14話 聖女の娘ユラ
「1年ぶりかなフィーラス」
「何しに来た、グロリアス」
3年生の魔法評議戦が終わりハルバード魔法学校は数日休みとなっていた
その間魔法の師匠であるレネアとみっちり剣術修練と魔法勉強をして自室に帰ると窓辺に止まる紫色の鳥
その鳥を見た瞬間に「魔聖グロリアス・カエサル」の使い魔だと察知
「旧友の経過観察をしようと思ってね、それに1つ頼みがあるんだよ」
「2学期から編入する生徒を警護して欲しいんだ、元剣聖の君にね」
「警護?」
「俺ではなく先生とかに頼んでくれ、魔法勉強に集中したい」
「そんな事言わないでくれよフィーラス」
「君にしか頼めないんだ……昔のよしみで頼むよ」
「そのよしみを放棄したのは君だろ」
「それに身分は隠せと言ったのは君だ、目立つ行動は慎みたい」
鳥が雄弁に喋る
いくらグロリアスの頼みでも警護は出来ない
俺はその任務を降りて魔法を学びに来たのだから
「フィーラス、その生徒が聖女様のご息女だと言ったら……受けてくれるかい?」
「は……嘘……だろ」
聖女様…俺達に聖なる力を分けて下さったお方
魔王に対抗する力を持つが故に最重要人物として神殿で一生を終えたはず
添い遂げる人はおろか……子などいるはずが
「私はそんなつまらない嘘はつかないよフィーラス」
「聖女様は私以外には打ち明けなかった……これは信頼云々の話じゃない、分かってくれ」
「それに【聖剣の原石】も持ってきているんだろ?」
グロリアスが指差す首にかけた翡翠色の石
これは魔王を征伐するために聖女様から頂いた世界最硬度の聖剣の原石
「当たり前だ、これは聖女様から頂いた強大な力……死ぬまで離さん」
「まぁ、フィーラスも会えば分かるよ。新たな聖女様をよろしく頼むよ」
「じゃまたね、元剣聖様」
過ぎ去る小鳥
聖女様にご息女がいた……ここまで来てそんなことをきくとは
まさかグロリアスの奴、これを目論んでこの魔法学校を勧めたのか
ここなら王立だが人目につかない、それに優秀な魔導士達がいる
「聖女様……か」
ーーーーーーーーー
「フィーラス、今日から編入生が来るんだとよ」
「気に食わないよな!?」
「ちっさいわねベルター」
「いいじゃない少ないEクラスなんだから」
「メイアちゃんの言う通りだよ」
「私も嬉しい、ミチェルもそう思うよね?」
「え……あぁ、私はホップがいればそれでいいけど」
「フィーラスはどう思うか気になるな」
「まぁ……うん」
「どうも思わないよ」
魔法評議戦が終わってからというものEクラスは以前よりも仲が良くなっていた
2学期の初日の朝も机を囲み来る編入生の話題で話し合う
だが俺はそんな会話が耳に入らないほどに集中力を欠いていた
「お前ら、席に着け」
アリアラ先生の号令で席に着く一同
「お前らも知っているだろうが編入生を紹介するぞ」
「入ってこい!」
扉から入る1人の少女
揺れる淡い麦色の髪、凛とした紅い瞳
幼さが残る顔立ちに似合わない凛とした立姿
「新しくこのEクラスに入ります」
「ユラと言います、よろしくお願い致します」
……
「どうしたフィーラス……急に立ち上がるな気持ち悪い」
「あぁ……すみません」
見れば分かると言った意味が理解出来た
昔、魔王戦線を率いた聖女様の前に立つ時に感じたあの何物にも代えがたい荘厳な気配
「じゃあユラは……空いてる席に着いてくれ」
「はい、ありがとうございますアリアラ先生」
隣をすぎると確信に変わる
まさか本当に聖女様に……
「すまない……時間を頂けるか」
「フィーラス様、承知しました」
朝の会が終わり聖女様のご息女に話をかけると分かっていたかのように微笑み承諾
「おいおいフィーラス、ユラちゃんと知り合いなのか?」
横から入ってくるベルターに微笑むご息女
「ベルター様、私とフィーラス様は面識はありません」
「ただ私の母と少し会っていたと言うだけですよ」
「お……そうか」
授業前に確かめなければいけない
どういった経緯でここへ来たのかを
廊下の端
窓から刺す光の中、聖女様のご息女と対する
周囲を確認し疑問を口に出す
「時間はとらせない、一つだけ聞かせ願いたい」
「貴方様は本当に聖女様の……子なのか」
「その前に1つ謝罪をさせて下さい」
「ごめんなさいフィーラス様」
「あなたの不本意な事をお願いしなければなりません、私にどうかその卓越した技をお貸しください」
目の前で頭を下げられる光景とその文言
昔、魔王征伐の任務を聖女様から受けた時と同じ
神殿で我々5人に頭を下げ一心に願う彼女と……瓜二つ
その時も俺は……
「おやめ下さい聖女様、技ならお貸ししましょう」
「貴方様の助けになるのであれば如何様にもうお使い下さい」
自然と口が動き膝を床についていた
この言葉は用意していた訳でもなくて咄嗟に出たその場の言葉
だがあの時神殿で言った言葉と同じ、聖女様には自然と力を貸したくなる不思議な力があるように思える
「フィーラス様、グロリアスから全て聞いています」
「私と魔法勉強をしてください」
静かに微笑む彼女の顔は聖女様の面影があった
ただ口にした内容は違う、昔は「共に魔王を打倒してください」だった
「さぁフィーラス様、授業に戻りましょうか」
「はい、お供致します」
「違いますよフィーラス様」
「お供ではなく、お友達です!」
魔聖グロリアスの策に嵌められた事は気になるが……まぁ余生を恩人の子に使い魔法勉強が出来れば上々であろう