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23話  聖女の言葉

「はぁ……はぁ」

「思った10倍遠い……ですね」


ハルバード魔法学校からガラパ騎士団本部へ飛び出し1時間

手を引いて走っていたはずの聖女様が隣で膝に手をつき息をあげている


「ユラ様少し休みますか?」


「いえ、まだ走れます」

「フィーラス様こそ……大丈夫ですか!?」


息をあげながら心配をされても返答に困る

その場で少し休憩しガラパ騎士団本部へ


騎士団本部とは騎士が常駐している事はもちろん貴族や王族などが出入りする施設

有事の際は戦い平時は修練と巡回、担当地域から受けた依頼をこなすなどその役目は多種多様

辺境の街ガラパの騎士団本部もその役割はになっていると思うのだが


「思ったよりも小さいな」


王都の騎士団本部は5階建ての建物が6棟並ぶ程に大きさを持つがガラパの本部は魔法学校と遜色ないほどの大きさ

まぁ王都の本部はアルタイル王国全土から依頼を受け入れている兼合いから人員も辺境騎士団の数十倍と考えるとこの大きさも納得


門兵にはアリアラ先生が事情を話していたらしくそのまま通過

門から本部建物へ続く道を聖女様は回りながら歩いている


「ユラ様足元が危ないですよ」


「回るとすごく歴史を感じます」

「フィーラス様もいかがですか?」


聖女様……これは歴史ではなく老朽化というものです

ほころびのあるレンガに伸びるツタ、窓の外枠も軋んでいる

金銭面での苦労もあるのだな


「お待ちしておりました」


本部の扉を開けるとヒゲを蓄えた騎士がお出迎え

アリアラ先生の手配がここまできているとは


「メビウス支団長がお二人が来たら丁重にもてなせと命令がありましたので」


メビウスだった

ここまで気を使わなくても良いのだが


「こちらの部屋に」


案内を受けたのは本部2階にある就寝室

情報重要人は万が一の事を考え一定期間本部に匿われる

恐らくEクラス生徒だけではなく他の誘拐された子供もあっちの部屋にいるのだろう


「フィーラス様は敵に負けた時は何を思うのですか?」


「敵ですか……私はあまり負けた事がないので想像できかねますね」


「では質問を変えましょう」

「己の責で同士が危機に晒された時は何を思いますか、その先に何を見ましたか」


「己の無力に絶望します」

「幾度も無力を戒めようとも離れる事はなくそれを理解すれば後は修練あるのみ」

「無力などそこらにあると許容できれば先を見れます」


「そうですか……その言葉を使わせて頂きます」


聖女様はドアに手をかける

質問の意図は恐らくこれから起こる事を予見してのこと

やはり聖女という人物は他者の心を読む力が卓越している

それが力なのか性格なのかは測れないがその言葉でみなが救われてきた


「皆様、お怪我は大丈夫ですか?」


部屋の両端に二つずつ並ぶベッド

そこに座るEクラス生徒4人


「ユラちゃん……フィーラス」


手前のメイア・ベイネーラが泣きそうな顔でこちらを向く

隣のベルターも少しもの悲しそうな表情を浮かべる

そんな中ユラ様は前へ歩き出す


「話はアリアラ先生から聞きました」

「魔法決戦にEクラスは出場しないと」


ユラ様の言葉で涙をこぼすメイア

奥のベッドに座るミチェルは大きくため息を吐く

部屋の雰囲気を見て大体を察する


魔法決戦出場をしない案を提示したのはメイアかベルター

それを不満としても事件を考慮し飲み込んだミチェル

うつむくホップは両者の意見もわかるので中立になっている


「ごめんねユラちゃん」

「私のせいで皆を危険な目にわせたから出場は出来ない、また熱に浮かされて同じ事を繰り返さないように私だけでも不参加にしたいの」


「では他の皆様も同じ意見という事ですか?」


頷く一同

魔法決戦への気構えで事件に巻き込まれないように自粛

早計な判断で見誤った事への償いか、確かにあの状況で演習場を使わせる教師を信じる程に熱に浮かされていたのは事実だがそれで終わりにしても良い事は何もない

恐らく聖女様はその気持ちを汲み取り先ほどの質問を俺に投げかけた


「皆様聞いてください」

「私が敬愛する騎士「剣聖フィーラス・アルトガム様」はこう仰っていました」

「己の不手際で同士が危機に晒された時は必ず己の無力を許容できる程に修練を重ねると」

「世界最強と言われる剣聖様でも無力を感じ修練をしているのに今の皆様はどうでしょうか、無力を目の前にし実体のない罪を背負い罰を受けているような顔をして」

「勘違いなきよう言わせてください、悪いのは全て捕まった悪党共なのです」

「これを聞いて意思を変えないというのなら私は何も言いません、ですが少しでも無力を理解しようとするならば共に前へ進みましょう」


聖女様の言葉は心に語りかける

誰かが言えば含みを探ってしまうが聖女様がいうと言葉の通りに受け取れる

理由は分からないがその言葉が心を満たしてくれる


「ユラちゃん……」

「私………魔法決戦にみんなと一緒に出て勝ちたいの、でもそのせいでみんなを危険な目に合わせたから……どうしたらいいか分からないの」

「こんな状況で魔法決戦に出たいなんて……言えないよ」


「今回の件は私にも責任があります、なので今度からは皆で考えましょう」

「Eクラスの皆様なら失敗から学べるはずです、そしてそれを糧に強くなることもできると私は思いますよ」


「うん……ありがとう」


2人の抱擁を見守る

何か言葉をかけようと思っていたが挟む言葉もない


「では皆様、アリアラ先生から魔法決戦出場をかけた課題がありますので頑張りましょう!!」


「……課題?」


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