8話 作戦共有
「フィーラス……お前は棄権した方が良いぞ」
昼下がりの魔法学校
魔法評議戦へ向けベルターと書館で作戦会議
ベルターは風属性の魔法を使うらしい
「棄権はしないよベルター」
「俺の全力を持って魔獣ガイガイトを殺すさ」
「どうやってだよ!?」
鬼気迫る顔を浮かべるベルター
心配になる事もわかる、このEクラスを半年見てきたがお世辞にも優れているとは言えない
このクラスに任務を斡旋するならまず魔獣討伐は当てない
それほどに戦闘には不向き
「ベルターこそ棄権をした方がいい、君は特性をのばせていないだろ?」
「あと数週間でどうこうできるとは思わない」
「……お前が言うな!!」
「フィーラス、お前より特性伸ばせてる自負はあるぞ」
魔法特性とは個人によって違う魔法の色
俺が使う雷魔法でも攻撃系や防御系、治癒系などがある、ちなみに俺は「麻痺」
ベルターは風魔法の「反風」と言う相手の動きを阻害する特性
聞いてわかる通り戦闘向きではない
それから数日間ベルターと作戦会議を重ねるがどう足掻いても魔獣の足止めした後で詰まる
「フィーラス……俺達は入る学校を間違えたかもしれねぇ」
「俺たちは支援魔導士を育成する学校に行っとけば……いやそれじゃあお母様に叱られちまうな」
「泣き言を言うなベルター、活路はあるし魔法を使えるなら戦力も無限だ」
「魔獣ガイガイトの足止めはできるんだあとはやりようだよ」
「お前はいつも前向きだな……羨ましいぜ」
この数ヶ月ベルターと共にして素性がわかってきた
この子は後ろ向きなのだ、頭も回るし風魔法も使えるのだからもう少し前傾姿勢で物事に取り組めば良い方向に転ぶと思うのだが
「ちょっと……席移動してもらえる?」
「あぁすまんな」
この時期の書館は魔法評議戦に向けハルバード魔法学校の生徒が押し寄せている
今ベルターと座っている所は3人席、ベイネーラの令嬢とEクラスの女学生2人がそこにいた
そんな令嬢を見てベルターが少し怪訝な顔を浮かべる
「ちっ、なんか偉い家系のお嬢様か知らないけど……偉そうなんだよなあいつ」
「同じEクラスの底辺同士なのにお前もムカつくだろ?」
「まぁまぁ」
確かに5人しかいないEクラスなのだから全員で仲良くしたら良いと思う
だがこの年頃の女の子は気難しい…娘にも風呂に入りたくない一緒に寝たくないと言われた時は傷ついた
任務漬けの毎日だったが嫌われないように話しかけていたが途端に距離を置かれた
女の子というのはそういうものなのだろう
ー次の日ー
1週間後に始まる魔法評議戦のためEクラスは合同作戦会議が行われる
個々の要約した作戦を共有するという有意義なもの
下調べをした子達がどのような作戦を立てるのか非常に興味が湧く
「じゃあ最初は……ベルター・アットル、聞かせてくれ」
教壇に立つベルター
ベルターは何かをする時に決まって金髪をくるくると回す
緊張していたらそれに加え前髪をかきあげる
「僕は風魔法「反風」を使い魔獣ガイガイアの前片足を止めます」
「体勢を崩した魔獣の首に反風を当てて首を曲げ脳機能にダメージを入れて麻痺している所を外骨格を部位毎に剥がして表皮が出たら剣を刺し終了」
「これが作戦です」
反風の1番の強みは敵の風を利用できるという事
流石に上級魔獣の風はベルターの腕が持っていかれるが中級ならできる
5mの巨体が落ちる風圧ならそれを利用して首を持っていける
その上煙幕などの道具を使えば成功率が高まる
「次、メイア・ベイネーラ」
金髪の下に見える青い瞳が作戦の自信を物語る
「私は水魔法「貫通」を使って魔獣の足場を崩して隙を作る」
「その隙を突いて関節部分の柔らかい皮膚に魔法を放つ、以上」
なるほど魔獣ガイガイアの関節部を移動中に狙うのは困難
足場なら土を崩すだけで足元崩せるか…勝機はある
「次、ホップ」
ホップ…ベイネーラの令嬢と一緒にいた女の子か
家名は無し、くせっ毛の茶髪に赤い瞳、幼い顔立ち…知り合いの子ではなさそうだな
「わ、私は風魔法「防風」を使い自分の周りに風を発生させて突進してきた所をよろけさせます」
「重さに耐えられるよう最初は煙幕て視界を閉ざしてその間詠唱で魔法濃度を高めます」
詠唱か…確か言葉による精神統一で魔力循環を高める技法
手間とかかる時間を考慮しても詠唱の有無じゃ魔法の威力が段違いに差が出ると聞く
これはみものだな
「次、ミチェル・ケントゥーリ」
ケントゥーリ家は聞いた事がある
地方豪族の一つケントゥーリ家は魔道具製造で財を成した一族
魔王征伐の時にも大量の魔道具を製造していた
よくよく見ると昔あったケントゥーリ家の男に似ている
黒紫色の髪に黒い瞳、男と違うのは腰まで伸びた髪くらいか、顔立ちもキリッとして身長も170くらい高い
「私は火魔法「罠」を使い格技場に罠を仕掛けて魔獣の進路を防ぎます」
「10回罠にはめれば片足は……まぁ、落とせると思うんで、倒れた所に直接外骨格に罠を仕掛けて終わりです」
罠か…相手の行動を先読みできたら完封できるな
みんな良い特性を持っている……だがここはEクラス、魔力出力等のほころびで簡単に作戦は瓦解する
まぁ俺が言わなくともこの子達はわかっているだろう
「次、フィーラス」
俺が魔獣ガイガイアに講じる作戦は至って簡単
「俺は魔獣の攻撃を避けながら隙を見て雷魔法「麻痺」を打ち込む」
「神経を麻痺らせた所を首元から頭にかけて刃物を刺す、以上」
…………
発表を終えなぜかベイネーラの令嬢が手を挙げていた
それをアリアラ先生が指名
「フィーラスの作戦は少し見積もりが甘くないですか?」
「麻痺で魔獣の動きを鈍らせるのは良い案……というかそれしかないと思うけど、それ以前に魔獣の攻撃を避けると簡単にいうけど……言葉と実践じゃ相当違うと思います」
「大丈夫だよ、俺はいつでも本番に強いんだ」
ー魔法評議戦当日ー
3日間開催される魔法評議戦は学年別に行われる
格技場にはハルバード魔法学校の教師陣、ガラパの議会委員など街の権力者が並んでいた
各生徒は普段の紺色の制服ではなく任務用に仕立てられた白を基調とした青線が入った戦闘服を着ている
「えぇEクラスは午前最後のクラスだ、今から三時間後だから観覧席で見とけよ」
やはり少数のEクラスの出番は中腹、始めでも最後でもなくスッと終わる位置
最初はAクラスか…見てみよう
そういえば他クラスは10名ほどいるのか…
「フィーラス…俺は目を開けているか」
観覧席の隣で震えるベルター
「ベルター、深呼吸をしよう」
「ひとまずAクラスの同士の活躍を見ようじゃないか」