12話 魔法評議戦③
「Eクラス5人目はベルター・アットルです!!」
「魔法評議戦……開始!!」
ベルターの風魔法「反風」は敵が生み出す風を利用するもの
上限がなければ無類の強さを発揮するが……ベルターの魔力ではどうだろうか
扱い次第では最前線も張れる魔法だと思う
両手を前に集中するベルター
まずは前足、ガイガイアの加速度が最高値に行かなければベクターでも反発できる
「反風!!」
内側に曲がる前足、上体を崩したガイガインは右前方に倒れていく
この倒れ方なら落ちる風力を使い首を曲げることが出来る
「反……風!!」
ベルターの手に合わせて曲げる魔獣の首
異音を上げながら転倒する魔獣の前に立つベルター
「ベルター!まだ終わってないぞ!!」
画面越しの声は届かない
倒れる魔獣を前に笑みをこぼすベルター
「どうだ…俺でも魔獣を倒せ…」
倒れていたはずの魔獣ガイガイアは左足を踏み抜き突き出した頭蓋が前方のベルターに突撃
首の曲がり方が甘かった…反風は相手の風を利用する魔法
倒れ方が甘いと十分な風は生まれず魔法効力も下がってしまう
「フィーラス君…今のやばいよね」
画面を見るホップ
「そうだな…頭突きをもろにくらうと骨や内臓も損傷する」
「何より脳にダメージが入ると戦う以前に立ち上げれない」
「そんな…ベルター君」
ホップの心配そうな顔
今のは画面越しにも直撃していることがわかる
ガイガイアは顔も外骨格に覆われている、盾持ちでも耐えるのは容易ではない
それにベルターは直前まで攻撃魔法を使っていた…
駆け寄るアリアラ先生
「ベルター、棄権しろ」
「嫌だ…続けさせてください」
「君はよくやったよ、本来であれば君の魔力量で相手出来るとは思えない」
「十分に君は魔法評議戦での役目を果たしたよ」
「嫌だ…Eクラスの皆が頑張って倒してた」
「僕も出来る所を見せたい!」
……
「分かった、でも死ぬと思ったら強制的に中断するからな」
「はい」
再開の鐘が鳴る
画面に血を流したベルターが映っている
右手と肋骨が折れているな…これで再開はあまりにも危険すぎる
アリアラ先生は止めないのか、これ以上は彼のためにもならない
「どこ行くんだよ、フィーラス」
「止める気ならやめときな」
「ミチェル君…」
「こんな所で命を捨てる気があるならば俺には止める責任がある」
「責任も何も、あいつの顔を見て止めるならお前はその程度のやつだってことだ」
「あいつは弱いなりに向き合ってる、そこらへんの魔導士にはできない覚悟だよ」
「……ミチェル君、覚悟で死ぬくらいなら恥を背負って生きた方が賢明だ」
「恥は死を遠ざけてくれる、己を律する事こそ真の戦う者だと俺は思う」
「……そうかよ、なら好きにしな」
ベルターは使命感に囚われている
Eクラスが勝ち続けた流れ、それを絶たないように動かす意思
そういう全体から生み出される意思に準ずる者は必ず死ぬ
俺が示したかった勇気はそんな蛮勇では無い。
「ベルター!!」
「フィーラス…」
「君はよく戦った、こんな所で無理をするな」
「君はまだ若い、将来を考えるべきだ!」
「来るなフィーラス!!」
「俺は今…最高に気分がいいんだ、試させてくれ…俺の限界を」
「ベルター……」
血みどろの顔に笑う少年の顔、半年一緒に居ても見られなかった表情
そうか……ここは魔法学校だった、経験を積み重ね己の糧とする場所
危険と分かっていても無謀だと笑われようど自身の限界を高められるのはこの場の特権
それにもしもの時は俺が止めればいい、そのために剣を振るおう
「ベルター、見せてくれ君の限界を」
「任せとけ」
静止された魔獣ガイガイアに対するベルター
魔力は残り少ない、どう立ち回るか
「来いや、魔獣!!」
突撃を始めるガイガイン
先程追わせたダメージは回復している
それにベルターの魔力残量はわずか、どう出る
ベルターはポケットから小瓶を取り出し飲み干す
あれは一時的に骨を強化するポーションか…
「反風!!」
ベルターは加速し一瞬でガイガインの後方に回り込む
走る足に反風をかけ続け回転率を上げたか、骨密度が高い今なら四肢がもげずに移動可能
大型魔獣の弱みは小回りが効かないこと……ベルターは魔力が小さいが知識は豊富
Eクラス全体に言える事だが自分が弱いと自覚しているから相手の弱みを徹底的に調べている、何より知恵を付けることに余念がない
ベルターは魔獣の攻撃を避ける、その避けた風を利用して外骨格にダメージを入れている
瀕死とは思えない程に攻めた行動
だが一つ間違えると致命傷になりかねない
舞い上がる煙は風魔法の軌道を描き空へ散る
「おらぁああ!!」
ベルターは短剣を手に取りわずかに剥がした外骨格の隙間に一太刀
まだ浅い、だが速さはベルターが上
少ない魔力は足に集約することで持続させ自身が生み出す風を断続的に反風を速めている
だが……それが出来るのであれば最初から作戦に組み込んでいるはず
足の微風魔法で無理に底上げするには相当な集中力と操作力が必要
本来であれば平時でも魔法を使い走るのは出来なかったはず
重症、魔獣、魔法評議戦、この状況で成功しているのが不思議なくらい
「あ……」
「ベルター!!」
風と共に走るベクターは足を捻り地面に転ぶ
頭上には魔獣の足
距離が遠い、ここから普通に走ってもベルターは魔獣に踏み潰される
ならば剣聖の力を使うしか……
「落雷」
!!
格技場に落ちる巨大な雷
その雷は魔獣ガイガイアを撃ち抜き死滅させる
「程々にしておけよEクラス」
「お前ら雑魚が勘違いして屍を積まれても困る」
魔獣の上に立つのは……Aクラスのアルバス・アフルレッド
上級魔獣を一撃で葬った彼なら中級など造作でもないか…
「おい、そこのEクラス」
「この間抜けをさっさと運べ」
中央に倒れるベルターを抱き抱える
それにしても今の落雷は中々に強力だったな…
「お前…そうか、フィーラスと言ったか」
「魔道決戦で戦う事を楽しみだ」
「アルバス君といったか」
「全力で戦った者を間抜けと呼ぶのはやめなさい」
「やめる?」
「勘弁してくれよ、僕達は嫌々Eクラスの戦いを見ているんだ」
「その無駄な時間を伸ばしたそいつを間抜けと言って何が悪い、他のやつもそう言っていたぞ」
「そうか…それは至極残念だ」
この子達はまだ戦いを知らないようだ、まだ一年生…これから学んでほしい
何よりEクラスの戦いを見て何かを汲み取ってくれていたらと思うが今の言葉では望み薄だな
「フィー…ラス、悪いな…」
「俺だけ……倒せ…なかった」
「君はよく頑張ったよベルター」
「今は戦った事を誇りに思おう」
こうして我々Eクラスの魔法評議戦は終幕した