21話 犯罪拠点へ侵入③
「子供達を離せ犯罪者共」
「アルタイル騎士団ガラパ所属ラーズ・リスロラ」
「法の裁きを貴様らに与える」
昨今のガラパで騒がれる子供誘拐の大元、犯罪組織「スレッドアクト」の拠点に潜入
子供達を見つけたは良いもの、少し手際が悪い騎士に振り回され隠密行動が破綻していた
目の前で剣をこちらに向けるラーズ騎士に弁明を図る
「ラーズ騎士、僕はこの犯罪者を捉えにきたのです」
「であればなぜ悪党に魔剣を差し出しているのだ」
「変な嘘を吐くな」
タイミングが悪い事この上ない
魔剣を差し出しているのは悪党の恐怖を煽って残りの敵を誘き出す作戦……なんて言っても通じないであろうな
この場合はどうするか
「そうか信じないというのならば」
「立ち去るとしよう」
退散の一手
「行かせるわけな……」
「今の黒服……どこへ消えた?」
全速力で走りあの場から退去
四元素魔獣「闇魔獣エンゴク」の魔皮と魔石を使ったローブとマスクは気配感知無効と自身から出る衝撃を吸収すると言う隠密特化の性能をしている
俺の全力走行であれば地下空間が崩れ落ちる危険があるが音も無く走ることができる
さすが四元素魔獣の素材、高かっただけはある
「みんな、僕の後ろに下がってくれ!!」
ラーズ騎士は起き上がる犯罪者の前に剣を構える
先程まで冷や汗をかいていた犯罪者だがラーズ騎士を前に息を吹き返していた
「て…てめぇなら殺せる」
「命が惜しかったらガキを置いて消えろ!!」
懐から短剣を取り出す犯罪者
確かに魔剣無しでもラーズ騎士は殺せる
それほどにラーズ騎士の戦闘力は無い
少し見守ろう
「早くガキを置いて消えろ、戻さないと俺が殺されるんだ!!!」
「ふざけるな悪党!!」
「子供の未来を奪って生きようとするならば、僕がここで終わりにしてやる」
「投降すれば騎士団が君の身柄を確保する、生きたいなら手錠をつけて一緒に来て欲しい」
俺の見る目も落ちてしまったな
戦術から見ればラーズ君は見劣りするが、騎士としては賞賛に値する
ここは危険を覚悟で声をかけるべきだな
「てめぇら騎士が……ぬかしてんじゃねぇぞ!!!」
「ラーズ騎士、剣を振れ!!!」
「え!?……お、おりゃぁ!!!」
……
「倒れてる?」
「僕が……やったのか?……そんなことより」
「君達以外に捕まってる子はいるかい?」
「いや、ここにいる奴らで全員だよ」
「では早く行こう!!」
倒れる悪党を尻目に走りさるラーズ騎士と子供達
ここより地上に敵は無し、彼の勇気に免じて後片付けはやっておこう
一つ下の部屋に男が8人……音的に何かを話しているのか
「アズビーさん、誘拐したガキの中にベイネーラ家がいました」
「身代金をたんまり頂いた後に競売にかければ高値で売れますよ」
「そうか……不思議なもんだよな」
「世の中にはあんなガキの体に興奮するクズがいるなんてな」
「口を慎めアズビー、取引先には丁寧にだ」
「どこで聞かれているかわからないのだぞ」
壁にかかるのは男女の年齢別の表と……金額
居るだけで反吐が出る部屋だな
早急に是正しよう
「バルダ、明日には街を出るぞ」
「取引先は待たせない……だろ?」
「ではその取引先を教えてもらおうか」
「悪人殿」
!!!!
「誰だ……貴様」
「勘弁願う、その問いは……」
「少々気を遣う」
「アズビー!!!」
右手で振り払い男が空中を回る
右腕を折るつもりだったが力んでしまい体ごと吹き飛ばしてしまった
「くそ!!」
周囲の7人が一斉に襲いかかる
武器は剣が4つに杖が3、狙うのは……剣だな
「がはっ!!」
部屋内で魔法は乱発できない、地下空間なら尚のこと
こう言う場合は剣持ちの懐に潜り標的を惑わす
「どけ!!照準がさだまら……」
杖を持つ男は照準を仲間の背中で定められない
そして撃つ勇気も経験もない
「なら味方ごと撃ち抜くべきだったな」
「ぎゃぁぁあ!!!」
懐に入った敵の短剣を奪い杖持ちの目玉に擦れるように投擲
戦闘時において視覚を失わせる事が最優先
「一人に良いようにされてんじゃねぇ!!」
「ファイヤー・ラン……」
一度懐に入った者は最後まで離さない
人体の骨は魔石以上の硬度を持つ、指を千切れば有用な投擲物になる
ある速度を超え投げると指皮膚は剥がれ骨だけの凶器へ空中分解
頭蓋を貫通しないように優しく投げる事がコツ
「こいつ……指を投げて気絶させやがった」
「怯むな!!畳み掛けろ!!」
残るは剣3と杖1
真ん中の男が持つのは魔剣、あれは痺れの魔石か……最速で終わらせよう
右の剣持ちを盾替わりの悪党で受け刺さったそばから横へ投げる、左の剣持ちに拳を落とし腕を粉砕
「死ねぇ!!」
真ん中の魔剣は自身の体に受ける
避ける必要も無い
「やったぜ、麻痺の魔剣が刺されば半日は動けねぇ」
「マスクを取れば誰だかは明らかだ………ろ」
振り上げた右足で腕ごと魔剣を蹴り上げ顎を揺らすように殴る
これで誰も死なせずに制圧できる
最も簡単な手順、後方に構える杖持ちが魔法を唱えていたら真ん中から襲う男の背後に回ればいい
「な……なんで魔剣が効かないんだ!!」
「そう声を荒げるな、初手で粉砕した右手が無になるぞ」
「いぃいいい!!!」
「怯むな、デニア諸共殺せ!!」
「仲間を想えよ仲間ならな」
背中に隠れた瞬間に天井へ移動、魔導士が仲間に魔法を打った瞬間に背後に周り魔導士の首をへし折る
これで地下に居た悪党は制圧
あとはガラパの騎士達に任せるとするか
その後に到着したガラパの騎士団により悪党は捕縛され事件は解決
気絶していた悪党共は全てラーズ騎士の手柄となり表彰を受けたと風の噂で聞いた
ハルバード魔法学校は教師の犯罪組織との繋がりにより休校になると思ったが新しくガラパ騎士団に就任した支団長の施策により数日の休校で事が収まった
その新支団長の施策とは
「えぇ、先の事件を考慮し今日から新たにアルタイル騎士団より派遣された特別講師の方々を紹介いたします」
格技場に集まられた全校生徒
観覧席には学年別に座る生徒、中央には学長を始めとした教師陣と新しく赴任する騎士が2人
「ご紹介に預かりました」
「我々は第三者の指導者として生徒だけではなく教師の皆様とも連携していくため派遣されました」
「私はガラパ騎士団の新支団長「メビウス・アラストラ」と申します」
「そしてこちらが補佐を務める「アリシア・テルザ」です」
軽快に喋る髪の毛を固めた騎士服を着たメビウス
隣には黒長髪を垂らす女騎士アリシア
新たな施策は魔法学校に騎士を配属するとのこと、第三者がいれば抑止力にはなるだろう
一通りの説明を終え各自はクラスへ戻る
「少し、寂しいですねフィーラス様」
「そうですね、戻る時を待ちましょう」
Eクラスにはユラ様と2人
ベルター達は事件を考慮し最低2日以上の無期限の休息が与えられた
この経験から状況を読む重要性を学んでくれたらと思う、どれだけの理由があろうとも上官の命令は従わなければいけない
それが他の仲間に迷惑となり降りかかるから
「辛気臭い顔してますねフィーラス君」
Eクラスの前扉から顔を覗かせる金髪の男
白騎士服の胸には勲章が下がる、腰には赤い剣
「緊張で言葉を忘れていないか冷や冷やしていましたよ、メビウスさん」
「まさか元剣聖のフィーラス・アルトガムさんがこんな所にいるなんて」
「驚きですよ」
「フィーラス様……今剣聖って……」
「心配入りませんよユラ様」
「このメビウス・アラストラは私が騎士団長時代だった頃の教え子です」
「お…教え子ですか!?」