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元悪役魔法師は平凡な人生を望む~魔法師の三法則~  作者: 笑獅抜剣
第1巻 魔法師助手の夜は死体と共に過ごす
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第二章 人の奇妙さについて(3)

 お風呂に入った後、ジコクが寝る前にする仕事は、シェフが与えた食べ物を処理することだ。すべては宴会の残ったさまざまな肉だ。肉を焼いて乾かし、袋に入れ、鳥類や鼠輩が近づけないように法術をこれらの袋にかけ、人に見えられない法術もかけて、屋根裏の窓の外に吊るした。最近は寒いので、氷雪は天然の冷蔵庫だ。人に見えられない必要があるのは、彼の行動が豪邸に貧相な雰囲気を出させるのを避けるためだ。もし金持ちのファサードを邪魔したら、追い払われる結果は不可避だ。


 全部完成した後、ジコクはパくんのバーベキュー道具を片付ける。多くの法術材料は火で処理する必要があるために、バーベキュー道具も魔法師の常用備品と見なされる。


 ジコクは祭刀を火鉢に挿し込んで、魔法の炎を運び上げて、開いた窓に投げる。彼は炎が家の外の大雪に落ちて消えたのを見ていた。


 パくんは依然として部屋の扉の前に横たわったままでおり、動いていない。汝はどうして死んだのか、ジコクは訊きたいが、訊いてはいけない。


 彼はまだ元気なうちにパくんの荷物を調べる。パくんの持ち物は多い。筆だけで大きな箱にいっぱいで、材質の種類も豊富だ。ジコクは見て、溜息をついた。ジコクのバッグには、白と黒のクレヨン合計2本と毛筆1本しか入っていない。


 大部分の新米魔法師は、白いチョークまたは白いクレヨンですべての法陣を書く。少し熟練した魔法師は、虫の粉筆や、骨の油筆や、点火すると色が変わる筆など、さまざまな筆を使い始める。非常に熟練した老手になった後、通常また一本の筆ですべての法陣を描く。ただし、各々の魔法師が最後に選択する筆は異なる。


 ジコクは普通の鉛筆とボールペン、封筒と便箋の束を見つけた。パくんは文通相手がいるが、出さない手紙を見つけられないし、誰かから彼へ送った手紙もない。パくんは本がたくさんあるが、ジコクは一時読みはたすことができないので、いったん置いておく。


 ジコクは幾つかの馬鈴薯のスナック菓子を発見した。まだ食べられるらしいが、ジコクは試さなかった。そして、《光明之杖》が発行した魔法師免許証と魔法師資格試験の過去問題集を見つけた。


 全部を通覧して、ジコクは2つの不審な点を発見した。一つ目は、パくんは明らかに魔薬を専門とする魔法師ではなく、薬材パックも持っていない。一般の魔法師は甜蕊草を常に携帯するわけがない。死体の手にある瓶はハナの工房の瓶と同じだが、勝手に取った可能性がある。


 2つ目は、ジコクがお守りを一つも見つけられないし、法杖もない。


 その2つの物は、現代法術で最も普遍的に使う媒体である。ジコクは祭刀を媒介として使うので、その2つの物を持つ必要はない。パくんはジコクと違って、正常でない経路で魔法を習得した経歴はないだろう。それではよくお守りと法杖を使うはずだ。片方を好む魔法師はいるが、どちらも持たないことはおかしい。パくんの年齢を考えると、媒体なしで魔法を施せるほどの能力を持つ可能性もあまり高くない。


 時間が遅くなって、ジコクは糸口を探すのをやめて、パくんの布団に入った。電光が床に一つ一つ出ている。ずっとこんな状態だ。ほとんど慣れている。突然、彼が枕に頭をつけた瞬間に、床が明るくなり、巨大な電光が上向きに放たれる。最大の数つの光はもう少しで天井に届きそうになる。電光は一瞬現れてからすぐ消えた。床には電光が二度と現れず、1、2センチ高さのもない。


 一回の巨大な法術エネルギーの流れを経た後、異常の流れは止まった。


 ジコクは頭を上げて窓の外を見て、月の角度から、今は夜中の12時頃だと判断した。






 サーレンが老婦人の家を出たときは8時半ごろ。彼は直接警察署に戻らず、雪の中を歩いている。生まれつき強くて丈夫で、雪が重くなっても寒さを感じていない。彼はスイラウの父に手紙を送ろうと思い、手紙を書くために喫茶店に入った。


 彼は便箋に書く、「ラント様拝啓


 ジコクに会いました。彼は現在、給仕の魔法師助手で、キラキラと光る目で雇い主を呪います。彼はまだかなり空腹らしく、噛まれる可能性を減らすためにまず餌をやる必要がある。肉片を失わないように、現時点では彼に軽率に近づくことはお勧めできません。


 サーレン敬具」


 彼はもう少し座るつもりだったが、店員は告げる、「すみません、閉店時間です」


「扉の営業時間は午前2時までです」サーレンは言った。


「最近、夜中には人があまりいないので、早めに閉店しています」


 それで、サーレンは手紙の封筒をしっかりと閉じて、足りる切手を貼って、郵便受けに入れた後、真夜中に街を歩く。


 この場所の繁栄の程度と考えると、喫茶店が真夜中前に閉店するのは実におかしい。このような場所にはナイトライフがたくさんあるはずだろう。たまに、暖かい服装を着た人々が通り沿いの店を探しているのを見かけるが、ほとんどが閉まっている。


 サーレンは湯を噴き出している魔法の噴水のそばを通り過ぎて、通りの向こう側に馬車が止まったのが見えた。それは暖房付きの高価な自家用馬車である。車の扉が開いて、着飾った若い女の子が跳ね出てきた。彼女はまだ未成年だ、とサーレンは推定した。でも化粧が濃すぎるので、一般の人は、彼女は25歳だと勘違いするかもしれない。


 その女の子は車内の男の人に怒鳴る、「もうたくさんだ! 謝っても無駄だ! 絶対に許さない! 二度と汝のそばに戻らない! ひざまずいて謝ってもプレゼントをくれても気がない! 聞こえたか? 消えろ! 汝ともう一度会いたくない!」


 叱って、女の子は得意気に顔を上げ、その男がひざまずいて謝ってかつ高価なプレゼントをくれるのを待っている。


 彼女の予想外に、相手は自分と同じ気持ちで、もうたくさんだ。馬車内の男は黙って扉を閉めた。馬車は離れてしまった。


 女の子はアウターを着ていなくて、バッグも車の中に落としており、一人で雪の中に驚いて立っている。彼女は目を見開き、口を大きく開け、大げさな表情によって顔の化粧を崩しそうになる。


 サーレンは笑いたい気持ちをこらえて、同情的な表情で女の子に近づいて訊く、「助けが必要ですか?」


 女の子はサーレンに怒鳴る、「近づくな! 変態! 一人で寂しいうちに近づいたら一緒に酒を飲むと思うな! 私は都合のいい女の子じゃない! ちょっと好意を与えたら一緒に寝ると思うな!」


 サーレンは差し伸べた手を引っ込めざるを得なかった。女の子は怒って背を向けて、ハイヒールを履きながら雪の中を艱難に進んでいる。


 サーレンは立ち止まり、アウターを脱いで手に掛けた。彼はしばらく待つつもりだ。女の子が寒さと歩きにくいことに飽き飽きした後、彼が彼女に近づいて騎士団の徽章を見せたら、彼女は助けを受け入れるだろう。


 女の子が壁の角のそばを通って、サーレンの視界から消えた。サーレンは心の中で時間を数えて、突然、突風が頭上を通り過ぎたのを感じる。その風は軽く、何かが頭上を飛び越えたからだった。騎士だから、サーレンは周りの動態に敏感で、その物は鳥でも猫でもないと判断した。その物は女の子の方へと行った。


 サーレンは小走りで追う。女の子の足跡が前方に伸びているだけが見えた。最後の足跡の前に女の子のハイヒールが落ちている。それ以降は何もなかった。ここは高い建物の壁に囲まれており、登れる場所はない。サーレンは、その女の子が雪の上を歩いても足跡を残さない能力を持っているとは思っていない。


 彼女はこうして跡形もなく消えてしまった。






 サーレンは疑問を抱いて警察署に戻ると、彼らはまだ美少女の写真を見つめている。写真に写っている女の子たちは皆若い。誰もが現在流行のメイクテクを使っているのとちょっと関係があって、彼らの容貌は互いにかなり似通っている。少し前にサーレンの目の前で消えた女の子も容貌が似ていた。


 サーレンは、これらは犯罪の被害者であると悟って、座って警官に訊く、「助けが必要ですか?」






 夜明け近くになると、ジコクは早朝に家を出る。彼はあの家の中に落ち着けない。雪が止み、道の両脇には滑らかな氷の塊ができた。踏むとギシギシと音を立てる霜も敷かれている。


 ジコクは湯の噴水を見かけた。通常、そのような施設は浮浪者が集まる原因となるが、彼は人を見ていないし、道端やどこかに彼らの寝床も見ていない。彼の知る限り、この地域にはホームレスのシェルターがない。この場所は資格のない人を歓迎しない。野良動物さえいなくて、侵入すると数時間以内に永遠に消える。


 ジコクは歩きながら、道端のショーウィンドウを見ている。店で売られている物はどれも、1つの値段が庶民の家庭の毎月の食費よりも高い。それでも、売れないことを全く心配していないようだ。


 ジコクは貧富格差などに対して、あまり概念を持っていない。「金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏に」という話を聞いたことがあるが、彼にはあまり響かなかった。彼が知っているのは、こんな場所に留まると安心できないことだけだ。彼はこの場所に対して部外者の感覚を持っている。これは彼が最初から参加していないゲームだから、彼は勝敗に感情的な責任を負う必要がない。


 自分はこのままではあまりよくないようだ、と彼は漠然とわかった。それによって彼は、みんなもこれを重要だと思っているものから遠ざかっていくかもしれない。しかし、自分はこの国に属するかどうかも、この土地を愛するかどうかもわからない。彼はただ生きることに専心しており、以前と同じように他のことは気にしていない。


 こんな街道を歩いている彼が他の人に強い違和感を与えている。だが彼はこんな差異に慣れている。路人は彼が見えて、誰もが両側に避けて、彼に道の真ん中を譲った。ジコクはそれに満足している。


 この街のどのレストランの最低注文金額も払えないので、彼は噴水のそばに座って、自分で持ってきたサンドイッチを食べる。空が明るくなり始めたとき、彼は短いスカートをはいた女の子がふわふわの小柄な魔法ペットを連れて散歩しているのが見えた。この天気で短いスカートを履くのは理性的ではないので、彼女は暖房のある道路だけ歩く、しかし、顔と脚に厚化粧をしていなければ、ジコクはきっと彼女の肌が紫色に凍っているのが見えるだろう。


 魔法ペットと魔法師が通常飼う使い魔は同じではない。使い魔は実際的な用途があるが、魔法ペットは何の機能もなく、爪と少し尖った歯さえなく、逆に飼い主を傷つけることは完全に不可能だ。野外で生存して繁殖する能力を持っていなくて、もし捨てられたら、すぐに死んでしまう。「ポイ捨てても環境を汚さない」という話は、商人の販売のキャッチコピーの1つだそうだ。なぜ捨てることを前提として生き物を飼う人がいるのか、ジコクは理解できない。


 ジコクはサンドバッグに餌代を費やすことに興味がない。彼は強力な使い魔が好きだ。ちなみに、以前黒暗学院でのルームメイトは、自分の欲望を満たせる使い魔が好きだった。


 朝食後、ジコクは噴水の近くに掲示板があるのに気づいた。空がほとんど明るくなり、それに書かれている物ははっきりと見える。それで彼は掲示板に歩いていって見る。


 掲示板には美しい印刷とレイアウトされた広告がたくさんあり、新しいフィットネスセンター、ボディシェイプセンター、美容クリニックなどの情報が掲載されている。また、ジコクは年度所得税の広報ポスターを見た。彼はその上の税金を支払う必要がある最低年収に関する規定を見て、自分が一銭も支払う必要がないことを発見した。なんとなく、軽蔑されたようで嫌な感じがした。


 掲示板で一番大きな部分は警察署の公告だ。


 一枚は、少し色かぶりした女の子の写真の集だ。写真の下には一人一人の名前・失踪日時・場所が書かれており、行方の情報があればすぐに警察署に連絡するよう呼びかけている。その脇に一枚の手書きの公告の赤い紙がある。警察署の予算が足りなくて、デザイナーを雇う余裕がないらしい。でも、ジコクは警官さまの毛筆の筆跡が好きだ。勢いのある筆跡だ。赤い紙には、最近数人の女性が行方不明になり、巨大な怪物が目撃されたという情報が書かれており、夜間の外出を避けるよう呼びかけている。ジコクは街上のブティックの扉の営業時間を思い出した。それらが全て閉まっていない限り、難しいだろう。


 ジコクはまたその写真の集を見始める。写っている女の子たちは皆若く、17歳くらい。楽しそうな笑顔でカメラを見ながら、流行している仕草や表情でポーズを取り、美しい写真を撮っていた。こんな形式で公開されるとは、誰も思えなかった。


 彼らはすべて深夜に失踪した。なぜこんなに遅いときに街を徘徊していたのか、ジコクはわからない。彼らの高価なアクセサリーと屈託のない顔から判断すると、夜中に眠っていない理由は絶対に夜勤のためではなかった。この年齢の若者は一人ずつ家出した可能性もある。でも、その紙には、彼らが失踪現場に人間として必要な物を落としたという情報が書かれているから、実情はそうではないらしい。靴、マフラー、イヤリング、化粧ポーチは正常のほうだが、誰かがその場でスカートを落としていた。それには問題があるに違いない。


 ジコクは赤い紙に書かれた怪物の特徴を見る。人型に似ており、首周りには毛が生えている。肌の色は深く、灰色またはこげ茶色をしているようだ。後ろ足で立つことができる。どう考えても魔法の産物である。新種の魔獣でなければ、魔法師が作った魔法生物である。


 なるほど、だから若い女の子を法術材料にすることが好きな変態魔法師はどこにでもいて、《黒夜教団》だけにいるわけではない。ジコクは魔薬学が最も得意だ。魔薬学の基本的な概念の1つは、すべての材料を他の材料に置き換えることができるということだ。魔薬学のフォーミュラは、科学的な物質のフォーミュラよりはるかに弾力性がある。もちろん、人体材料も他の物に置き換えることができる。適切に手配されれば、効果はより悪くはならない。文明社会では人体材料を違法に使う理由は全くない、とジコクは思っている。


 さらに、彼の経験では、若い女性の死体は比較的使いやすくない。個人的な意見では、強い男性の血を好む。殺す必要はないので、供給は途絶える可能性が比較的低い……ジコクは慌てて自分の顔を揉んだ。彼はいつもの癖が出た。


 ジコクは結論を出した。翌日の仕事に対処するために夜に睡眠する必要があるので、あの怪物とあれらの女の子たちに何が起こったかは、自分には関係ない。


 その時、ジコクは後方の女の子たちの囁き声が聞こえた。彼らは声を低くして言う、「あの人が怖い。彼はあの公告を見ているよ」「彼がやったか? 犯人が戻って、自分のしたことを見に来る話を聞いたことがあるじゃないか?」「警察に通報したほうがいい?」


 ジコクは身を回し、両手で頬を引っ張り、舌を出して、変顔をした。そして、女の子たちの驚いた視線の中で、大股でその場を離れた。






 太陽が完全に昇った後、ジコクはのんきに出勤する。休憩室にはハナが見当たらず、掃除道具を持つ5人の召使いが忙しく出入りしている。ジコクは彼らが隅々まで探し回している様子を見て、ハナが費用を水増しした件はだんな様に知られたと思っていた。彼らは掃除を名目にして、実際には証拠を探しているだろう。でも、彼らは箱を開けて見た後、また元に戻した。その様子から、そうではないらしい。


 指揮官はワールだ。彼は壁際に立って、周囲の人に指示する、「どんな些細な物も見逃さないでください!」


 ジコクはワールに近づいて訊く、「ハナは?」


 ワールは手に金属盤を持って、集中して見つめていた。ジコクが来たのを見ると、盤が重要ではないふりをして、何事もないように置いて、「彼女は伝えなかったのですか? 出張に行っています。今日は一日中戻りません」ワールが片眉を上げ、ジコクを見ている。その盤は簡易な感応盤だ、とジコクは一目で知った。物を探すために使う素人向けの魔法道具だ。


 だから、ジコクは今日はやるべき事がなく、直接有給休暇として扱ってもいいのか? もしハナが戻って、今日の給料を払わないと言ったら、どうすればいいのか? ジコクは工房を回って、自分が作った魔薬が消えたのに気づいた。ハナが最後の数ステップを完了して、取って使用するんだろう。願わくは、あの薬が彼女に壊されなかったことを。


 ジコクは休憩室に戻って、ハナの寝椅子に座って、大声で言う、「その本に注意しろ! その瓶に注意しろ! 魔法師の物にはぞんざいに触ってはいけないです! 多くの物には法術がかかっています! 爆発するかもしれません!」


 ジコクがそう言うとすぐに、召使いたちは怖くなり、手を引っ込め、再び触る勇気がなくなった。


 そのあとで、ジコクは笑いながら訊く、「手伝いましょうか?」


 ワールは歯ぎしりをしている。今回の休憩室行きは仕事をしなかったが、価値がある、とジコクは感じる。


「ここには明らかに恋愛小説しかない!」ワールが低い声で吠えた。


「なんでそんなによく知っているんですか? よく来るんですか?」ジコクは笑いながら訊いた。


 ワールは両手を拳に握りしめて、微震えている。ジコクは嬉しくてワールを見ながら、足を組んでいる。


 十数秒後、ワールは一歩前に進んで、ジコクの広袖を掴んだ。ジコクは警戒し、ワールは彼と戦うつもりだと思う。でも、ワールはただ、一枚の紙を取り出してジコクに見せる。


「これらの物を工房で見たことがありますか?」ワールが訊いた。


 ジコクはその紙を見ると、それは見覚えのある領収書だった。上に書かれている物は、自分がハナの工房で拾った領収書に書かれている物とは違う、でも同じように水増しした価格だ。また、彼が見たことのない高価な機器の名前がたくさん載っている。ハナは本当に不注意だった。犯罪の証拠をあちこちにぞんざいに投げた。


 ジコクは領収書の項目を暗記しながら言う、「教えてあげません」


「お前──」今回ワールは本当にジコクを殴るかもしれない。拳を振り上げた。でも、ワールは怒りを抑えることに成功した。それは、以前ジコクが簡単に彼を制圧したこととちょっと関係があるかもしれない。


 ワールは声を低くして言う、「汝は誤解してるかもしれません。ハナの地位に嫉妬して、彼女に取って代わるためにこれらの小細工をしてると思ってるかもしれません。違います」ワールはそう言って、止まった。ジコクに肝心な情報を伝えるのを躊躇しているようだ。


 ジコクはそんな考えを全く持っていない。ハナをこの場所から追い払いたい者は誰であっても、必ず非常に正当な理由がある、とジコクはよくわかっている。


 ジコクは領収書に甜蕊草の名前があるのに気づいた。数量は少なくないし、もちろん値段も水増しされた。


 ジコクは得意そうな表情で言う、「何と言っても、ハナは私の上司です。ハナの目に物を見せるのを手伝ってほしいなら、正当な理由をくれるのは当然ですよ」


 ワールは黙ったまま、眉を下げた。


 ジコクは言う、「汝は、ハナはうっとうしいものだとよくわかってるはずだ。彼女が誰から忠誠を得る可能性があるって、本当にそう思いますか? 彼女を知る者は誰も、彼女を裏切る決意を固めます」


 ワールはしばらく話さなかった。明らかにジコクの話が信用に値するかどうか考えている。ジコクはこう思いたくないが、自分は本当にハナの同類みたいかもしれない。


 しばらくして、ワールが口を開く、「ハナがこれらの物を持ったら、この場所は危険にさらされます」


「良いことです」ジコクはうっかり本音を漏らしてしまった。


 ワールがジコクを睨んで、言う、「この家は爆破されるかもしれません」


「気にしません」ジコクはまたうっかり本音を漏らしてしまった。


 今回、ワールはジコクを睨むことさえしたくなかった。ワールも同じ気分だからだ。「私もこの家が爆破されるかどうか気にしません。こんな場所が壊れても良いことです。気になるのは、お嬢さんが危険にさらされることです」ワールは態度が和らぎ、ジコクを味方として扱い始め、好意を示し、「パくんは信用できる人だ、とお嬢さんは言っています。私は汝もそうであることを望んでいます」


「多少とも正義感があるって言われました。この紙に載っている物は、材料も機器も見たことがありません」ジコクは自分が工房で拾った領収書を取り出して、「また一枚です。これらの機材も見たことがありません。ハナは技術が悪いですけど、隠し扉を設置できるって、私は知っています。他の場所に隠されているかもしれません」ハナの工房の隠し扉には、ジコクは掃除しているときに気づかなかった。それは、隠し扉に少なくとも一般的な水準の隠す魔法がかかっているのを意味している。


 ワールはジコクの領収書を見て、溜息をついて、「ありがとうございます」彼は他の人にすべての物を元に戻させて、召使いたちを連れ去った。


 ジコクは寝椅子に座り、その過程を始終そばで見ていた。彼らが去った後、ジコクは寝椅子の凹みを平らにして、休憩室から飛び出して、直接街道に行って魔話亭を見つける。

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