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神魔大戦  作者: 風龍
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幼くして両親を失った子供が成長しながら使命に目覚める冒険ファンタジー

プロローグ

世界は様々な神々が統治し大きな争いも無く平和に暮らしていた。

そんなある日、突如として神々の存在が無くなり世界は混沌に包まれた。


長い長い年月が過ぎ神々は神話になり、神々の残した偉大な財産は神器として世界中に存在し、かつては神々が居たと信じられていたのだった。

しかし、一部では神や悪魔が人の中から覚醒したとまことしやかなうわさが流れていた。

世界は弱肉強食になり、知能のある人間や亜人は堅固な柵等で獣や魔物の侵入で被害が出ないように守りを固め、自警団が組織され周囲の外敵を排除する日々を送っていた。

魔物は魔素が一定量溜まると誕生し、人や亜人や獣人、獣等は交尾によって繁殖をしていた。

魔素はすべての生き物の根源となっており魔素の濃い場所には強力な魔物が生まれるが、魔素より発生したものは基本的には生まれた場所から外部には出ないようになっていた。

強さによって行動範囲はかなり広範囲になるので弱きものは常に恐怖にさらされていたのだが・・・。

長い年月が経っても神の恩恵はあり、それは髪や瞳の色に表れて種族では区別できるが、恩恵は生まれて来るまで分からないのであった。

神の恩恵とは属性が深くかかわっており、親同士が同じ属性で夫婦になっても子供は全く違う属性になる事が普通なのであった。

そんなある日、金髪、金眼の子供が誕生し、名前はラムと名付けられた。しかし、金髪に金眼は一般的に忌み児として扱われ、迫害されながらも毎日を懸命に生きていた。

この世界では子供は様々な属性を持った髪と眼の色で決まっているのだが、金髪に金眼の属性は極少数しか存在しないとされ、一部の地方では災厄を呼ぶ存在として恐れられていた。

複数属性を持った子供は髪の色が複数色だったり眼の色がオッドアイであったりするのだ。

子供は5歳になると固有スキルが使用出来るようになり、弱肉強食の世界で生き残るための訓練を受け始めるのだ。この訓練はスキルの効果的な使用方法等も同時に教わるので要領の良い子供はどんどん先へ進んで行けるのだった。

通常は5歳でスキルを使用できるのだが、ラムは5歳になってもスキルが発動しなかった。強スキルの場合身体が耐えられなくて発動しない事があるらしいと言われるのだが、スタート地点が遅ければスキルが発動しても先へ行った人に追い付くのは並大抵では無いということは容易に想像できた。スキルは使用して行くことによってスキルの精度が上がったり、レベルが上がると出来る事が増えるのである。

ラムの父は村一番の戦士だったため村から追い出されることはなかったのだが村の人間には怖がられ、子供たちにはいじめられる毎日だった。

ラムの住む村は林の中にあり、木を伐採して作った木造の小さな家が20軒ほど建っておりラムの家は一番奥まったところにあった。

この村は人間と獣人が半々くらいの人数の小さな村だが、昼間は男は狩りに出向いて食料を確保し、一部の男が村を警護しつつ子供たちに訓練をするのが日常だった。

村自体は質素倹約といった感じでログハウスのような木造で作られたものですべての家が似たような大きさで、村人たちも毛皮などで作られた衣服をまとっていた。

魔物等は死を迎えると魔素へと還元されるのだが、肉や素材を獲得するためには特殊な糸を使用して素材が魔素へと還元するのを阻害して封印する糸を小さい子供でも作れるように習う事が基礎訓練になっていた。作り方は簡単で、自身の魔素を糸状に伸ばすだけであり、ずっと訓練すると素材を剥ぎ取る時に自然に魔素をコントロールして素材が崩れないようにコーティングして持って帰って来られるのである。

主に魔素から生まれたモンスターは倒すと一定時間で魔素に還るが、胎生や卵胎生で生まれた場合は数日ほどで魔素に還るのである。

【急転直下】

明日はラムの10歳の誕生日と言う時に、コボルトの一団が毒矢を使って、狩りに行っていた村の男達を襲ってきたというのだ。

村から二時間程度の場所まで狩りに行っていたのだが、夕方くらいにコボルトの一団に不意をつかれて先頭を歩いていたラムの父親が毒矢を受け、先ほど父が戦死したと、逃げて来た隣人が母に教えてくれた、しかし追って来たコボルト達が一気に村を襲い母や、村の人々を次々と亡きものにしていった。

日が暮れた頃から村のあちらこちらで戦闘があったが村の男たちはほとんどが狩りに出かけていたため村に残った男たちも毒矢で次々に倒されて行ってしまった。

とっさにラムは自宅に隠れたのだがコボルト達は村から金目の物を奪い、戦利品を肴に宴を開いていた。深夜頃には次々に村の家に火をつけて回り始めていた。

ラムの自宅にも火が放たれあわてて外に出ると毒矢で撃たれて虫の息の母が這ってこちらに向かっていた。

母に気が付き走り寄ろうとしたとき複数の矢が母の背に突き刺さり、そのまま母は力尽きてしまった。

その後ろでは下卑た笑いをしている15人程のコボルト達が毒矢を構えこちらに狙いを定めていた。

母が亡くなった事でラムの怒りが頂点に達し護身用にと父に持たされた片手剣を強く握りしめた時、一斉に矢が放たれた。

【青天霹靂】

全身の血が沸騰するような怒りでラムの身体が震え、怒りが頂点に達した時、ラムの全身が光に包まれたように見えた、次の瞬間、コボルト達の前を光が通り過ぎた。

後から空気を引き裂く轟音が響き渡り、切り裂かれた風が突風となりラムの全身が風に包まれる。一秒にも満たない間にコボルト達は全員絶命していた。

『紫電一閃』

矢が放たれた瞬間にラムのスキルが発動したのだった。

発動した瞬間、世界がまるで止まったかのように見えた。

怒りのままに敵の首に次々と剣を振るっていく。

致命傷と思われるほど剣で傷をつけて行きスキルが切れた時、敵は水風船が割れたように赤い液体をまき散らすのみだった。

超高速で通り過ぎた事で衝撃波が襲いかかり、剣を振った場所には真空刃が出来、剣以上に切断と衝撃波で生身の人間など一瞬でボロ雑巾のように変わり果てていた。


ラムのスキル系統は雷を纏った超加速、5歳でスキルが発動しないのは加速移動に身体が耐えられなかったからで、そのため10歳にならないとスキルが発動出来なかったのだ。


コボルト達を一蹴したのち、ラムは母を埋葬していた。

埋葬が終わるころにはうっすらと日の光が見えてきたが、村の家々は燃え尽き焦げ臭さと匂いに釣られて獣やグールが柵の外に集まってきていた。

柵の一部が燃え落ちていたので一刻も早くこの村を離れようと決心した時、焼け落ちた家の地下収納扉を叩く音がした。

焼け落ちた建物が上にあるため中からは扉を開けられなかったのである。

扉の上の残骸を取り除き扉を開けると虎の獣人の女の子が泣きじゃくりながら抱きついてきた。

(この女の子もまた虎の獣人なのだが毛並みが黄色ではなく白い毛並みのため迫害されていた。)

『ラムお姉ちゃん~怖かったよ~』と言っている、背中をさすってやり、少しすると落ち着いたのか周囲を見回し現状を把握したようだ。

『みんなは?』の問いにラムは首を振る。

『お姉ちゃん敵は?』と聞かれ、『全員片付けた』と答えると驚いたような顔で聞き返してきた。

『お姉ちゃん一人で?』『うん、スキルが発動して倒せたよ』と答えると、『じゃあ後は周りのこいつらから逃げるだけだね』と言い、すっかり冷静さを取り戻していた。

どの村でも生き残ることを小さいうちから教え込まれるので勝てないと判断したら逃げると言う選択を考える、これが弱肉強食のこの世界の唯一普遍の考えなのだ。

獣人はこういう時危険をいち早く察知できるので余計な説明が無くて助かるな~と、思っていたが周囲にはまだ危険が残っている。

『このまま村を出て旅立つことになりそうだがスズはどうする?』と尋ねると、『もちろん一緒に行くよ、じゃああそこの袋のお宝と装備拾って逃げようか?』答えながら各家々から持ち出された金品を袋に全てまとめている。

『逃げ道はどうする?突破するにしても数が多すぎるよ』と言うと、『大丈夫、この地下は天然の地下迷宮みたいになってるけど外に出るルートは知ってるから私に任せて』と、自信満々に答えて来た。

(二人ともラムの父に普段から基本的な戦闘術、サバイバル術等は訓練されていた。弱肉強食の世界では自分自身を守るのに己の強化は必須なのだ。)

村から集められたであろう金品と食糧、ラムとスズの装備一式を持って地下迷宮から外へと向かうのだった。

ちなみにこのときのラムの装備は革のハチガネ、革の胸当て等軽装備一式に鉄の片手剣とバックラー

スズの装備は鎖かたびら、レザーパンツ、バグナグであった。

二人とも動きやすさ重視の装備を選んでいた。一応戦利品として毒矢と弓も頂いてきた。

『お姉ちゃん頭にコブ出来てるよ。どこかにぶつけた?』と聞いてきたが、特にぶつけてもいないし痛くも無いので気にしないでいた。

地下に下りていくとジャイアントバットが襲いかかって来たので撃退、その後もジャイアントアント、ジャイアントワーム、特大サンショウウオ等次々と戦闘しているうちに迷子になり、無事に外に出られたのは7日後の事であった。

このダンジョンは魔素が薄くあまり強いモンスターが生まれてこないので少女二人でも何とか生還できたのだった。

外を目指しながらも迷宮内で敵の素材や魔石、薬草、魔紘等も拾い集めていた。

迷宮内で戦闘を続けているうちに自分たちの弱点がはっきりと分かった。

まず、スズは方向音痴なのだ。毎日休息時に反省点を報告しあい、結論は魔法系のスキルと探索系のスキル持ちを探す事、盾役も必要と言う事を思い知ったのだった。

スライムに出会った時は物理攻撃が効かずに逃げるしかなかったし、リビングストーンに有効な打撃装備も無かったのである。

ラムのスキルは一撃必殺の威力だが体力の消費が激しいため連続使用や長時間使用が無理だったのだ。

スズのスキルは獣人化で効果は全身体能力強化なので物理攻撃が効かない相手には意味が無かったのである。


迷宮を抜け、旅を続ける事5日、小さいながらも冒険者ギルドのある町へ辿り着いた。

【中央連邦国砂漠北支部】と、入口に石碑が建っていた。

砂漠の広がる場所なので建物は砂と土を焼いて固めたレンガ作りの家が建ち並んでいる。

民家が多く、入口の周辺だけに商店などが密集した作りになっている。天然の要塞のような作りになっているが魔物が入口を突破すると一般人が被害に合うので入り口付近に戦える冒険者を最初から配置するため大体の小さな町はこういう配置になるのだ。おかげで迷子にならずに済むのではあるが・・・。

早速迷宮内で集めた戦利品と村のお宝を換金して装備を整え、薬品や簡易食糧等も買い、宿屋に荷物を預けて食事とスカウトのために集会所へとやって来た。

魔石が思ったよりも高く売れたおかげで魔法の付与された武器を買う事が出来たので二人ともご機嫌だった。換金したお金は均等に分けて一部は宿代や食費のために別に分けてある。

この町に武器屋は二件しか無くアクセサリーなどの装飾品は無かったが、魔力の籠った装備は多くはないが置いてあった。

集会所の奥の方の席に腰かけて食事を注文し終えると身を乗り出しながら『ねえねえ、ラムは何の武器買ったの?』と、ニコニコしながらスズが聞いてくる。

『一番無難なファイヤーソードとアイスダガーにしたよ、これより上のクラスは値段も高くてね。胸当てもシルバー製にしたし。スズは何買ったの?』『私はねえ~』と、言ったところで酔っぱらったオークが絡んできた。

『おやおや~?ここはお子様の来る場所じゃないんですよ~』と、にやにやしながらこちらを品定めするようにねっとりとした目で見まわしている。ラム達の装備を見て近寄って来ながら『お子様のくせにずいぶん良い武器持ってるじゃねえか、ちょっと俺様に貸してみな~』と、言いながらさらに近づいてくる。

話を遮られて不機嫌なスズの横を千鳥足ですれ違う時に、オークの足をスズがさっと引っかけると勢いよく転がるオーク。

周囲で見ていた他の冒険者たちが一斉に吹き出す。

顔を真っ赤にして怒鳴りながら起き上ると同時にオークは剣を抜いた。笑って見ていた周囲の冒険者にも緊張がはしる。

集会所での抜刀は絶対にしてはならないというルールも理解してないのか・・・。

オークの眼の前に居たスズの身体が残像を残し薄れていくと同時にオークが前のめりに倒れ気絶していた。天井に跳躍して天井を蹴り、落下スピードに加えて強烈なかかと落としをオークの頭に叩き込んでいたのである。

周囲の冒険者から拍手と歓声が湧き上がり、騒ぎを聞きつけた憲兵がオークを連れ出して行った。

その後は喝采を受けた二人の少女に冒険者が群がりスカウトされまくったが、スカウトの話はすべて断り、自分たちでパーティーを組みたい事等を話し、その日は夜遅くにまで他の冒険者達から周囲のダンジョンの話を聞いて話に花を咲かせて、その後宿屋に戻り休んだのであった。

翌朝冒険者ギルドに行き、冒険者登録を申請、魔力の籠った羊皮紙に手を置くと個人の現在のステータスが記されるのだ。これを提示すれば基本的にはどの街にも入れる事が出来る云わば身分証にもなるのだ。ただしステータスや名前、年齢以外は本人以外は見えないように加工されているそうなので他人が成りすます事も出来ないそうである。登録時には当然お金も取られる。

職業欄には通常、戦士や魔法使い等と出るのだがラムのものは【疾風迅雷】になっている。どうやら特殊な職業のようでギルドの役員らしき人から他者には教えない方が良いと助言された。続いて手先の器用さとすばやさから通常はシーフと名乗るようにと言われたので了解したのだ。

続いてスズも同じように羊皮紙に手を置く、スズの職業は【格闘家】であった。

二人ともダンジョンでの戦闘である程度自分の得意不得意等を把握していた。

スズの魔力量は一般的だったのだが、ラムの魔力量は明らかに多いらしい、魔法使いと比べても二倍以上多いので、スキルと何か関係があるとのことだった。

この日はギルドでの仕事や依頼の受注方法、パーティーへの勧誘等の説明を受けて終わった。

夜になり集会所に行くと他の冒険者から声をかけられるが、営業スマイルでかわし席につき食事と飲み物を注文しこれからの事を相談する。

昨夜の事もあり、ちょっとした有名人になってしまったが未だに自分たちとパーティーを組もうという人は現れない。自分たちのパーティーにと誘われる事はあるのだが・・・。

そんな中どこかの冒険者パーティーのリーダーらしき人が聞いてきた。『二人のスキルはなんだい?』と、確かに一緒に冒険をするならお互いのスキルは重要項目なのだ、

一瞬言葉に詰まり『自己加速です』と答えると周囲の冒険者たちは一様に興味を無くしたように立ち去ってしまった。

おそらく自分の髪と眼の色でどのようなスキルなのか興味津津だったのだろうが、かなり一般的なスキルだったのでがっかりしたのだろう。


そんな二人のところに同じ年くらいのフードを被った女の子が近寄って来た。ただし背中には自身の身長よりも大きな荷物を背負っている。

『お姉さん達、僕の事雇ってよ』と満面の笑みを浮かべて話しかけて来たのだ。

『僕の名前はトール、スキルは土属性魔法、探知、職業は重戦士』と、見た目に反してかなりの筋肉量なのだ。フードをまくり茶髪に短髪のくりっとした黒っぽい瞳の女の子が荷物を床に置いている。

髪の色から見ても土属性なのは明らかなのだが背中には甲羅が見えているのだ。

『あ、僕トータス族です、なぜかみんな甲羅を見ると避けるんですよねぇ』と不思議そうに語っているが、トータス族は恐ろしいほどに動きが緩慢なので移動の際はどうしても速度が下がるので避けられるのも仕方が無いのだ。

ラムが仲間にするか迷っていると、スズがトールを席に座らせ自己紹介を始めてしまっていた。確かに重戦士は欲しいので、取りあえずは話を聞いて仲間にするかどうかは後で考えようと思い、ラムも自己紹介をしてこの日は三人で宿に戻って深夜まで話し込んだのであった。

翌日はギルドに行き、パーティーの募集用掲示板で良い人材が居ないかチェックしていた。

スズが『う~ん、やっぱり魔法使いとかヒーラーは人気あるから居ないねえ~』とため息を吐きつつ言うと、トールも『薬品も持てる量とか金額も張るしどうしても回復は必要な人材だからねえ』と肩をすくめながら言っている。

昨夜の話で分かった事だが、トールは重力反転のスキルが常時発動しているので移動速度に関しては特に問題ないそうだった。生来足が遅いのは自覚しているので移動時は早足にしているそうではあるが体力もかなりあるのでこちらも問題なさそうであった。

唐突にスズが『そういえば新しい装備試したいから近くのダンジョンにでも行ってみない?』と提案してきた。

ラムも『そうだねえ、トールはどうする?』『うん、僕も役に立つってとこ見せないとだから賛成だね』と気合の入った顔で答えて来た。

『じゃあ決まりだね、北の砂漠を抜けた所に初心者向けの荒野とダンジョンがあるんだって。そこに行ってみよう』

早速装備を確認して三人は町を出て砂漠を歩いていた。

二時間ほど経過した頃500メートルくらい先で二人の人物がサンドゴーレムと無数のサンドフィッシュが取り囲んで襲っているのが見えた。

サンドゴーレムは本来は単体で徘徊しているのだが、サンドフィッシュが獲物を取り囲みサンドゴーレムに獲物を倒させて餌にありつくという寄生関係をしている。

ゴーレムを倒すには核と言われるコアを破壊しなければならないのだが常に砂で覆われてコアの場所が特定できないので苦戦するのだ。サンドゴーレムは斬っても回復するので魔法で一気に倒すのが定番である。サンドフィッシュは表面が岩のように固いので倒すのは容易ではないが、肉は最高に美味しいから高値でも売れるのでサンドフィッシュ専門の漁師も居るくらいなのだ。

砂漠の上では走る事も容易ではないのだが、どう見ても二人が倒されるのは時間の問題のようだった。

ラムの決断は『よし、助けよう』『トール、普段は重力反転で軽くなってるんだよね?』と、再度確認する。『うん、自分の装備してるものは軽くなってるよ』と答えると『今すぐフル装備にヘビーシールドを構えてて』、トールは背負っている箱に呪文を唱えると一瞬でフル装備になる、ラムはトールを抱えると同時にスキルを発動して超高速でサンドゴーレムの元へと疾走した。

トールは絶句していた。なにしろ瞬きの間に襲われている二人の近くに降ろされていたのだ。

ラムに『衝撃波が来るからそのままシールドで二人を守って』と言われすぐにスキルを解除して身構えたのだった。

スキルを解除した直後に激しい突風が三人を襲う、トールは重鎧のおかげで飛ばされないが、二人は近くの岩にしがみつくのでやっとの状態だった。少しずつ移動して二人を盾の内側で守った時にスズが横を走り抜ける。

風に乗って走って来たのだろうが、あの距離をわずかな時間で移動してきたのである。

戦闘は意外なほどあっさりと片付いてしまった。ラムの起こした風圧でサンドゴーレムの砂のバリアが吹き飛び、コアがむき出しになったところを封印アイテムで捕えたのだった、ゴーレムのコアは高値で売れるのでその判断力は素晴らしかった。

そして追いついてきたスズがサンドフィッシュを数匹倒すと群れはあっという間に逃げて行ったのだった。


襲われていた二人を介抱しているとトールが話しかけて来た。『ラムさんの自己加速ってこの事だったんですね?』と聞くと『うん、本当のスキルは言わない方が良いってギルドに言われたからね』そう話しつつ気を失った二人を休めせるため、日陰になる場所までトールとラムが背負って歩き始める。スズはサンドフィッシュ三匹をロープで縛って運んでいる。

目的地のダンジョンの前でキャンプを張る事にし、気を失ったままの状態から眠りについたのであろう二人を降ろし夕食の準備を手分けして行っていた。

今日食べる分以外は燻製にするようで、スズが燻製のセットを終えて火をつけると辺りは香ばしい匂いが充満する、匂いに釣られて二人の少女が起きて来た。

『あのう・・・あなたたちが助けてくれたのですか?』と赤い髪が肩にかかる程度の長さに緋色の瞳の少女が聞いてきた。

ラムが『うん、結構危なかったからね』と、答えると、青い髪でロングヘアーにサファイヤブル―の瞳の少女も隣に並んで深々と頭を下げ『私たちを助けて頂きありがとうございます』と綺麗にハモって言ってきた。

その後自己紹介も兼ねて色々と話を聞いた。

まず、かなりの軽装備で砂漠を横断するのは自殺行為なのになぜなのか?と。

その答えは『私たちの村が盗賊団に襲われ大人たちは皆殺しにされ、残った子供たちはみんな捕まり人買いに売るためにと砂漠を荷馬車で通過中に、サンドウォームに襲われみんながバラバラに逃げたんです、でも、盗賊団も他の子供たちも次々に襲われて最後は私たちだけになったところにサンドゴーレムが現れ、サンドウォームがどこかに行ったんですが私たちも体力の限界で・・・』ということらしい。

行く場所も行くあても無いので二人もパーティーに入れて欲しいそうなのでスキル等を聞いてみる。

赤い髪の少女は『名前はスーザン、エルフでスキルは炎系攻撃魔法と弓使いです。年齢は12歳』

青い髪の少女も続いて『名前はセイ、スキルは水系攻撃魔法と癒し魔法、スーザンとは双子です』

『では、こちらも、私はラム、スキルは超加速、職業的にはシーフにしておきます、年齢は10歳で一応リーダーです』

『私はスズ、虎の獣人でスキルは獣化、獣人化で職業は格闘家、年齢は10歳、ラムと同じ村の出身です』

『僕はトール、トータス族で職業は重戦士、スキルには限定範囲の重力反転、探知、土属性魔法、年齢は11歳です』

それぞれ自己紹介を終えると夕食をとり、順番に見張りを立てながらこの日は早く休むのだった。

翌朝、スーザンとセイの装備を整えるためにギルドの町へと向かうと物陰から襲いかかる人影があった。ラムはかろうじてかわせたのだが、危ない所であったのだ。

『その後ろのエルフ供を返してもらおうか?』と男は言って来た。盗賊団の生き残りなのだろう。

すかさずラムが答える『断る、二人は私たちの仲間だ』その答えに頭に来たのだろう、有無を言わさぬ勢いで短剣で襲いかかって来た。が、次の瞬間、男は紅蓮の炎に包まれている。近くには水が無いのでこのまま焼け死ぬかと思っていたらセイの水魔法で消化されていた。

スーザンが『もし次に会ったら今度は容赦しませんよ』、続いてセイも『次は消しませんので気をつけて』と男に言い放った。

男は戦意喪失したようでそのままうずくまっていた。

危険が無くなったようなので男を放置して町へと向かったのだった。

双子と言う事もあって連携が早いのはとても重宝しそうだな、と考えながら五人は町へと帰って来た。

この町を拠点にしてまずはそれぞれのレベルアップをしていき、最終目標としてサンドウォームの討伐を決めたのだった。

周囲のダンジョンは様々な属性のモンスターが居るので自分たちの連携方法や強敵の攻略方法など日々自分たちが強くなっていく手応えを感じていた。


パーティーを組んで半年、とうとうこの町で最高難易度の討伐依頼サンドウォームを倒したのだ。

これはスーザンとセイの希望でもあった。同じ村の仲間たちの無念を晴らして弔ってあげたいという願いだったからだ。

それぞれレベルも上がって戦い方もより洗練された。

ラムは超加速からの一撃を特化するため武器は刀に変更、加速からの斬撃で折れない武器が刀だったのである。

スズは虎の動きがスムーズになるようにクロウ装備をメイン武器に変更、足には攻撃上昇の脛当て、トールは土属性の付与されてより重く、より硬くなった装備に強化、スーザンはロングボウとショートボウで遠距離、中距離で使い分けて近距離では魔法攻撃で、攻撃とサポートがメインに、セイは回復や状態異常回復など水以外に聖魔法も使用出来るようになっていた。

ラムの超加速も以前は周囲を巻き込むタイプから、風を身にまといつつ移動することで衝撃波の緩和が可能になったのと加速時間の大幅なアップがあった。体力の大幅な上昇と魔力の異常な増加であった。額の上部に小さい角のようなものが盛り上がって来たときに魔力が上昇したそうである。

一つの目標を達した事で次のステップに上がろうと言うことになり、五人の少女たちは大きな街へと拠点を移す事をギルドに報告すると紹介状を手渡してくれた。

『この街なら君たちのやりたい事がきっと見つかるよ』と、この町のギルドマスターに言われ、最後の挨拶を済ませて、次の目的地へと向かうための幌馬車に乗り込むのだった。


馬車を走らせる事5日、トラブルも無く目的地に到着したのだが、このような大きな街を全員初めて見たので感動に浸っていた。

今まで見て来たどの町よりもはるかに高く頑丈そうな城門に圧倒されつつ検閲所に通される。

憲兵らしき人にギルドマスターからの紹介状を見せるとこの街のギルドの場所を教えられ、早速向かうことにした。

すれ違う人々の多さや様々な人種が獣人、エルフやドワーフ等も普通にたくさん居てわくわくが止まらなかった。

ギルドの看板を見つけて中に入ると壁にはたくさんの依頼書が貼られている。迷子のペットの捜索依頼からドラゴンの討伐まであった。色々な依頼書を見ているとカウンターにギルドの受付嬢が二人忙しそうに依頼書にサインをしている。

一段落したときに他の町からの紹介状がある事を告げると一番奥の部屋にギルドマスターが居るのでそちらで説明を受けるように伝えられたので、そちらへと向かい重厚そうな扉をノックした。

すると扉が開き黒髪の青年が部屋の中へと案内してくれ高級そうなソファに座らされた。

小間使いの人かな?等と考えていたらギルドマスターと書かれた机の奥の椅子に腰かけ挨拶してきた。

『初めまして、この街のギルドマスターのハーディと申します、以後お見知りおきを』と、にこやかに言い『北の砂漠でサンドウォームを倒したパーティーが居たって言うのは噂では聞いていたけどまさかこんな少女たちだったとは正直驚いたよ』と、いつの間にか持っていたはずの紹介状が机の上で広げられていた。

ラムは緊張はしていたがけっして油断はしていなかったのだが、いつの間にかスリ取られていたのには驚きを隠せなかった。

『ああ、ごめんごめん、ついうっかり』と、いたずらっぽい笑みを浮かべて言っていた。

『素早さに自信があるって聞いてたから試してみたくなっちゃうんだよね』と、話すハーディーにラムはハンカチを手渡す。『これは・・・?僕のハンカチ?』

ラムもハーディーの胸ポケットからハンカチをスリ返していたのだ。

『あら、私たち気が合いそうですね?』と、ラムもにこやかに返していた。

しばし緊迫した空気になったのだが、扉がノックされ秘書さんが扉を開けてワゴンを引いてきた。

その後は秘書さんがお茶を持って来てくれて、街の施設の説明と依頼書からのクエストの受け方と流れ等細かい事を聞いて退室した。

『マスターにひと泡吹かせるなんてなかなかやる娘ですわね』と、秘書が言うと『僕も驚いたよ、なんの気も乱れずスレるなんてものすごく精神が鍛えられてるね、これは早めに仲間に引き入れたくなる人材だね、五人とも信頼関係が構築されているようだし、どんな戦略にしようかな~』と、ぶつぶつ言いながら奥の自室にこもってしまった。


『長旅で疲れたからまずは宿屋に行って腰を落ち着けようか?』と提案するとみんな賛成したので宿屋へと移動、しばしくつろいでから各々装備品の買い出しに出掛けた。

ラムはチャームやタリスマンと言ったバフや耐性効果のアクセサリーを見て回っている。

スズはクロウ装備やグリーブと言った攻撃力アップと防御力アップの品定めに。

トールはいつもの重鎧を鍛冶屋で魔法効果アップと防御力アップを発注。専用武具なので本人の魔力を馴染ませながら加工するので時間がかかるのだ。

スーザンは弓の新調と矢の補充、セイは薬品の素材とワンドの新調、それと純度の高い魔石の品定めもしている。セイは薬師と彫金のスキルを覚えたのである。

ちなみにスーザンは鑑定スキルを獲得したので倒した魔物の素材の価値等や魔鋼や魔石の鑑定のおかげでまあまあ裕福なパーティーになっていた。

各々が用事を済ませ待ち合わせていた食堂に行き食事と飲み物を注文して買い物や街の話題で盛り上がっていた。

トールの後ろにフードを被った子供が近づいてきてトールの荷物を持ち去ろうとした・・・が、荷物はびくともしなかったのだ、それはそうだろう、トールは華奢に見えるが重鎧の重量は百キロ以上もあるのだから。もっとも、持ち去ったとしてもトールの専用装備なので売る事も装備する事も出来ないのだが・・・。

荷物を諦め逃げようとするがトールのスキル、重力が発動していてあっという間に地面にはいつくばる。

冒険者は基本的に武器や装備は身に着けたままで生活するのだが戦士や騎士や重戦士は魔法の箱に装備を入れて持ち運んでいる、どういう原理かは不明だが長年愛用している防具や魔力の籠った防具は戦闘時には瞬間的に装備されるらしい。

盗人も相手が悪かったようだ、トールの荷物は大の大人ですら持ち上がらないので子供の力ではまず動かす事も出来ない事だろう、トールはゆっくりと近づき子供を起こすと耳元で一言囁いてそのまま逃がしてあげたのだ。

スズがからかうように『トールちゃんやっさし~』と笑いながら言っている。ここに居るメンバーは全員が辛い思いをしているので子供をとがめる気はないのである。

『そう言えばトールちゃんは防具打ち直すんだよね?何日くらいかかるの?』と、スズが話題を変えて来た。『たぶん5日くらいだって、ここの加治屋さんは魔法効果付与も出来るみたいだから僕も付きっきりになっちゃうかな』『そっか~自分の魔法効果付与だと効果が全然違うもんねえ』と、スズが羨ましそうに言っていた。

『そう言えばこの街の武器屋に名刀があるって聞いたよ、リーダーの刀もだいぶ傷んでるもんね』と、スーザンが情報を教えてくれたので明日はその武器屋を探す事にしようとラムは思っていた。

『この街はチャームとタリスマンのアクセサリーたくさんあったからみんなも装備買うと良いよ』と、夜が更けるまで話し合っていた。

おなかも膨れて眠くなってきたので宿屋に戻ろうと外に出ると先ほどの子供が走り寄ってきてトールに何かを手渡すとそのままどこかに走り去って行ってしまった。暗くてメモのようなものに何か書かれているので宿屋で見てみると、地図のようなものにバツ印が描かれていた。

『これなんだと思う?あの恰好からすると宝のありかには思えないけど・・・』と、トールが裏も確認するが特に何も描かれてはいなかった。

『わざわざ私たちが出て来るの待ってたって事だから急ぎなのかな?』と、セイが意見する。

『う~ん、取りあえずこの地図の場所が分からないと判断に困るね』と、ラムが言うとトールが周辺の地図を出してきた。ダンジョンでのマップや周辺の地図はトールがすべて役割を担ってくれている。

地図を見てメモと一致する箇所を探して行くと、この街から二時間程度の距離のダンジョンのようだが買った地図には危険度が最高ランクと書いてある、最高ランクとは攻略が不可能なレベルの魔物が居るか、人の入れない環境のどちらかなのだ。

『行くだけ行って、入口で探知使って危険そうなら撤収かな?』とのラムの意見に全員賛成したので明日はダンジョン入口までの冒険になったので、装備を一通り確認して眠りについた。


翌朝朝食を終えると早速街を出て目的地へと向かう。砂漠の町と違ってこの辺は拓けた荒野のようで所々に草原地帯も見受けられる。特に魔物などにも遭遇しなかったのだが、目的地に着いた時に魔物に遭遇しなかった理由がはっきりと分かった。入り口にも付いていないのにあまりにも禍々しいオーラが溢れているのだ。この魔素の濃さであればダンジョン内はかなりの高レベルの魔物で溢れかえっている事は容易に想像できる。

自分たちも結構レベルが上がったと思われたのだが、まだまだ全然駄目だと思い知る事が出来た。

現状、近寄る事も出来ないので引き返そうとした時、昨夜の子供がダンジョンに入るのが見えた。

『今ダンジョンに入ったよね?』とメンバーに聞くと皆頷いた。すると直後に子供の悲鳴が聞こえた。

ラムは意を決して『行くよ』と、言うと全員が一斉に駆け出していた。

トールが装備完了と同時にラムの超加速が発動、トールを抱えつつダンジョンに飛び込むと闇を纏った大蛇が子供を襲おうとしていた。子供の前にトールを降ろし、子供を守るのを確認すると必殺の超加速からの刀の一閃で終わると思っていた。刀が大蛇に当たった瞬間【キンッ】と言う音がして刀が折れたのだった。恐ろしい事に大蛇は超加速中のラムに攻撃を仕掛けて来たのだ。

攻撃をとっさにかわすとトールの重力のスキルが大蛇の動きを鈍らせる。スーザンの炎魔法攻撃も鱗で弾かれ、セイの状態異常効果もレジストされた。勝ち目が無いと判断して逃走に全力を傾けた結果ダンジョンから逃げる事に成功した。

トールの全力の重力魔法でも少し動きを鈍らせる程度の効果しか無かったと言っていた。

岩をも斬れる刀がまさか傷一つ付ける事も出来ずに折られるとは思いもしなかった。

いったいあの奥にはどんな魔物が居るのだろうか?などとずっと考え事をしながら街へと帰ってきた。

そう言えばなんであの子はあそこに居たんだろう?と今更ながら気づいて子供に理由を尋ねようとしたら、ずっと抱いていた何かをトールに渡して『あげる』と、言うとまたもどこかに走り去ってしまった。

渡されたものを開けるとオオカミの子供が出て来たのだ。どう見ても生まれて間もない感じで、まだ目も明いてない状態、ずっと荒野を移動中も水も取れず、ミルクも与えていなかったのですっかり衰弱していた。

急いで子犬用品など買い集めて一段落したときには夜になっていた。

トールは子犬がミルクを飲み始めると鍛冶屋に向かって行ってしまっていた。

スズは子分が出来たと喜んでいるので基本的なお世話はスズに任せたのだった。

獣人ではないので魔獣だろうとの結論に至ったのだが、オオカミの魔獣にしては魔力が高いのだった。

一晩が経ち、じっくりと、このオオカミの子を観察する。漆黒の毛艶に中央部分、背中に沿ってたてがみのように生えている毛がある。驚いたことに一晩でかなり大きく成長しているのだ。

トールは今日も鍛冶屋に行きっぱなしになると言うので、トールに子犬を見ていてもらっている間に朝食を済ませてからスズが子犬の世話をするので宿屋に行ってトールと交代する。

スズに世話を任せて、ラムは折れてしまった刀の代わりを武器屋に探しに。

スーザンとセイはアクセサリーを求めて二人で買い物に向かったのだった。

ラムが見つけた刀はかなり名のある刀匠の打った刀のようで結構な金額であったが、なんとか購入する事が出来た。いわくつきの刀なので本当の値段は購入価格の10倍はするそうなのだ。この刀を持った者は必ず雷に打たれて死んでいると言うのでこの価格で売っているそうだ。ひと目見てこの刀に一目惚れしたので他の刀は眼に入らなかったのである。雷をも切れる刀と言う【雷切】と言う銘が付いているそうだ。

スーザンたちの方もイヤリング、ネックレス、ブレスレット、指輪、アンクレットと着けられるだけ装備品を買っていた。そしてここのお店はパーティー専用の魔力付与のマントを作れるそうなのでオーダーしてから宿屋へと帰って来た。

ふらふらになってトールが戻って来たのだが、防具に相当魔力を練りこんでいるようでかなり疲れていたが満足のいく仕上がりになりそうで喜んでいる。鎧と盾に反重力の魔法を付与させて当たった時の速度を軽減してダメージを小さく、ハンマーには重力倍化で振り下ろした時に加速してダメージアップさせる事が出来るように加工中なのだそうだ。

スズも一日中子犬と遊んでいたようでかなり疲れているようだ。獣人の体力で疲れるのだから相当の運動量のはずなのだが子犬は平然としている・・・また大きくなっている。子犬の眼の色が昼間は黒いのだが夜になると銀色に変化している。夜になると魔力が上昇している?スズもかなり疲れているようだが宿屋で遊んでいたわけでもなさそうだった。居眠りしているスズを起こして食堂に移動すると子犬も付いてきた、かなりスズに懐いているようでピッタリと寄り添っている。

食堂でそれぞれ食べ物を注文して子犬にも餌を用意してもらった。魔獣などを連れている冒険者も少なくないのでペット用の餌も豊富に用意されているのだ。オオカミっぽいので基本は生肉で大丈夫そうだが、まだ、生まれて日が浅いので今日はミルクにしてもらった。

その後、数日で元のサイズの数倍に成長していた。

セイが子犬の名前をどうしようかと言いだしたのでこれからの冒険に連れ回して行って大丈夫なのかと考えていたら、スズが『あ、この子戦えるよ、子犬なのに下手すると私より強いかも』と、とんでもない事を言い出したのだ。『え?ちょっとまって、生後間もない子犬がスズより強いの?』と、思わず聞き返していた。『うん、多分だけど、あのダンジョンで生まれた子だとしたら納得できない?』と、セイが思った事を意見する。『確かに、あのダンジョンの魔物はケタ違いの強さだったからあそこで生まれたのならそれも考えられるね』『でも、普通魔物って人に慣れるの?』と、新たな謎が生まれた。『そもそもオオカミなの?たてがみあるし、夜に魔力上がるって闇の眷属よね?』と、スーザンの感想ももっともだった。結局子犬の正体は情報が少なすぎて分からずじまいだったが、これからの方針は決まったのである。まず、冒険には連れていく、基本的なお世話はスズが担当、名前はスズがりルルと付けた。


ギルドに行きダンジョン内の話をするとあの大蛇はデビルスネークと言う高レベルモンスターとの事だった、基本的にあのダンジョンに近づく者が居ないので生態が一切分からなかったのだが、一種類とはいえこの情報はかなり重要なのだそうだ。


トールの防具の強化がもうすぐ完成するとの事なので、リルルを連れて中級者向けのダンジョンに来ていた。このダンジョンは闇の属性モンスターが多く攻略に手間取っていた。ボーンアンデットはトールのハンマーで粉砕していたのだがトールが居ないだけで普段の連携が崩れてしまっていた。

半日ほど経過して今日は戻ろうと入口に向かおうとするとリルルが警戒して呻り出す。なにも無い空間だと思ったら魔法の攻撃があったのだ。

おそらく、リルルが気が付かなければ大怪我か下手すれば倒されてたであろう攻撃だった。このダンジョンのボスモンスターワイトキングの攻撃だった。ワイトキングは状態異常が効かない上に魔法耐性も高いので体力をどんどん削られていくのが分かる。ワイトキングが大魔法の詠唱に入った時、リルルがワイトキングの目前にあった魔法陣を一部食ったのだ。魔法の詠唱が中断され無防備になったところをスズの風魔法を纏った全力のかかと落としで地面に落とすとスーザンの爆炎魔法で追撃、セイの聖なる魔法で浄化弱体したところをラムの超加速で再生不可能になるまで細かく切り刻むとようやく消えていった。

激しい攻防の末ようやく撃破するとワイトキングの身に着けていた装飾品がドロップアイテムとして手に入った。リルルがワイトキングの残骸の匂いを嗅いでいる。そう言えば倒したモンスターも必ず匂い嗅いでたなあ。オオカミだから匂い覚えるのかな?と。このときは気にもしていなかった。

ワイトキングのドロップアイテムは、魔力の籠った装飾品なので売っても良い金額になりそうで今日は切り上げて街へと戻るのだった。

宿屋で戦利品を鑑定すると魔力がかなり上がると言う事だったのでスーザンが装備する事になり、他の戦利品は売却して宿代の袋へと足された。

街へと戻りギルドに行くと魔獣もパーティー登録が必要との事だったので羊皮紙にリルルの足を置くとステータスが出てくる。確かにスズが言うとおりスズよりも数値が高かったのだ、職業は【闇の幻獣】となっていた。スキル欄には、探知、ドレインマジック、体力吸収、影移動、闇の眷属召喚、幻獣召喚、精霊召喚、自己強化、とかなりの保有スキルがあるのには驚いた。

宿屋でこのスキルを見てセイがものすごく興味を持ったのだ。『このスキルってかなり優秀な召喚士だよね?多分だけどかなりの戦力アップになるんじゃない?』『でも詠唱出来ないのにどうやって召喚するの?』と、スズが疑問に思った事を口にする、続けて『もしかして話せるようになるのかな?実は獣人でした・・・とか?』みんながリルルを見たのだが、『でも獣人なら獣人化って出るよね?そもそも闇の幻獣って出てるから魔獣でもないよね?』と、ラムが話す『幻獣ってなに?』と言う話になったが全員が知らないのだ。

トールは鍛冶屋に行っているので、残りのメンバーでギルド内の図書館で幻獣の事を調べることにした。

文献によると【風を操るシルフ】【大地を揺るがすタイタン】【大気を凍らすシヴァ】【紅蓮の業火のイフリート】【雷を呼ぶヌエ】【洪水を引き起こすリヴァイアサン】と幻獣界に住んでる幻獣の力を限定的に使えるみたいね。

セイが『でも召喚士って普通だと精霊召喚くらいだよね?幻獣って明らかに上位精霊より上の存在よね?』と言い、リルルを見ている。『リルルが幻獣っていったい何の?どこにもそれっぽい記載無かったよね?』と、不安そうに語っている。

ラムが文献を見ながら『記載されているのは伝承などに残っているもので実際にはもっと多くの幻獣がいるはずである』って書いてるね。これ以上調べても特に変わった記載も無かったので図書館を後にして、ギルドの仕事依頼を眺めているとスズが何かの依頼を見つけたようではしゃいでいる。

スズが指さす依頼書にはこう書かれていた。

【素材収集依頼】依頼主1号鍛治店、依頼報酬【指定数以上の素材があれば防具等の作成または素材に応じた報酬金】、必要素材【サラマンダーの皮5枚、ファイヤードラゴンの素材、牙、爪、皮、羽、骨等】

『ドラゴンの防具って魔法効果に耐性があるんだよね?あと、ドラゴンクロー作りたいな~』と、スズが言った。確かにこの街ではスズの強化に繋がる武器や防具は無かったのだ、アクセサリー類で少しは耐性が上がったが思ったほどの強化にはならなかった。

トールは鍛冶屋でかなり強化されたし、ラムも新しい刀を手に入れたので攻撃力も上がっている、スーザンもワイトキングのドロップアイテムで魔力が上がって攻撃魔法の威力が上がっていたし、セイはアクセサリーで魔法防御や耐性がアップしているのである。そして日を追うごとに強くなるリルルが加わった事でスズに劣等感が生まれていた。

取りあえず依頼書をいくつか受付で渡してもらいトールと合流したら依頼を受けるか相談と言う事で宿屋へと戻って来た。

夕方になる頃にトールが戻って来たので図書館での出来事とギルドの依頼書の事を伝えると『ああ、その鍛冶屋って僕が通ってた所だね、ドラゴンアーマーの制作依頼が来たけど素材の在庫が無くて作れないって話してたよ。僕も恩返しじゃないけど強化された防具の実践経験したいから賛成だよ』と、言う事なので早速ギルドに行き正式に依頼を受けることにした。

受付で手続きを済ませ、食堂で食事を終えると、雑貨屋で暑さ対策の準備をしていく、スズやリルルは足をやけどしないように耐火カバーを用意、火属性攻撃が多いそうなので耐火装備や水分を多めに持っていくための水袋等準備していた。途中でスーザンがどこかへ出かけて返って来たときにはマントを持ってきた、アクセサリー屋で注文していたものを取りに行ってたのだ。パーティー専用装備と言うもので5つまでの加護が連動するすぐれものらしい、たとえばセイがマントに水の加護を付与するとパーティー全員が同じ効果を得られると言うのだ。ただし、相反する効果は打ち消されるので気をつけるようにとの事だった。

5人と1匹はおそろいのマントに身を包み雑貨屋で購入した簡易倉庫に必要な薬品等を収納していく。収集したアイテムや素材などをこの簡易倉庫に入れると手荷物が大幅に減らせる優れものなのだ、ただしお値段もそれなりにするので、ある程度のレベルが無いと購入する事も困難なのだが。


全員の準備が整ったので早速南の竜の住む火山地帯へと出発したのだった。

3日程移動するとようやく火山地帯の麓に到着したのだが、麓ですらなかなかの暑さだった。マントに水の加護、冷気の加護、風の加護を付与したのでこれでもかなりましなのだった。

セイが水の結界を張ってくれたので今日は麓で休んで明日から本格的に火山地帯に入る事にして早めに休息を取ることにした。夜間はリルルが見張りをしてくれるので安心して休めるのもかなり楽になっていた。


翌朝朝食をとり火山地帯に入る前にリルルを影移動で休息を取らせながらの移動となる、火ネズミがたくさん住みついているようで何度も襲ってくるのだが苦労しなくても倒せる上に毛皮も肉も売れるので小銭稼ぎ程度にはなっている。

火ネズミが出現しなくなると火トカゲサラマンダーが襲ってきた、火炎弾等が厄介だったがトールが防いでくれるので問題無く依頼数以上に集める事が出来た。火ネズミを倒していた辺りからリルルも参加していて時々捕食している。火を纏ったネズミとか熱くないのかな?とか思っていた。

しばらくモンスターが出てこないので少し休憩を取る事にし、岩などで腰かけていたらリルルが火の粉をパクッと食べたのだ!すると周囲に漂っていた火の粉が一斉に遠ざかって行った。

スズの元へリルルが近寄ると驚いた声で『え?これ・・・火の粉じゃなくて精霊?』と、言われ全員が近寄って見る、確かに良く見ると小さいが羽の生えた妖精のように見えた。しばらく暴れていたがリルルが妖精をそのまま飲みこんでしまった・・・。周囲に居た妖精が一斉にこちらへ向かってくるとリルルが遠吠えをすると、先ほど飲み込んだ妖精がリルルの眼前に出来た魔法陣から飛び出して来たのだ。これを見てセイが『これ、精霊召喚よね?』と、驚く。向かってきた火の粉の妖精が仲間?の妖精と集まって会話のようなものをしている、どうしたものか様子を見ていたら周囲の妖精がリルルの周囲を旋回している、最初に食べられた?妖精がリルルと意思疎通しているかと思ったら、リルルが大きく口を開けて周囲の妖精を全て吸いこんでしまった。

・・・しばらくするとリルルが遠吠えをして魔法陣が展開されるとさっきまでの火の妖精ではなく手のひらサイズの精霊が出て来たのだ。『やあ、初めまして僕は火の精霊だよ』と、直接頭の中に声が聞こえる。『詳しい事は後で話すけど取りあえず魔素が無くなりそうだから相性のよさそうな赤い髪のお姉さんに取り憑くね』と言うとスーザンの身体にすっと消えていった。

『あ、火の精霊の加護が発現してる』と、スーザンが言う。『精霊が憑依すると精霊の加護が自動で発現して精霊が消滅しない限り効果が持続するんだって、あと精霊の魔法も使えるっぽい』と、精霊が直接語りかけて来るのだそうだ。魔素を少し持って行かれたそうだが特に危険は無いようなので先へと向かうことにした。

しばらく歩くと拓けた場所に出た、硫黄の匂いが立ち込めていて温泉が所々に沸いている。すると温泉の中から巨大なハサミのようなものが伸びて来た。トールが先頭を歩いていたので鎧で弾かれたのだが温泉の中から次々に襲ってくる。タイミングを見てスズがハサミのようなものを思い切り蹴り上げると温泉の中から本体が出て来た。それは、巨大なヤゴだった。ハサミのようなものは強靭な下顎だったのだ。下顎の攻撃さえ避けられれば本体は柔らかいので倒すのは難しくなかった。しかしヤゴを倒していたら成虫であるドラゴンフライが多数飛来してきた。ドラゴンフライはファイヤーブレスに加え、高速移動から羽の刃を使った攻撃や強靭な顎での噛み付きなど非常に多彩な攻撃をしてくるのだ。

しばらく戦闘を続けると退散して行ったので戦利品の回収をする。ヤゴの下顎は武器に加工したり隠し武器のばねの代わりに出来るので重宝されるのだ、ドラゴンフライの羽は超軽量なブレードとしてこちらも良い武器になる、ちなみにヤゴは調理すると非常に高たんぱくな食料になるし美味しいのである。

丁度良いのでここで昼食休憩を取ることにした。少し硫黄の臭いがするが慣れれば気にならなくなった。


昼休憩も取って再びファイヤードラゴンを求めて歩き出すと火の魔法弾が前方より多数飛来してくる。トールが盾で防いでいるが敵の姿が見えないため反撃する事が出来ないのだ。すると唐突に頭の中に声が響く『前方の岩に水魔法を広範囲で撃って!』と先ほどの精霊が叫ぶ。直後にセイのアクアサイクロンが一気に魔法弾をかき消すと、黒い小さい玉のようなものが複数上下左右に動きまわりながら魔法弾を撃って来た。敵さえ視認出来れば攻略は簡単であった。ラムの超加速で魔法弾を風圧で消滅させ先ほどと同じように本体がむき出しになった玉を全て斬って終了だった。おとした玉はリルルが全て平らげてしまった。あのモンスターは精霊の一種でウィルオーウィスプと言うらしい、魔法弾に擬態して撃ってくるので本体が見つけにくいようだ。

ふいにリルルが呻り声をあげて警戒している。すると前方に2メートルを超える大きさのミノタウロスが現れたのだ。巨大な両刃の戦斧を振りかざし思い切り振り下ろすと眼前の岩が真っ二つに割れる。さすがに筋骨隆々なのは伊達では無いらしい。横薙ぎの斧の一撃をトールのハンマーで弾くと斧とハンマーでの乱打戦へと突入したので、セイとスーザンが魔法攻撃でダメージを与えていく、火には耐性があるようでスーザンはトールへのサポート魔法で加速やダメージ軽減に移行、水魔法はかなり効果があるようでセイは攻撃魔法でダメージの蓄積を続けている。スズは背後や死角からクローでの足への攻撃を中心にし、ラムは一撃必殺を狙って力を貯めて待機している。30分ほど激しい攻防が繰り広げられたが急激にミノタウロスの力が落ちたのを見逃さなかったトールがミノタウロスの足へとハンマーを直撃させると片膝を着いたのだ、瞬間ラムのスキルからの一撃でミノタウロスの首をはねる。ゆっくりとミノタウロスの身体が倒れて行き決着が付いたのだった。ミノタウロスは装飾品などは無く腰に布を付けているだけだったので頭を腰布でくるんで倉庫に、唯一の戦利品が戦斧だったのでこちらも倉庫に収納した。戦斧はそうとうの重量のようで何の金属で出来ているか分からなかったそうである。

ミノタウロス戦でダメージと魔素が減ったのでポーションと魔素薬で回復して先へと進んでいく。

そう言えばミノタウロスと戦ってた時リルル居なかったけど・・・、と思った時リルルの遠吠えが聞こえて来た。

全員が急いで向かうとリルルが巨大なファイヤードラゴンと戦っていたのだ。

リルルを見るとかなりのダメージを負っているのが分かり、ミノタウロスとの戦闘中ずっと自分たちとの戦闘に合流しないように食い止めていたのだろう。セイがリルルに回復魔法を唱えた後水の結界で火の威力を軽減、後は回復とサポートに徹していた。スーザンの攻撃はファイヤードラゴンにはほとんど効果が無かった、矢は強固な鱗で弾かれ火の魔法は無効化されるのでサポート魔法くらいしか出来ないのだ。ラムの超高速からの斬撃ですらたいしたダメージになってはいないようで長期戦になるのを覚悟して戦闘していた。戦闘開始から2時間程度経過した頃突然の大雨が降って来た。雨が当たるとファイヤードラゴンの身体から蒸気が発生している、大雨に当たっているうちに身体に纏っていた火が小さくなり体色もくすんできている。ダメージは追っているようだがこの状態でもラムの超高速からの斬撃でも効き目は薄かった。トールのハンマーで下から顎を叩き上げた時にラムが跳躍して頭に斬撃を繰り出そうとした時周囲が突然光った。

ラムに雷が直撃し、その余波でファイヤードラゴンにも雷のダメージが入ったのだ。

ふと、武器屋の言っていた言葉が蘇る『雷切って刀は呪われていて持ち主全員が雷に打たれて死んだって・・・』スズが不安そうにつぶやくとラムが帯電した状態で地面に着地した。ラムの身体と刀から電気が纏わりついていた。ラムが大声で叫ぶ『みんなあそこの大岩の上に避難して』と20メートル程離れた場所を指さす。意味が分からなかったがラムとリルル以外は大岩の上に避難したのを確認すると明らかに雷でダメージを負ったファイヤードラゴンに向かっていく。大雨で体温が下がって防御力が下がった状態に加え雷でダメージが入ったのを確認出来たので、帯電状態に加え刀から力が流れて来るのが分かったので一気に攻撃に集中することに決めたのだった。刀を持つ手に力を込め魔力を最大限に刀に流すと刀身から雷撃の効果が発現する。超高速から何度も攻撃を加えていくとダメージがどんどんと蓄積されていく。

そして一気に跳躍して空中から回転して首を斬り落とす事に成功した。雨で濡れた地面から周囲にも電気が走るので全員に避難してもらっていなければ仲間にもダメージが入るところであった。

リルルは雷を吸収しているようでファイヤードラゴンを倒した時には帯電した電気を全て吸いとってくれたのだ。

ファイヤードラゴンを解体しようとしたのだが皮膚が硬くて解体が困難だったのである。

困っていたらリルルがファイヤードラゴンを自分の影に沈めていった。スズが『もしかしてこれで移動出来る?』そう言うと、リルルがしっぽを振って答えてくれたのだった。

長い戦いだったが無事目標を達成したので街へと戻る事にしたのだ。戻る道中でも戦闘はあったが、一度攻略しているモンスターは難なく倒して行けたのだった。

山を降りると陽が落ちたので今夜はここで休むことにしてキャンプの準備をしていく。

ラムが座ろうと腰を下ろすとそのまま気を失ってしまっていた。

しばらく経った頃目を覚ますとスズが抱きついてきた。『心配したんだかね~』と泣き顔で怒られてしまった。

『ねえ、頭にあったコブ少し大きくなってるよ』とスズが言うので触ってみると確かに少し盛り上がっている、しかし痛くはないので気にしないようにしたのだった。

結局気を失ったのは新しい雷属性の魔法と魔素の使い過ぎによる魔素切れだったらしい。慣れない魔法を使うと時々あるらしいとセイが言っていた。

今回は雷の直撃で雷纏い状態になったけどコントロール出来るのかな?とラムが悩んでいたらリルルが吠えて何かを召喚した。電気を身に纏った雷の精霊のようだった、火の精霊の時と同じように頭に直接声が聞こえる。『雷を纏える人間は久しぶりで張り切っちゃいそうだよ~、むむ、その刀は雷切だね。相性の良い持ち主に拾われて刀も喜んでるよ』と、言っている。『刀に意識あるの?』と、聞くと『刀は魂込めるって言うくらいだから意識と言うか精霊が憑いてる事多いよ、気に入られれば手を貸してくれるけど、気に入られなかったら逆に攻撃されるからね、そのうちその刀の精霊に会えるんじゃないかな?』と言うとラムに取り憑いたのだった。

今回の依頼はなかなか収穫の多い冒険でとても満足のいくものであった。

そして、また3日かけて街へと帰還したのであった。

早速鍛冶屋に向かいファイヤードラゴンが硬くて解体出来なかったのでそのまま持ち帰ったと言うと工房では無く街中の広場でファイヤードラゴンの解体ショーをすると言いだした。

見世物にして見学料を取って儲けるつもりのようだ。テントを張り100人程の見学人が見守る中ファイヤードラゴンの解体ショーが繰り広げられていく。あれほど硬かったのにまるで魚をさばくように軽やかに解体して行くのだ。およそ1時間ほどで全ての解体を終えてしまっていた。

解体が終わると使用していた解体用の小刀をプレゼントしてもらった。アイアンゴーレムでも解体出来る優れものなのだと言っていたのでありがたく頂くことにした。

肉は防具で使用しないので食堂の店主が買い取って行ったそうである。久しぶりのドラゴンの料理が出来ると上機嫌で帰って行ったそうである。

工房に戻ると早速ドラゴンアーマー一式の製作に取り掛かる。すると店主が『素材がだいぶ余るから好きな防具言ってみな』と、声をかけられてスズが目を輝かせている。一通りスズの注文を聞き終わると、『そっちの魔法使いのお嬢ちゃんたちは竜の眼をアクセサリー屋に持って行ってタリスマンにしてもらいな、全属性耐性が上がるぞ』と言い瓶詰にされた竜の眼を二つ渡してくれた。

ラムが『こんなに色々頂いて良いんですか?』と聞くと店主は『ファイヤードラゴン一頭丸ごとなら安いもんだ』と豪快に笑いながら色々と良くしてくれたのだった。

翌日の昼ごろに鍛冶屋に行くとスズの注文品が出来上がっていた。スーザン用の竜の胸当て、ラム用のドラゴンアーマー、スズ用のドラゴンアーマー、ドラゴンクロー、ドラゴングローブ、ドラゴングリーブとほぼ一式揃えていた。店主に礼を言い出ようとすると今回の報酬金を渡して来たのだ。

『ドラゴン一頭丸ごとってのはこれだけ渡しても大儲け出来るって事だから良い素材が手に入ったらいくらでも買い取るから持って来ておくれよ、このお金はそのための先行資金さ』と、豪快に笑いながら送り出してくれたのだった。

そのままアクセサリーショップに行くとドラゴンアイのタリスマンが出来上がっていたので加工料を支払い受け取るともしファイヤードラゴンの眼が手に入ったら是非譲ってくれと懇願されてしまった。それだけ貴重なのだろうと理解出来たが、また戦って勝てるかと言われるとなかなか難しそうだとみんな思っていたのだった。

翌日はギルドにて依頼書とにらめっこしていた。セイが言うには色々な精霊集めをして全員に精霊の加護を付けてそれぞれの属性を上げたいとの事だった。そのためには地、水、風の精霊を集めたいがその存在場所が分からなくて困っていた。図書館でセイとトールが調べているがさっぱりと分からないとの答えだった。取りあえず怪しい場所を攻略して行こうとなり、大ピラミッド、水の空中神殿、風の谷の3ヶ所を目指す事にした。

『近いのは風の谷みたいなのでまずは風の谷から目指そうか』とラムが決めて早速準備をして出発をする。

風の谷は文字通り常に強風が吹いている谷で両サイドが岸壁になっており無数の飛行型モンスターの巣になっている事もあり一般人が足を踏み入れる事のない場所だった。

岸壁には所々横穴がありモンスターの巣だったり以前に来た冒険者の掘った休憩場所等があった。

上部を見ると無数のクモの巣が張っており、クモの巣の上は危険なモンスターが生息しているそうだ。

風の谷を抜けた先には広大な沼地が広がっており、奥には高い山脈地帯と雪山などが連なっているので、その温度差のために風が止む事は無いそうである。

風圧で飛ばされないように各自スパイク付きのブーツを装備していた。常に同じ方向に風は吹いているが右に左にと曲がりくねっている。

谷へと入ると思った以上に風の威力が強い、周囲を警戒しながら進むとリルルが呻り声をあげて警戒態勢になる。すると落ちている岩だと思ったものが地面より湧き出てくる。3体のロックゴーレムであった。セイの水魔法で柔らかくなった場所をトールのハンマーで叩き壊し、コアがあればスズかスーザンが破壊または封印すると言う連携で、ラムとリルルはトールの相手以外を担当しつつ、周囲の警戒とサポートで一体ずつ確実に倒して行く。ロックゴーレムからは時々レアな魔鋼が採れるのだが今回は普通の魔鋼のみであった。もっとも今回は長い旅になりそうだったのでスーザンは矢の材料に出来ると喜んではいるのだが。

ロックゴーレムを倒して数分とたたずに大サソリが横穴から現れて戦闘になる。とにかく大きいうえに素早く動き回り、ハサミの強力な攻撃と、突進からの噛み付き、極めつけはしっぽから放たれる高速の猛毒攻撃である。硬い外骨格にはスーザンの矢は弾かれ、スズのドラゴンクローでも傷を付ける程度だった。魔法攻撃も効き目が薄いらしくトールのハンマーで外骨格に亀裂が入ったところに魔法攻撃で徐々に体力を奪って行った。ようやくとどめを刺した時に上空よりハーピーが攻撃を仕掛けて来た。5羽の群れで、切れ味の鋭い羽根を飛ばしてきつつ、魔法攻撃も織り交ぜて来るのだ。

上空からの攻撃なので近接武器は使えず遠距離武器か魔法で対抗しているのだが強風の影響と空中を高速移動する相手と言う事もありなかなか有効打を与えられずこちらが消耗して行くのだった。

不意にスーザンの精霊とラムの精霊が声をかけて来た。『自分たちと魂の契約をするなら力を貸そう』と言っている。詳しい事は分からないが現状を打破出来るならと了承する。

スーザンの精霊が助言する『強風時には魔法の玉は風に負けるから貫通力を高めなきゃ、そのためには玉を小さくして高回転を加えて撃つのさ』と言うと、一瞬スーザンの身体を使って魔法弾を撃ち出す。すると高速で撃ち出された魔法弾がハーピー二体を貫き墜落してくる。地面に落ちたハーピーはそのまま絶命していた。

ラムに精霊も同じく助言している『雷の魔法を使えばハーピーなんて簡単に倒せるのに・・・』と言うと、ラムの身体を使って雷魔法を撃ち出す。こちらは一撃で一体に当たると近くを飛んでいたハーピーも巻き込み三体とも落下してきた。『雷魔法には風の影響なんて無いんだから最初に撃ってれば一瞬で終わってたのに』とあきれたような声で言い残すと静かになった。

ハーピーから羽根と爪をはぎ取り終わると、ラムとスーザンは顔を見合わせ『魂の契約ってなに?』と少し不安になるのだった。

『さっきの大サソリはリルルが影にしまってたから後で素材回収しないとね、スーザンが猛毒矢作れるみたいだし』とスズが言っている。

『雷魔法って凄いね、貫通効果、感電での麻痺、側撃雷による範囲攻撃、しかも防御貫通だって』と、かなり使い勝手が良い魔法のようである。

スーザンも精霊からの助言で魔法の効果的な使用法や威力の上げ方を教わっている。

一通り話を聞き終えると、核心部分の魂の契約についてを聞くと、魂の契約とはお互いの魂の一部を交換する事でお互いが死ぬまで命を共有すると言う事らしいのだが、精霊は魔素を消費すると消滅してしまうが魂の契約をしておくと消滅しても復活できるようになるそうだった。代わりに長く生きると進化して契約者にも恩恵があるそうだった。

特にデメリットが無さそうなので二人とも魂の契約を済ませるのだった。これによって精霊の知識と魔力が上乗せされ、いくつかの魔法が使用可能になった。

その後も大サソリが襲ってきたが新しく使用可能となったファイヤーブレットとサンダーストライクで先程とは全く違いあっという間に倒せるようになった。

しばらく戦闘を続けているとエアーエレメンタルが現れたのだ。これはトールの重力魔法で動きを遅くするとリルルが捕食して風の精霊を呼び出すことに成功した。風の精霊はスズに取り憑きそのまま魂の契約を済ませたのだった。

無事目標を達成したので次の目的地である大ピラミッドを目指して移動することにした。

3日程移動して到着したピラミッドには入口が正面に1つあるだけなのだが、中は広大な迷宮になっている、方向感覚が狂うのと中の迷宮が移動して組み替えられるので地図もあまり役には立たないのだ。










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