1話 剣聖は若返る
魔王を征伐した世界最強の騎士達を皆はこう呼ぶ
「剣聖」「魔聖」「槍聖」「弓聖」「武聖」
その中で俺「フィーラス・アルトガム」は「剣聖」と呼ばれ世界最強の剣士と称された
「フィーラス騎士団長殿、ご指南を頂きたい!!」
俺が所属する「アルタイル王国騎士団」は世界で最も巨大で強大と謳われているが発足当時は俺含め50名しかいない弱小国の騎士団だった
「フィーラス騎士団長殿、南西の「マラカサ王国」国王マラカサ・ラスタ様がお見えです」
当時は魔王軍に対抗するために発足したが魔王軍を殲滅した今では平和の象徴として残党兵を狩ったり魔獣の依頼をこなしている
「あなた…あなたに会えて本当に良かった」
「世界のために動いたあなたを私は誇りに思うわ……だけど、これからの人生は自分のために使って」
40年連れ添った妻アイラが死んだ
息子と娘は10年前に1人立ちして俺に残るのは……何も無い
「フィーラス……そうか、騎士団を退きたいと」
「では国を上げて送らせてくれ、この世界の剣聖の最後は盛大にだろ?」
俺は騎士団を辞めた、別に騎士団が嫌になった訳じゃない、剣聖という名声も捨てたいわけでは無い
ただもう……剣を握りたくないのだ
幼少期に見た魔法に憧れ魔法学校に入ろうとしたが剣術の才能があると分かり両親はあらゆる手で魔法学校の入学を拒んだ
結局魔法学校へは入れず仕方なく入った騎士学校でトントン拍子に階級を上げ妻と結婚し使命感で剣を振っていたら剣聖になっていた
もういいだろ……俺は近距離より遠距離から戦いたい
正直魔獣や魔人の顔を近くで見たくない、怖いのだアイツらの血走った顔
「フィーラス、久しぶりね」
「まずは30年間の騎士団長任務お疲れ様」
フラスコが並ぶ部屋に座る女魔法使い。
とんがり帽子と黒のローブを羽織り机にもたれ笑う女魔道士。
青髪を弄りながらこちらを一瞥。
年齢は俺と同じ60なのに見た目は20代そこら。
俺は騎士団を退団した後、魔王征伐隊で苦楽を共にした世界最高位の魔法使い「魔聖」のグロリアス・カエサルの所に赴いた。
「グロリアス、俺に魔法を教えて欲しい」
魔法初心者の俺がいきなり魔聖の所へ行くのは失礼に値すると思われるかもしれないが…魔法使いの知り合いはこいつしか居ない
過去に何度か知り合いになる機会はあったが魔法を使う彼らを見ると少し胸騒ぎを感じ直視できていなかった
嫌いまでは行かないにしてももっと魔法を使えるありがたみを感じてくれと思ってしまう
だがこのグロリアスは別格
魔法への情熱は病気と心配になるほどに異質
魔王を殺した時魔王の標本を作りたいと懇願してきた時はさすがに引いた
剣聖として何人もの魔導士を目にしたけどグロリアスは別物
「ふっはは、剣聖のあなたが魔法を習いたいと」
「そんなに魔法は甘くないよフィーラス、いくら剣聖のあなたでも基礎を学んで10年だよ?」
「60から学んで極められるほど甘くない事などわかっている、だがその一端でも教えてくれないか」
「基礎でもいい、教えてくれ」
茨の道程たぎるものは無い、魔法の真髄が見えずともこの年で挑戦出来る喜びが勝る
「頼む!グロリアス!!」
「嫌だよめんどくさい」
「それに私はあんたと違って魔聖の座を降りていないのよ?」
「え……いや、時間は取らせない」
「少しでいい、魔王を倒したよしみじゃないか」
「嫌だよ、あのねフィーラス……魔王亡き今の世の中でも残党だったり魔法開発は進んでるのよ」
「そんな魔法成長期に老いぼれた老人の余生に付き合ってられないのさ」
たしかに
グロリアスの言う事は一言一句正論
やはり俺の人生において魔法はもう……無縁になってしまったのか
「じゃあ魔法学校に行きなさい」
「え?」
「これは古の秘薬「若返りの薬」」
「これ飲んで身分を隠して魔法を学びな、まぁ相談位は乗ってあげるから…余生を楽しみな」
グロリアスが差し出した黄色の小瓶
若返りの薬?……そんなのあったのか、やはり魔聖は侮れない
「注意事項は若返りの薬は若返るだけで寿命は変わんないからね、後その黒髪に混じった白髪もそのまんまだからね」
「後はこの薬については口外禁止と……ないと思うけど元剣聖という身分をひけらかすような事は禁止」
「葉巻もやめなね」
「お…そうだな」
白髪もそのまんまか……まぁいいか
騎士団を退団して一から魔法を学べる、これも妻アイラが自分のために時間を使ってと背中を押してくれたから
なら楽しもう、余生を魔法勉強に
俺は若返りの薬を飲み干し半年後の入学式で魔法学校へ入ることを決意した
最後までありがとうございました。
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