10話 魔法評議戦①
「Eクラス1人目はフィーラスです!!」
「対する魔獣は中級魔獣ガイガイア、では魔法評議戦……開始!!」
上がる鉄格子の地響き
影から見える藍色の外骨格と垂れる涎はまさしく魔獣
腰に刺す短剣があるが魔法だけの勝負は初めて…鼓動が高鳴る
やはり人生において探究は必須だとひしひしと感じる
「ガァァオオオオオ!!」
正面からの単調な突進
ガイガイアは筋組織構造の関係から本能で右足を先に標的を踏み抜く傾向にある
その判断は自分との距離3mで決まる
「遅いな…」
踏み抜く右足と飛び散る石つぶて
巨体は力を増幅させるが懐も広くなる、四足歩行なら腹下がガラ空き……そこに滑り込む
魔獣ガイガイアの腹下にある外骨格は2枚が重なり前後ろの中間に歪み…そこに打つ
「雷魔法「麻痺」」
反応なしか、雄叫びも出さないとなるとこれはあと40は当てないと無理だな
子供の姿になり敵の攻撃予知に支障が出ると思ったが問題はなかった
左前足、頭突き、右後ろ足、尻尾、噛みつき
小さい体が俊敏性を増して動きやすい
力は劣っているが麻痺の特性上関係はない
これは…思ったより魔法を使いこなせている
「おいあのEクラスの生徒……避けすぎではないか」
「確かに回避能力が新入生で一番だな」
魔獣ガイガインは四つ足の前しか攻撃に活用しない
それを知っていれば避ける事は容易い
その間を縫って魔法を当てれば勝利は手の中にある
…………
「おい……あの新入生、20分くらい避けっぱなしだぞ」
「小さい体で体力あるな」
「体力なんかよりあの動体視力がずば抜けてるだろ、ガイガインの踏み付けなんて近くで反応できる速度と大きさじゃない……習性を知っていても避けるなんて至難の業だ」
土煙で視界が悪くなるな
今の麻痺で30は当てたか、これ以上踏み荒らされると少し面倒か
だが短剣はトドメ以外使いたくないのだがな……もう魔獣の動きは鈍い
わざわざ停止させなくても良いのではないか
もう魔法は十分に使えている……ならばトドメを刺すのみ
「ガァァオオオオオ!!」
「おっと…」
前足攻撃を横にかわす
小さい体では攻撃は避けれてもその余波が思った以上に受けてしまう
大きな足を踏み抜く時に出る風で着地が2秒遅れる
恐らく踏み抜く部位の直径と速度で秒数は変わる…見るだけで計算できるようにしなければ
「麻痺!」
……今だ
「おぉぉおおおおお!!」
観客席から聞こえる歓声に一礼
魔獣ガイガイトに目立った外傷は無く首筋に1つ切り傷
まぁ初戦にしては上出来、それにEクラスの子達にも何か与えられただろうか
「あんた……中々やるね」
「頑張ってくれよ、ミチェル君」
どうやら次の出番で控えていたミチェルには伝わった……どんなに不利な状況でも勝機はあると
控え室には俺の顔を呆然と見つめるベルター
「フィーラス……お前は怖くなかったのか」
「別に俺は怖くない訳ではないんだ」
「だけどなベルター、俺達にはな勇気があるし知恵がある、何より魔法がある」
「恐怖に対抗出来る力がこんなにあるというのに怯えるだけではつまらないだろ?」
「フィー……ラス」
「抗ってみよベルター」
「君にもあるさ、恐怖に打ち勝つ力がね」
この言葉を理解してくれたら嬉しい
若者は少ない経験から困難に立ち向かわなければ行けない、なら別の理由があったとはいえ偶然にもここに来たのならば
少しでも俺の経験を与えよう、それが国のためなら尚のこと
「フィーラス君!!」
「……どうかしたかな、ホップ君」
「私……頑張ります!!」
「見ていてください!!」
興奮気味のホップ
ここまでの反応があるとは予想外だが……まぁ若者はそのくらい元気な方が良い
「もちろん、見守るとも」
魔道具で格技場が投影される画面の中、ミチェルは本当にEクラスか疑わしいほどに軽々と戦っていた
罠を仕掛けては1歩引く、その繰り返し
だが着実に魔獣ガイガイトの動きは鈍くなる
「魔獣……死にな」
最後に逃げる過程で結界式を構築
魔獣はその結界に囚われ炎の柱に焼き殺される
特段高威力の魔法を使った訳でもなく淡々とした攻撃
過去の経験からこういう基礎で詰める敵が1番手強い
「フィーラス、あんたのおかげで勝てたよ」
「ありがとね」
ミチェル・ケントゥーリか……
強い魔導士になりそうだ
「続いてはメイア・ベイネーラ」
「ねぇフィーラス」
「私にも恐怖に勝てる力……あると思う?」
「もちろんだよ、人は皆その力を持って生まれる」
「ありがとう……行ってくる」