4話
年末最後の投稿がパンツの話で申し訳ありません。
あんまり反省はしてないです。
「人一人誘拐しておいて今更パンツぐらいでなんだ!!!」
田中のパンツを私の洗濯物の一緒に洗濯機で回そうとしていることに気付いた田中が絹を裂いたような悲鳴を上げた。それに対してつい若干イラッとしながら文句を言えば顔を真っ赤にした田中が、自分の服は自分で洗うとめそめそしながら主張する。洗剤入れてるんだし、私が気にしないので田中が気にする必要は皆無ではないかと聞くが、恥じらった表情でこちらと目を合わせない田中は、監禁されておいて誘拐犯のパンツを洗っている女よりは繊細な生き物のように見えた。めちゃくちゃ納得いかね〜。これでは私が図太いみたいではないか!
しかし、だ。恥じらう田中相手に優位に立てていることに若干気分がいい。諸々振り回されている生活ではあるが、相応にこちらも振り回しているのであればまだ溜飲は下がる。赤面している相手を一方的に追い詰めるのは、狩りのそれの気持ちだった。ふにゃふにゃと理由にもなっていない反論を切り捨て、無理矢理言いくるめてパンツを強奪し洗濯機に放り込み終えたあと。思わず勝利の気分でにんまりと笑って、いや別に無理矢理奪う必要はなかったなと我に帰った。でも何度も洗濯機回すほどの量じゃないでしょ、二人分の洗濯物は。
朝から無駄な言い争い(勝った!)をした後、こんな場合でもないなと台所に戻る。洗濯機を回している間に朝ごはんとお弁当を作り終えたい。もっとゆっくり寝ててもいいのに、と言われるが、社畜ライフが長すぎて、早起きはもう癖付いている。早寝しても夜更かししても、目が覚める時間は目覚まし時計も要らずそれなりに早めなのである。
いい塩梅に焼いた明太子を真ん中に詰めてラップで包んだ白米を握る。塩をかけて海苔を巻き、また軽く握れば、三角のおにぎりだ。我ながら綺麗な三角に握れたのでふふんと誰にでもなく誇らしげな笑みを唇に浮かべていた。
フライパンの上で並んだソーセージの切れ目から、肉汁が溢れて出て、じゅうじゅうと耳にも鼻にも香ばしい美味しさを伝えてくる。いい感じに焼き上がったそれを最後の隙間埋めとしてお弁当箱に詰めながら、いい加減この生活に適応しまくってんなと少しだけ遠い目をした。どうでもいいが、卵焼きとソーセージとおにぎりが入ってると一気にお弁当感でるよね。
私は作り手の顔がわからない外食を除くと、他人の作るご飯が苦手である。よっぽど親しい相手ならわかるが、いくら同じ屋根の下に暮らす時間が長くなってきとはいえ、ストーカーと親しいとは流石に言えぬい。なので田中の作るご飯を食べたいわけではなく、かと言って3食コンビニご飯を食べたいわけでもない。なので田中のいるうちに自分の昼ごはんとして、お弁当を作るということを続けた結果。色々あって田中の分のお弁当まで作っている。もう絆されてると言われても否定しきれないのだが、一応弁解させて欲しい。監禁生活もいい加減長くなっているが、その間私はミリとも労働をしていない。細かい家事の一部はしているが。そういうことではなく社会に出て金を稼いでいない。田中がどれだけ稼いでいるかは不明だが、人を一人養うのに、ばかすか無駄遣いしていたらなかなか大変なことになるはずだ。金銭的な理由で監禁生活が終了して、今更放り出されても、若干困りそうな程度にはこの生活に順応しちゃったのである。
大きめのため息を落としつつ、卵を買い忘れないようにと声をかけてから、田中を見送る。自室に閉じ込められたことを除けば田中が照れながら言った新婚とか夫婦とかそんな関係性に近付いている気がしてゾッとした。住み込みの家政婦あたりでどうにかこの関係性は勘弁してもらえないだろか。いやでも田中も家事は割とするんだよな……。何なんだろうな……。私のポジション……。家事もたまにやる飼い猫あたりなんだろうか……。客観的に見るとやっぱ飼われてるんだよな……。
男に飼われている、誘拐犯に監禁されている。その言葉がもつインモラル的な状況よりは健全だが、やはり不健全な状態に慣れつつある事実に頭を抱えながら重ためのため息を落とした。