転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。
(あれ…………俺、確かに、死んだはず……だったよな?)
自分は死んだはずだと思っていた高校生、鬼島 迅。
確かに、彼は不運な事故によって死んでしまった。
しかし……その魂は消滅して生まれ変わる……のではなく、そのまま魂を保ったまま、別世界……異世界の住人として転生した。
「ふむ、元気な男の子だな」
「そうね。あなた……この子の名前は決まった?」
「この子の名前は、イシュドだ」
イシュド……イシュド・レグラ。
それが元高校生、鬼島迅の新たな名前だった。
死んでも、新しい人生を送ることが出来る。
しかも異世界という、漫画やライトノベルの様にあるような、空想の世界の住人となった。
ただ……イシュドは憑依や転移ではなく、転生したのである。
(た、退屈過ぎて死んでしまう!!!!)
転生した先の家は、レグラ家という貴族の家。
爵位は辺境伯と、全体的に見てもかなり高い位置。
初めは見るものすべてが新鮮であり、特にレグラ家に仕える訓練や模擬戦の風景が見ていて最高に楽しいと感じていた。
ただ、あまりにも動けない時間が長すぎる。
既に自我が確立されているイシュドにとっては、やや苦痛な時間が続く。
しかし、だからこそ文字を覚えようと、少しでも早く動けるように、立てる様にと努力し続けた。
そんな日々を続けて数年後……やっとそれなりに体を動かせるようになったタイミングで、イシュドはレグラ家のある人物の目に留まった。
「ほぅ…………四男は、他の兄弟たちと変わっているな」
その人物とは、レグラ家の先々代当主のロベルト。
この世界にはレベル、職業というステータスが存在し、モンスターや盗賊などを倒すことで徐々にレベルが向上し……一定のレベルに到達すると二次職、三次職、四次職へと転職することが出来る。
レベルが上がるごとに、次のレベルへ上がる為の必要な戦闘経験が増加する。
戦闘職として生きる者たちの中でも、二次職まで到達出来る者は多く……三次職に関しても、才がない者が正しく努力と経験を重ね続け……最悪の不運に見舞われなければ、三次職に到達出来る。
ただし、そこから先の四次職は……十分に強者と呼べる者の領域へと到達しても尚、強さを求め続け……毎回心臓に刃が届きかける死線を乗り越えた先に、ようやく到達出来る。
そんな中、ロベルトは全ての国の歴史上、数人程度しか確認されていない伝説の領域、五次職に到達する可能性を秘めたレグラ家最強の戦士。
「初めましてだな、イシュド。儂はお前の曾祖父にあたる者だ。どうやら……ステータスを視ずとも、儂の強さを理解してるようだな」
「は、はい。その、なんて言うか……は、半神の様な存在だなと、思いました」
「ほぅ……半神か。面白い表現だな。確かに、もう少し高みへ登れば……その領域に足を踏み入れられるかもしれないな」
この出会いから、ロベルトが空いてる時間を使ってイシュドを指導し始めるようになった。
とはいえ、イシュドはまだ五歳。
出来ること、体の動かし方などには限界がある。
しかし、ロベルトもかつては領主として活動していた経験もあり、決してただの脳筋ハゲムキムキ爺ではない。
基本的に行う訓練内容自体は変わらず、時折ロベルトから伝えられる指導内容を受け、反復して修正していく。
(既に魔力を使える。加えて、他の子たちが五歳の時と比べ、明らかに物事に対する考える力が異なる…………これは、今すぐにでも戦場で経験を積めるかもしれないな)
五歳で実戦経験……モンスターという名の怪物と戦わせるなど、虐待に等しい。
レグラ家は戦闘に特化した一族ではあるものの、五歳から実戦を始めた者はいない。
だが、それから数日後……イシュドは一次職として就ける選択肢を現当主であり、父親であるアルバに伝えた。
(っ…………子供たちの中でも特に異彩を放つ子だとは思っていたが、まさかここまでとは)
動けるようになった頃から学びを必死で続けてきたイシュドが一次職に就ける選択肢の中には……通常であれば二次職、三次職に転職する際に選択肢として提示される魔戦士があった。
結果、イシュドは魔戦士を一次職にし、初の実戦へ臨んだ。
「うっ、オロロロロロロロロロロロロロローーーーー」
初のモンスター戦の相手は、ゴブリンという緑色の小鬼だった。
小さくはあるが、それでも野性を生き抜いてきたモンスターであり、放つ殺気はイシュドを怯ませるも……無事、一人で討伐することに成功。
戦闘者としての童貞を捨てたものの……初めてモンスターを殺した、人に近い生物の中身を見てしまった。
朝食を全てリバースしてしまったが、それでもイシュドの心は折れておらず、その後も何度か弱いモンスターとの戦闘を繰り返し、屋敷へと戻った。
(ね、眠い…………)
屋敷に戻ってから腹一杯夕食を食べれば、初実戦による疲労も重なり、一気に眠気が押し寄せてくる。
(だ、ダメだ!!! 覚えてる内に、振り返らないと)
「何!? まだ寝てないのか」
イシュドが寝ずに訓練場へ向かったいう話を聞いたロベルト。
直ぐに訓練場へ向かうと、底には何かをイメージしながら木製の戦斧を振るうイシュドがいた。
(ッ!!!!!! ……ふ、ふっふっふ……ハッハッハッ!!!!!!! やはり、あ奴こそが、儂を越える逸材か!!!!!!!!)
曾孫の狂った才を、向上心を見て、年甲斐もなく鼓動が高鳴るロベルト。
それからイシュドは順調に訓練と実戦を繰り返して成長し続けていった…………そんなある日、父親であるアルバの執務室に呼び出された。
「君に、王都の学園に入学してほしい」
「……………………え?」
十五歳になったイシュドに伝えられた父からの頼みは、全くもって予想外過ぎる内容だった。