17話 演習場が使えない
「どんどん修練するわよ!!!」
「AからDクラスの奴らをけちょんけちょんにして…Eクラスの優勝を掴む!!」
Eクラスに響くメイア・ベイネーラの声
同じ日を繰り返しているかと錯覚する程に同じ文言
それに加えて誘拐事件を受けて学校内の格技場以外の演習場は先生同伴なしに使用禁止
「それにEクラスが格技場を使えるとは思えねぇな」
ミチェルがファッション雑誌をめくりながら現実を突きつける
確かにEクラスの格技場優先度は低い、なぜなら人数が少ないから
魔法決戦は人数を合わせるといった処置は無くその分魔道具をもらいその差を埋めるとのこと
A6、 B10、 C14、 D15、 E6人の合計51人がハルバード魔法学校の1年生徒となっている
「使う魔道具も心許ないだろ」
「それに荷物にもなる……誰が持つんだよこれ」
ベルターの目線の先にある一面がガラス加工された木箱
その中にある2つの魔道具
魔力を込めたら光るランタンと魔獣よけの香辛
2つとも手のひらにはちょうど収まらない程の大きさ
「まぁ手持ちがあるだけマシじゃないか」
「それに後方支援の2人が持てば魔獣戦闘時にロスは少なくなる」
「フィーラス……お前いつも冷静だな」
山中戦は幾度もやってきた、魔王領地の森林はこっちよりも獰猛な魔獣と視界を遮断する霧があり一寸先の仲間の位置さえ分からない程だった
恐らく今回の肝は魔獣対峙ではなく魔石探索、山に埋まる2つの魔石を他クラスより早く見つけること
「ちょっとアリアラ先生に演習場に行けるか確認してくる」
「ユラちゃん、行こ!」
ユラ様の手を引くメイア
同行する旨を伝え俺も職員室へ向かう
初めてくる職員室、壁には魔道書や文書が並べられ向かい合う机が3列並ぶ
入り口から1年、2年、3年の先生という席順なのだろう、一番手前にEの担任アリアラ先生が座っている
「演習場を使いたい?……ダメだ」
「AならまだしもEの貴様らを不用意に外出はさせん、格技場は2週間後に使えるそれまで地図を読んでおいてくれ」
「先生、それではEクラスは魔法決戦に勝てません」
「演習場を使わせてください!」
「悪いなメイア、魔法学校の先生は魔法決戦の準備と昨今の情勢で手一杯なんだ」
「これも修練だと思って生徒達でどうにかしてくれ」
演習場の使用許可は降りずEクラスの教室へ戻る
頬を膨らますメイアの横でそれを慰めるユラ様
両者の意見もよく分かる、魔法評議戦でEクラスの可能性に気づき魔法決戦では優勝したいという気持ちと昨今の状況から極力生徒を外に出したくない先生
アリアラ先生としては魔法決戦も大事だがそれよりも生徒の身の安全の方が大事という事なのだろう
Eクラスに戻り地図上の魔獣と対峙し終え帰路に着く
学生寮外に住むホップとミチェルを全員で送迎する
街中は犯罪組織が暗躍しているとは思えないほどに平穏、ハルバード魔法学校から2人の家の間にかかる大橋を越え居住区へ
「じゃ、また明日な」
「また明日です」
夕暮れの街の中に立つ木造の一軒家
ホップとミチェルは入学する際に家を買ったらしい……やはり地方豪族の一つケントゥーリ家は資金がすごい
帰り道、先を行くベルターとメイアは何か打ち合わせをしている
「フィーラス様、どうにも出来ないのでしょうか」
「アリアラ先生の言う事も理解できるのですが、メイア様の困った顔を見ると少しでも力添えをしたいのです」
「何か私に出来ることはありますか?」
「ユラ様、この一件はガラパにある騎士団の問題です」
「我々生徒に出来ることは安全地で成果を待つということです、それに最悪の場合魔法決戦が延期になることも考えないといけません」
「「九頭大蛇は心臓を絶て」という言葉もあります気長に待ちましょう」
「くず……ごめんなさい勉強不足で」
「どういった意味なのですか?」
今の子は習わないのか……自分でも恥ずかしいくらいに今の言葉は老人臭い
言葉を要約すると犯罪組織は頭を切っても心臓を絶たねばまた復活するという意味
組織は完全解体せねば幾度も蘇る
「ねぇフィーラス、ユラちゃん」
「ちょっと良い事思いついたかも」
振り返るメイアの顔は何かを企んでいるような表情を浮かべていた