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自分の幸せは自分で見つけますのでご心配なく

作者: 龍瑠隼斗

誤字脱字報告ありがとうございます!

「ティルア、僕の所に来るんだ!」

何回も呼ばなくてもわかるのに。だいたい、口に物が入っているのがわかるでしょうに何回も呼ばれて、挙句にそんな命令口調とかやめて欲しい。と、思うのは私だけじゃないと思うのよ。


今日は卒業式だ。

フルード王立学園3年生の卒業式。

この学園は貴族を中心に、商人など平民でもお金を持っている家や特別な力を持っている子どもが入っている。

特別な力って言うのは、例えば魔法や錬金術など術系だったり彫刻や貴金属の細工などの技術系であったり、将来有望な子ども達はここに集められ教育を受ける事が出来るの。

それこそスラム街の子どもだろうが例外はなく、8歳になれば全ての子ども達は調査と試験と言う名の神託を受け、進むべく道を示される。

そうして5年の修行を終えた15歳、その中でも優秀と認められた子どもが授業料も寮費もすべて無料で入園する事になるの。


で、私はティルア。

王都から離れた街に生まれたごく普通の平民。

神託の試験で聖女とわかり教会に引き取られ勉強に励み、こうして無事に入る事が出来た学園の1年間ももうすぐ終わりを告げる。

今日は3年生の卒業式が執り行われ、私達の終業式は半月後に決まっている。

終業式のあとは春休みがあって、とうとう私も先輩になるの。なんて感慨深いのかしら。


それで、今は卒業パーティー開催中。

ごちそうが出るのよ。そりゃあもうたくさん!

お世話になった先輩たちに挨拶し、あとはもうウッキウキでルームメイトと話をしつつ食べ始め、美味しいローストビーフを口に入れた時。

「皆に大切な話がある。ティルア嬢、こちらへ」


突然名前を呼ばれビックリしたわ。

見れば会場の中央にいるのはガルナ様。

この国フルード王国の第1王子様。このパーティーの主役の1人である卒業生、なんだけど。

なぜ呼ばれたのか分からないまま右手で口元を隠し左手をガルナ様に向けた。

一応、今口に物が入っているのでちょっと待ってください、の意思表示のつもりだったのだけど(とにかく周りからの視線が辛いのよ)。

「恥ずかしがらなくていい、ちょっと大切な話があるんだ」

いや、だからちょっと待って。

「聞こえないフリをしているのかい?」

ちょっと待って、って言うジェスチャーがわからないの?!

「ティルア嬢、僕は来て欲しいと言っているのだが?」からの。

「ティルア、僕の所に来るんだ!」

冒頭の言葉になる。


よく噛むのが癖になっているし、相手は肉だ。

最高級品のお肉だろうが赤身のお肉なんだから口の中でとろける物じゃないんだから!

ちゃんと飲み込んで慌ててガルナ様の元へ行きスカートの裾を摘んで深く頭を下げた。

「お待たせして申し訳ありませんでした」

「ま、いいだろう。今日は卒業式だしな」

偉そうに言われたわ。実際に偉いお方だけど。


呼ばれるままにガルナ様の元へ行くといきなり隣に立たされてビックリ。しかも肩に手を回されているし。

何事?! っと思うより早く、私達の前に立つ方に気が付いた。

パルドスペル公爵令嬢ミネルヴァ様だ。一つ上の先輩でガルナ様の婚約者。

真っ赤な髪に同色の瞳、もちろん外見も美しい女性だ。と、ガルナ様? そんな目で見るなんて失礼ですよ?


「この私、フルード王国第1王子であるガルナ・フルードは今ここでミネルヴァとの婚約を破棄する事を宣言する!!」


………………………………は? え?

何? 何事?

「理由をお聞かせください」

いやミネルヴァ様、何でそんな冷静なんですか。まるで最初から知っていたみたいに。

「聞いたぞ、お前はこの聖女ティルアに数々の嫌がらせをしただろう!」

は?

「教科書を何度も隠し、最後には破いたそうだな。池に突き落としたと言う証言も階段から突き落としたと言う証言も聞いている。これはもう殺人だぞ!」

え、なんの事?


あ、隠された経験はある。すぐに見つけたけど。

聖女の探す能力高いのよビックリするくらい。

それっきりだわ。

取られないように結界張ったもの。

池に突き落とされた事はないわ。落ちた人を助けた事はあるけど。

階段は、不注意で落ちそうになったわね。足を滑らせたから私の不注意、突き落とされてなんかいないし。


なので。

「ガルナ様、私は教科書も破られてなどおりませんし池にも落ちておりませんし階段で突き落とされてもおりません」

「そうか、かわいそうに。言うなと口止めされたのだな。報復の心配はいらない、僕が守ってやる」

「いえ、本当の事です。私はこの1年嫌がらせは誰からも受けておりません」

だいたい、隠したのがミネルヴァ様とは限らないし。こんなの嫌がらせじゃなくてただの悪戯だし。

「卑怯だぞミネルヴァ! 自分が公爵令嬢だからと平民に脅しをかけるとは!」

いえ、ここは聖女にと言ってください……ん? わざわざ平民と言ったのは罪を重くする為?


聖女を含む聖職者は爵位こそないけど位置的に貴族に近い。反撃出来る立ち位置にいるのね。

でも平民は違う。やられたらやられっぱなし。

一応学園内は平等とされてるけど、当たり前ながら限度がある。だからこそ、一目で理不尽とわかる事には厳しい。


「信じてください、ガルナ様。私は嫌がらせなどは受けておりません」

「もしかして、洗脳術を受けているのか?!」

いや、なんでそうなるのよ。人の話はちゃんと聞いて欲しいんだけど。

「今日この時より、私の婚約者はここにいる聖女ティルアになる」

……………………………………………………は?

え、今この王子なんて言った?

私が婚約者になるって言った?

混乱しつつミネルヴァ様を見れば、口元をきゅっと噛み締め小さく震えている。


「わ、わかりました、婚約破棄を受け入れーー」

「お待ち下さい!」

無礼を承知で遮る。

「ガルナ様、これは陛下も許可をしているお話ですか?」

ビックリしたのか目を丸くしたガルナ様だったけどすぐに優しい笑みを浮かべる。

「いや、父上はまだ知らない。大丈夫、許可はちゃんともらうよ」

良かった、これが公式だと面倒になるところだったわ。


「申し訳ありませんが、私はガルナ様と婚姻を結ぶ事は出来ません」

ガルナ様ポカン。ミネルヴァ様もポカン。

え、なんで?

「き、君は聖女ティルアだろう。聖女ティルアは僕と結ばれて国母となり幸せに暮すんだろう?」

「聖女だからです。私は聖女と神託を受けてからずっと聖女として勉強をして来ました。人の、大地の傷を癒し、結界を張り、守るのが仕事です」

「母である王妃にふさわしいじゃないか!」

「そうよ!」

口を挟んだのはミネルヴァ様だった。


「あなたは素敵な王子様と結婚できて嬉しいでしょう? 聖女であり王妃になれて素敵じゃない!」

「出来るわけないでしょう!!」

つい声が大きくなってしまった。

落ち着く為に一呼吸。

「聖女としての勉強しかしていない私に政なんて出来ません」

「まつりごと……? いや、祭りなら担当の者がいるし」

お祭りじゃないわよ!

「政治です。他の国々の事も多少は分かりますがその程度です」

「いや、そんな事などかかわらなくていい。お前は僕の後ろにいてくれればいいんだ」

何言ってんのこいつ。

「王妃と言うのは王のサポートが仕事です。王が不在の時には王の代わりに兵を民を導くのが仕事です。あなたは私に役に立たない王妃になれと言うのですか?」


「今から勉強すればいいじゃない!」

とはミネルヴァ様のお言葉だ。なんてありがたい。

「ただでさえ学園生活と聖女としての勉強と仕事をしているのに、さらに王妃としての勉強ですか?」

寝るな、と?

「ミネルヴァ様が幼少期からされていたものを、今から私に1から勉強しろ、ですか? ミネルヴァ様、何があったか分かりませんが、ご自分のやるべき事を簡単に放棄しないでください」

ミネルヴァ様の目がぬれた瞬間。

「ティルアちゃんがガルナ様と結ばれないとかどんなバッド・エンドよおおおぉぉぉ!!!!!」

大泣きしながらわめかれた。

え? え? なんで? 何事?!


「ティルアちゃんだってガルナ様好きでしょ、一目惚れでしょ! だったら結ばれるべきじゃん!!」

場所を移動して再び始まった話し合い。

ミネルヴァ様が泣き出してすぐにパーティーは中止、私とミネルヴァ様、ガルナ様は学園長室に移動となった。お2人のイメージを崩す訳にもいかないのだと思う。なんと言っても次期国王となる第1王子様と公爵令嬢様だもの。

王子様はよくわからないけれど、冷静沈着頭脳明晰と謳われたミネルヴァ様のあんな姿を見る日が来るなんて誰も思わないわ。

ああ、まだごちそうあったのに、あまり食べていないのに。


それと、まるで私達しかいないように思われそうだけど、ここは学園長室。

もちろん学園長とガルナ様の担任の先生がいる。本当に空気と化してるけど。と言うか、微笑ましい目で見守るのやめて欲しい。

それはさて置き。

「あの、私がガルナ様に一目惚れって、どこから来た話ですか?」

「「え?」」

お二人の言葉が重なった。


「私、ガルナ様に恋愛感情ありませんよ」

「ガルナ様よ!? 王子様って時点で恋愛対象でしょう!? 1番最初は王子様、は基本中の基本じゃない!」

「最初のイベントから物語は始まるんだろう!」

なんの話?

「とにかく私はもう寮に戻りたいです帰らせてくださいお願いします」

そこでノック音が響き、両家の迎えが来た事が伝えられた。

良かった、いいタイミングだわ。

本当に長い1日だった。

疲れたから今日はもう寝よう。

私は心に決めて学園長室を出たのだ。




後日談ね。

ミネルヴァ様はお小言を受けたくらいで終わったそう。

勉強のしすぎでパンクしてしまったのだろう、との事で結構簡単に収まってしまった。

とにかく毎日が王妃になる為の勉強だったそうで息抜きはお茶を飲む時間くらい、とにかく毎日お勉強。それも学園の勉強の後に4、5時間もだったとか。これからは勉強の時間が最長で3時間にされるそうで。

なくなる事はないのね。

国を守るって事は生半可な事ではないと言う事なのだろう。でも、月に何回かの休みの日は半日にしてもらえたみたい。

様子がおかしくなったのは半年くらい前だったそうだけど、その時点でちゃんと対処出来たらこんな事にはならなかったでしょうに。


ガルナ様はもっと大変。

元々王位継承権1位だからとあまり勉強しなかった所に数ヶ月前から人が変わったように言動が変わりさらに勉強しなくなっていたそうで、このまま行くと第2王子であるブラック王子が継ぐことになりそう。

そうなるとミネルヴァ様は自動的にブラック様との婚約になるらしいわ。

いいんじゃない?

あんな公の場で自分勝手に婚約破棄とか言い出す王子なんてダメすぎでしょ。

ブラック様なら同級生だし普段からお話出来るし、何より威張り散らさない穏やかな方だもの。


で、私はと言うと。

現国王様の弟である方のご子息と婚約が決まりそう。

次男でミネルヴァ様やブラック様と同級生。

ガルナ様は金髪碧眼の美形だけど、私、優男ってタイプじゃないのよね。

そりゃね、上が決めた婚約相手なら受け入れるしかないけど、でも、お相手は騎士を目指しているガッチリ系! 本当に私のタイプなのよ!

何度かお会いしたけど内面もとても素敵な方なの。



だいたい、私は男性向けだろうが女性向けだろうが恋愛シミュレーションゲームは好きじゃないのよ。

やっぱり、ゾンビ倒したりモンスターを狩るのが好きなの。

その為に小さい頃から身体を鍛えてきたんだから。


だからね、ガルナ様ミネルヴァ様、あなた方はあなた方の幸せを見つけて。

私は私で、この世界で幸せに生きていきますから。


End

最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想等ありましたらお気軽にどうぞ。


異世界転生ものじゃないと見せかけた異世界転生ものでした(*ノω・*)テヘ

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