報到的廢棄物分解員。」璽克彎腰配合樹精老人的高度。


 樹精老人沒有回應,繼續發抖掃地。


 璽克把手伸到樹精老人面前,擋在他和掃把中間,揮了兩下,樹精老人還是沒有反應。璽克開始懷疑他看錯了,這既不是老人也不是樹精,而是一棵單純的樹。


 但是樹可以穿上背心拿著掃把,卻不可能邊發抖邊緩慢移動。璽克兩手扠腰,思考著要不要直接走進去找別人。


 過了十秒,樹精老人突然用力打直背,下巴猛力後縮,做出一個閃避眼前物體的動作,用大約兩秒一個字的慢速大聲說:「西──俗──偶──了。」他把掃把和畚箕隨手一扔,用一種彷彿璽克沒看到也無所謂的隨便姿態對他招招手,走向第四焚化爐園區大門。


 璽克提著皮箱跟在樹精老人後面。大廳的狀態比起外面猶有過之而無不及。頭頂上,燈管幾乎都是黑的,破損的隔板垂在半空中。地面瓷磚沒有一塊是完好的,缺角還算正常,多得是整塊不見只剩水泥。管線檢修口的蓋子失蹤了,留下一個洞。


 璽克擔心樹精老人會被凹凸不平的地面絆倒,就此爬不起來。但樹精老人對這個地方瞭若指掌,他甚至沒有低頭看路,就一路踩在平整的地方,順利走到櫃檯後。反倒是璽克一下子撞到皮箱底,一下子卡到鞋尖。


 樹精老人拆下櫃檯後牆面上的一塊瓷磚,露出一個密碼鎖保險箱。那個箱子表面光亮,外表完整,跟周圍破敗的景象很不搭調。璽克覺得這裡面肯定放著很重要的東西。


 樹精老人輸入十七個數字的密碼後,保險箱打開來,裡面是一副泡在清潔液裡的假牙。


 樹精老人把假牙塞進嘴裡,動了動下巴,口齒清晰的說:「這樣──好──多了。」他用難以想像出自一個老人家的巨大怪力拍打璽克肩膀,打醒發愣的璽克,問他:「有什麼問題嗎?」


 璽克回神舉起單手握拳,他有個非常重要的問題:「飯在哪裡?」

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