其ノ二『追跡劇』①
いつも穏やかで優しかった「義兄さん」。
純白の雪のようにひんやりとしていて、なのに優しくて不思議なぬくもりの存在。
広大な知識の世界を覇していた智性。
時代と場所を超越する"無限の世界"の案内人。
幼い私は義兄さんの全てに魅せられ、導かれてきた。
実の母親に捨てられ、父もいない独りぼっちで"可哀想"と呼ばれる子ども。
けれど、義兄さんだけは心から私の存在を見てくれた。
優しい義父と義母(義兄さんの実親)すら気付かなかった私の"想い"も。
心の奥深くに沈めたままだった私の"不安や恐怖"も。
唯一、全てを見透かしてくれたのは義兄さんだけ。
かけがえのない唯一人の存在だった――。
なのに、何故、つい最近までずっと忘れていたのか。
どうして、そんな残酷な真似ができたのか。
義兄さん、あなたはどこにいるの……?
濡れた骸の背中に赤く刻まれた、某哲学者の言葉が引き金となって、眠っていた"記憶"は呼び覚めた。
*
五月マンションの浴室で殺害された、児童救済相談所の所長・「肇・佐々木」。
彼の背中に彫られていた謎の文章は、犯人の重要な手がかりとして画像保存された。
「ごくろうだったな、櫻井刑事官と諸君」
霜月班率いる蛍は、被疑者の「二郎・石井」の自宅マンションで、浜本率いる葉月班と合流し、"作戦''の打ち合わせをする。
高潔な戦乙女を彷彿させる佇まい。
脳内へ澄み渡るように冷凛とした声。
蛍の存在自体は誰もが不覚にも魅入るほどに美しい。
一方、波紋なき薄氷のような眼差しも声も、普段以上に冴え渡っており、どことなく光を不安にさせた。
「どうかしましたか、藤堂刑事官」
勤務中は表情を崩さないつもりでいる光の微かな変化を蛍は敏感に察知した。
しかし、光は「何でもない」、と首を振った。
修羅場を辿ってきた仲間として、大切な女として、蛍を知っているつもりでいた光は薄々勘づいている。
遺体の謎の文章を発見した時から、蛍が不安や焦燥を胸へ凍り閉ざしながら任務に取り組んでいること。
原因は光の想像すら及ばない、底知れぬ何かであること。
ただ勤務中の手前、恋人を特別気遣うような公私混同は許されない。
氷の仮面を被る蛍へかけるべき言葉も時期も掴めない光は、ただもどかしさを覚えた。
「やはり、応答しないか。逃亡の可能性を考慮すれば、家宅捜査をしてみるが……はあ、今から簡易裁判所に連絡しないと」
石井被疑者の住む部屋の扉で身構える蛍達。しかし、先頭の浜本がインターホンを鳴らしても応答はない。
代わりに、扉に搭載されたマンションの安全警備機能AIが、部屋主の留守を伝える音声を流した。
ルーナシティでは、管理主ならびに建築会社は住居の安全警備機能を設置する。
各区域の犯罪被害率に応じた基準を満たす義務がある。
万が一、入室許可者に登録されていない人間や強盗に押し入られた場合、警察への自動通報システムも搭載されている。
ただし、今回の場合は蛍達が通報や依頼抜きで一般宅へ押し入るには、本部や裁判所からの許可が努力義務となる。
「『令状』なら、ここに。予め連絡して正解でした」
「……さすが仕事が早いな、櫻井刑事官」
蛍の警察端末の画面に表示された令状に、浜本は呆れと感嘆の溜息を零した。
警察権限に家宅捜索ならびに身柄確保の令状さえそろえば、鉄の扉に守られた密室も藁の家だ。
浜本は自身の警察証を表示した通信機を扉の警備モニターにかざした。
警察証は、あらゆる建物や施設の安全装置を通過する万能通行証となる。
被疑者や犯罪逃亡犯がどこへ隠れていても、警察はあらゆる安全装置を突破して彼らを取り押さえられる。
令状によって、警察権限の濫用と悪用を防ぐ一方で、円滑な公務執行による犯罪の早期解決が優先される仕組みだ。
「もぬけの殻か……奴はどこにいった?」
万一に備え、拳銃を手にした浜本達は石井宅へ押し入った。
しかし案の定、室内には石井の姿も気配もない。
被疑者の逃亡は想定済みで、蛍と浜本は冷静に状況を述べ、後方の刑事官達は悔しそうに唇を噛む。しかし、蛍の仕事はここで終わりではない。
「家宅捜索を始めましょう。事件だけでなく、逃亡先の手がかりも見つかるかもしれません」
冷凛とした蛍の声かけによって、浜本以外の刑事官も決心を固めた。
さっそく蛍達は髪の毛一つ探す勢いで、部屋中を隅々まで捜索し始めた。
本人は不在だが、佐々木殺害事件の動機や犯人の手がかりを探すことは可能だ。最中、寝室の押入を物色していた黒沢は壮大な溜息を吐いた。
「あーあぁ。せめて成人向け媒体の一つ二つは隠してねーか、期待していたのによ」
「え……?「いい加減にしろ黒沢。櫻井刑事官、こいつの言葉は無視しろ」
黒沢が気だるそうに零した不満に混ぜた猥言。
緊迫した状況と黒沢の台詞が似つかわしくないせいか、意味を呑み込めなかった蛍は双眸を丸くするのみ。
波紋なき水面の眼差しにいたたまれなくなった光は、蛍を庇うように前に出ると黒沢を咎めた。
「冗談だぜ」、と悪そびれずに笑い零す黒沢に、今度は浜本の正義の鉄拳が飛んだのは言うまでもない。
「よく分かりませんが……お手柄です、黒沢刑事官」
一方、皮肉や冗談の通じない完全勤務モードに入っている蛍は、黒沢を淡々と労った。
飴と鞭で釈然としない表情の黒沢だが、彼が一番先に手がかりを発見した功績は認められる。
さっそく蛍は黒沢の見つけた“妙なもの"を自ら確認すべく調べ始める。
立てつけの悪い古びた押入れの奥に見つけたのは――これは、"シミの痕"?
蛍の瞳に映ったのは、箱らしき物体を置いていた痕跡を示す赤褐色のシミだった。
手袋の指先でシミの痕をなぞって、感触と色の具合を確かめる。
この位置にあった何かが、つい最近持ち運ばれたと思える。
赤褐色のシミを凍てつく眼差しで凝視する蛍を他所に、後方から浜本の指示が聞こえた。
「一時撤退するぞ。長居は無用だ」
これ以上の手がかりは望めない、と判断した浜本は、一旦警察署へ戻る指示を仰いだ。
先頭の葉月班は、「立ち入り禁止」の電子帯を張った扉の安全装置を再設定してから退室しようとする。
一方、寝室にいる蛍と黒沢だけはじっと佇んでいる。一向に退室しない二人に光は怪訝な眼差しを浮かべた。
「おい、二人共、どうし……」
「静かにしろ、光」
しかし、光の声は彼の唇に当てられた蛍の白い指、と黒沢の真剣な囁き声に遮られた。
「この辺りから何か聞こましたね」
普段にはない真剣な二人の言動は、まさに近くで身を潜めている存在を示唆している。
玄関にいる浜本から催促の声が聞こえているのも構わず、蛍は耳を研ぎ澄ます。
「……! 間違いねぇ。音の重さから身長は約百七十センチ、体重約五十キロ台の細身の男だな」
黒沢も卓越した野性の直感を今まさに発揮した。
動物顔負けの聴力と気配察知で即座に分析した足音の主の特徴。
黒沢の台詞から確信を得た蛍は、迷いのない俊敏さで寝室の窓へ駆け寄った。
埃汚れが積もった硝子窓、向こう側に並ぶ白い縦線の柵。
淡い水色の空に人工遺伝子植物で彩られた外の景色を映す窓を勢いよく開けた。
「いない……となれば、この真下……!」
「櫻井刑事官……!」
「おい待て反則だぞー!」
大胆にも蛍は、柵を飛び越えてからベランダの真下へ降りた。
黒沢と光も慌てて蛍へ続いて飛び降りた。
一方、蛍達の突飛な行動に後輩達は当惑し、浜本は舌打ちを零した。
しかし、「この真下の部屋の扉とマンションの出入口を封鎖してください!」、という蛍の的確な指示に従って、浜本は煩わしそうに駆け出した。
石井宅の真下は幸い空き部屋で、入るのに何の支障もなく、光は安堵を零した。
窓から室内へ入ると、最低限の家具と積もった埃しかない陰鬱な空間が広がる。
一方、居間へ一先ず着いていた蛍は既に拳銃を両手に構えていた。
途端、既に腰の拳銃へ手をかけていた黒沢は当然、呆然としていた光も拳銃を取り出した。
凍り付くような緊縛感は光と黒沢の胸で一気に膨張する。
「二郎・石井さん、ですね?」
銃口の捉える先を真っ直ぐ見据えたままの蛍は冷徹に問いかける。蛍の目線を追った黒沢と光の双眸は軽く見開かれる。あれは――。
殺風景な部屋の隅で息を潜めていた細身の男性。
蛍の問いかけに答えず、代わりに鋭い眼差しで威嚇する男は、間違いなく石井被疑者だ。
ただし、明らかに警戒心を剥き出しにする石井の表情に光は釈然としなかった。
「ビンゴ! 自室の真下に隠れていたとはな。大方、俺達が来たから慌ててベランダから逃げたんだろ? ここに隠れてやり過ごそうと思ったんだろうが、俺の直感と耳は欺けなかったな!」
「静かにしてください、黒沢刑事官」
「二郎・石井。お前には、児童救済相談所の佐々木所長の事件に関与する容疑がある。警察から逃げようとした理由も含めて、署で話を伺いたい」
部屋の隅で萎縮する石井を飄々と茶化す黒沢を、蛍は冷静に諌める。
気を取り直した光は、なるべく丁寧な声色で任意同行を申し出る。
しかし、警察官にしては冷静な蛍に穏やかな光の態度は、かえって石井の警戒と猜疑心を高めたのか。
石井は口を閉ざしたまま、凶暴な野良猫さながら蛍達を睨み続ける。
「さすが、光刑事官様。相変わらずお前は律儀だな。あの調子じゃあ、応じる気配はハナからねーだろ?」
「銃を突き付けられたままお前に恫喝されたら、誰だって怯える。先ずは相手が落ち着くまでを見計らって対話と交渉を試みるんだ。そしたら、今後の取調にも効率的だろう」
厚い床と天井に隔てられた安全地帯が生んだ油断と隙。
微かな足音だけで、相手の特徴と位置まで特定する秀逸な聴力を備えた警察がいるのだ、と一体誰が想像できたのか。
冷やかな美しさをたたえる女刑事官に銃で牽制され、粗野なチンピラ男刑事官に恫喝され、お人好しっぽい優男刑事に気を遣われて。
異彩を放つ三人に追い詰められているはずの石井は、怯えを忘れて呆気に取られた。
「昔からほんと変わんねーなぁ。真面目でお人好しな所」
「私は光のそういう所、仕事面においても好きだけど」
「こんな時にのろけるなよ、蛍」
「違います。私は光の真摯な勤務態度を評価しただけのことです」
「お前らな……」
まるで、大学の友達同士のやり取り。
呑気な会話を目前で繰り広げる奇妙な三人組に困惑していた石井。
自分が軽んじられているような苛立ちに瞳に鋭さが戻った石井は、隙をついて逃亡を図る。
しかし、石井の爪先が一歩を踏みしめる寸前に氷柱の眼差しは彼を逃さなかった。
華奢な手の内で無機質に艶めく拳銃も石井を再び牽制した。
今度こそ追い詰められた石井は理不尽な強敵を前に虚勢を張る動物さながら、怒りと怯えの眼差しで睨む。
しかし、石井だけを見つめている無垢な氷の瞳は、彼の心をみるみる凍りつかせていくのが分かった。
「二郎・石井。我々は事件の早期解決を望みます。無益な被害を止めるためにも、あなたの情報は必ず役に立ちます」
感情の景色を映さない、薄氷のように冷めたく危うい蛍の瞳。
何よりも美しく、底冷えするほどに恐ろしい。
「あなたが黒だというのなら罪を贖いなさい。違うというのであれば、どうか、我々に従って協力を」
侮蔑や敵意がまるで見えない、凛と澄んだ眼差しで、蛍は石井へ慇懃に語りかけるてくる。
氷のように冷たくも美しく澄んだ声を聞いていると、光と黒沢も不思議と心が穏やかに冷え渡る。
「……ふざけるな……俺は何も知らない。俺は悪くない。悪いのは全て――あの男だ――!!」
しかし、蛍の説得は石井の静かなる怒りを発火させたらしい。
逆上した様子で声を荒げると、脇に置かれた植木鉢を咄嗟に掴んだ。
渾身の憎悪と怒りを込めた凶器は、蛍の顔面めがけて真っ直ぐ飛んできた。
それでも、石井を真っ直ぐ捉えたまま微動だしなかった蛍の瞳に――小さな驚きが瞬いた。
「大丈夫か!? 蛍っ」
「――また、無茶をして。私は大丈夫。光、怪我は」
「このくらい平気だ」
咄嗟に蛍の前へ出た光は、投げられた植木鉢を片腕で受け止めた。
蛍を庇った光の右腕から粘土色の欠片と渇いた土が零れ落ちる。幸い、擦傷も出血もないことに蛍は内心安堵した。
氷鉄のように硬く鍛錬された蛍が本気になれば、植木鉢の回避も粉砕も可能だった。
蛍の強さも賢さも、相棒の光は分かり切っている。
それでも、自分の大切な女は我が身を挺して守りたい――。
蛍に対する光の愛情、男としての本文、矜持と意地だ。
ある種の満足感に唇を綻ばせる光に、蛍は冷徹な瞳に呆れ、唇には微笑みを浮かべていた。
「お二人さん! イチャつくのもいいが、朧月さんが逃げるぞ!」
わざとらしい焦りを込めた黒沢のかけ声に、光は即我に返った。
植木鉢を投げつけた隙に、石井は玄関の扉まで遠ざかっていた。
これで逃げられる――勝利を確信した石井は、歓声をあげるような乱暴さで扉を勢いよく叩き開けた。
しかし、扉が全開した所で石井の両足と思考は停止した。
「そこまでだ、二郎・石井」
扉の外で待ち受けていた存在に、石井は絶望に凍りついた。
石井の細腕へ無慈悲な手錠はかけられた。
愕然とする石井が状況を呑み込む間も与えず、浜本達は彼を硬い床へ取り押さえた。
石井は苦悶の顔を地べたにつけられたまま、浜本達を忌々しそうに睨み上げる。
「くそ、何でだ……!」
「私は、優秀すぎる部下に恵まれていてな。ご苦労だった、櫻井、藤堂、黒沢……怪我はなさそうだな」
石井を冷徹に見下ろす浜本のもとへ蛍達は合流した。
最後に蛍達の無事を一応確認する浜本なりの気遣いに、蛍は内心微笑みながらも淡々と応えた。
「はい、我々はこの通り。ですが、光は念のために医務室で診てもらうのがよいかと」
「いきなり植木鉢を櫻井へ投げつけた時は肝が冷えたぜ」
「口を慎め、黒沢刑事官。仕事はまだ終わってない」
「櫻井を咄嗟に庇ったギザな奴が何を」
相変わらず軽口を叩く黒沢を、光は真面目に咎める。
しかし、勤務中であっても惚れた大切な女を真っ先に庇う光に、黒沢はニヤニヤと愉しく笑う。
茶化された光は怒りと羞恥からか、グッと唇を噛んで黒沢を睨む。
いたたまれなさそうな光に彼を揶揄う黒沢の言動、無自覚な蛍の様子に、浜本達は惚気に当てられて溜息を吐いた。
「もういい……二郎・石井被疑者。殺害された肇・佐々木とのトラブルの件も含め、署で詳しい話を聞かせてもらう」
両腕を後ろに銀の手錠で拘束された石井を、浜本は改めて見下ろす。
他の刑事官達は、石井の両側から肩を掴んで強引に起こした。
敵意と微かな怯えを剥き出しにする石井に後輩は眉を顰める一方、浜本は毅然と指示を出す。
「俺は、何もしてない。俺は、悪くない」
「それは、お前から事実を訊き出した後、警察と裁判所で判断する」
「……許さない。どいつもこいつも、俺を……俺の"大事なもの"を――っ」
「!? 痛――っ」
俯いた石井が地の底から呻くような声で呟いた直後。
彼を取り押さえていた二人の刑事官は苦痛の悲鳴を漏らした。
何事かと目を張った浜本達は、宙を舞った小さな血飛沫、と不穏な銀の輝きを捉えた。
二人が苦悶の表情で背中を押さえていると、片手に果物ナイフを握る石井が二、三歩下がった。
袖に隠し持っていたナイフの刃先をがむしゃらに振り回して、刑事官を傷つけたようだ。
とはいえ、手錠を後ろ手にかけられたまま、刑事官全員を振り払って逃げるのは難しい。
それでも石井は自暴自棄に陥っているのか、理性を無くした獣のような荒い息を吐いて殺気立っている。
「貴様、何だよ……その眼は!」
一触即発な空気に誰もが表情を強張らせる中、唯一悠然と前へ出た女刑事。
いかなる炎にも燃え溶けない氷人形のように冷たく、強くて、美しい佇まい。
狼狽える石井へ静かに近付いてきた蛍は真っ直ぐ見つめてくる。
正体不明の寒気に胸がざわつく感覚、氷の眼差しに堪えの切れた石井は烈火の怒声を浴びせる。
「そうだ。貴様さえ俺に気付かなければ……あのまま大人しく帰っていれば、ようやく俺は解放されたのに。貴様のせいで何もかも終わりだ――!!」
恫喝されても眉一つ動じない態度、氷膜さながら澄んだ眼差しが癪に触ったらしい。
蛍の白い喉笛へ噛みつく勢いで突進してくる石井。両手の自由が利かずとも、鋭利な刃先へ研ぎ澄ました己の憎悪で十分だとばかりに。
慌てて光は前へ飛び出そうとしたが「下がって」、と蛍の片手に制された。
冷静沈着な蛍の意図を瞬時に察した黒沢は光を後退させた。
怒り狂う石井の刃先が蛍の喉笛へ届くまで残り一メートルの所で――薄氷のような瞳に怜悧な炎が宿ったと同時に、石井の胸倉へ激痛が走った。
猛烈な衝撃は突風のごとく、石井の痩躯を薙ぎ飛ばした。
己が身に起こった現象を把握しきれていない石井は、暫し愕然と宙を仰いだ。
起立すら困難な疼痛の原因を探るべく、視線を彷徨わせていた石井は双眸を見開いた。
タイツに包まれた細長い右脚を黒鳥のバレリーナさながら美しく伸ばしている蛍の姿。
己を厳しく鍛え上げた者だけが備える強靭でしなやかな筋肉は氷鉄のように艶めくよう。
洗練された蛍の動きに目を奪われる石井と視線を合わすように、蛍は膝を折って語りかけてきた。
思わず身構える石井と一緒に、後輩の刑事官にも緊張が走る。
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