大活躍な……
あれやこれやと作っていると、拠点の外から帰宅の合図が聞こえて来た。どうやら、既に日が随分と傾いてしまっていたらしい。本当に錬金術をやっていると時間を忘れてしまうなぁ、なんて考えながら吊り橋のある方向へと移動。
吊り橋を固定してる楔を外すと、吊り橋はゆっくりとした動作で降りて行く。ただそれでも、20秒ほどで橋として使える状況になった。
女子達の姿が見える。相も変わらず、俺は彼女達から顔だけは逸らすんだけど、お帰りと言う意味を込めて手を振ってみた。すると……。
「……もちゃー」
冬川さんに威嚇された。
何で? どうして彼女はカマキリっぽいポーズを取りながら威嚇をして来たのだろう。やばい、まじめに理解が追い付かないよ。
ただ、俺が頭にクエスチョンマークを並べている間にも、彼女は実にご機嫌? な感じで「……もちゃー」と威嚇を続けているんだよね。本当に何なんだろう。
「雪、突然どうしたのよ」
「……なんとなく?」
「何となくって……貴女の行動で望月君が困惑しているじゃないの」
「……勝利」
「勝ち負けだったの!? てか、一体なんの勝負だったのよ……」
いつの間にかに俺は冬川さんから勝負を仕掛けられていたらしい。
おかしいな? 俺は手を軽く振っただけだったんだけど。何時の間に勝負になっていたのかな。
これには冬川さん以外の人は苦笑い。うん、意味不明だから仕方が無い。
とは言え、どうやら彼女達には冬川さんが何故このような行動を取ったのか、その内容を理解しているみたい。
あはは……と笑いながら、拠点へと入って来る彼女達。
そしてそのまま、彼女達が完全に拠点に入った後に行う、吊り橋を上げる作業をする俺の元へと移動してくる。
「ごめんね望月君。急に雪が謎行動を取っちゃって……」
「あー……まぁ、冬川さんらしいといえばらしい?」
「全く。あの子はテンションが上がると奇行と思えるような真似をするのよね……口数も少ないから誤解されちゃうし。フォローする身にもなって欲しい物だわ」
どうやらよくある事らしい。しかし、テンションが上がると行うのかぁ……と言う事は、何かテンションが一気に上がる事が有ったのかな。
「もしかして、狩りで良い物でも手に入れた?」
「良い物というよりも、雪が大活躍したって感じかなぁ」
「へ? でも主力は夏目さんか秋山さんだよね」
「召喚で出すネズミが良い具合に敵の居る場所を見つけて来たって感じ。お陰で矢で射貫くのが楽だったね」
ふふと楽し気に笑う夏目さん。どうやら彼女も結構テンションが上がっているらしい。……どうやら相当の数を狩る事に成功したみたいだ。
「と言う事は、レベルもそこそこ上がった感じかな?」
「うん! 私なんて18レベルになったよ」
ブィ! とピースサインをして来る春野さん。なるほど、彼女で3レベルも上げる事が出来たのか。そりゃテンションも上がるよね。
「って事は、他の人達もそこそこ上がった感じ?」
「私が19レベル、七海も19レベルよね。で、雪が18レベルかしら……たぶん、これ以上はネズミでもかなり厳しいと思うわ」
「えっと、一体どれだけ狩ったの?」
「今日だけで……そうね。どれぐらいなのかしら? 毒団子とかも使ったから、正直数が分からないわ」
テンションが上がったからって、どれだけハイペースで狩りをしたんだろう。だってさ、4人で経験値を分割しているはずなのに、それでもこれだけレベルが上がっているんだよね。
これ、モンスターハウスと言えるような場所を、大量にでも潰して来ましたって言われないと理解できないんだけど。
「そんなに索敵ネズミは優秀だったって事かぁ」
「そうそう。だからあの雪のテンションって感じ」
「……もちゃー」
なんだか今度は「♪」でもついていそうな言い方だなぁ。いや、ほんのりとそう感じるだけなんだけどね。もしかしたら、彼女のテンションが良い意味で上がっていると聞いたから、そう言う錯覚をしているだけかもしれないけど。
「それにしても、正直一日でそこまで上げて来るとは思ってなかった」
「そうだよね。私達も考えて無かったよ」
「ゴーレム狩りの予定を早めても良いかもしれないわね。これ以上のレベリングとなると、たぶん私達ももっと時間が必要になると思うのよね」
「19になったら一気にレベルアップする気配が無くなったかな」
あー……そう言えば、20と21になるのにも時間を結構掛けたっけ。俺の場合は一人だから経験値が丸ごと入って来るけど、彼女達の場合は四等分だからなぁ。
「思わぬ狩り方で意外と疲労しているかもしれないし、明日は休んだらどうかな? その間に俺はゴーレムを鑑定したり現地の地形を調査しておく感じで」
とりあえず、明日は休んだら? と聞いておく。そしてついでに自分の予定も決めてしまおう。
「それは良いけど、でも一人だと危ないんじゃない?」
「……もちゃもちゃ」
「雪……言語がおかしくなってるから」
「……そうそう」
これはそっとスルーしておくべきだろうか。
とりあえず、心配をしてくれているみたいだし、そんな相手に対して突っ込みを入れるというのもなぁ……てか、既に春野さんが突っ込みを入れた後だしな。
よし、ここは華麗にスルーをして話を進める事にしよう。
「調査だけで戦闘は回避する予定だから。余り危険では無いかなぁ」
「……むぅ」
「スルーされたからって膨れないの。っと、それでも危ないんじゃない?」
あ、もしかして選択をミスった? しまったな。ここは「もちゃ」な威嚇に触れておくべきだったのか。とは言え、既にスルーしてしまっているし会話も進んでいる。
此処は軽く冬川さんに「ごめんね」と合図だけしておいて、話を続ける事にしよう。
「今までもソロで動いて来ていた訳だし、撤退時を間違えるような真似はしないよ」
「……ん」
「どうしたの? って手にネズミを置いて? ネズミが踊ってる?」
なんだ? どうした? 彼女とネズミは何が言いたいんだ。
「あー……雪は「この子を連れて行って」って言ってるよ。ネズミを先に行かせたら、更に危険も減ると思うって!」
「なるほど。でも良いのかな?」
「……ん!」
「勿論!」と言う意思が感じられた。なら明日はネズミをお借りしてゴーレム調査に乗り出すとしようかな。
「なら明日の方針は決まりね! 後は夕飯をしっかり食べてゆっくりと寝ましょうか……っとその前に、望月君の方は今日何かあったかしら?」
「あー……ほぼ成果無しって感じかな。いや、色々と分かった事はあるんだけど」
俺の方と言えば、メインとなっただろう内容が殆どダメでした! って落ちだからね。しかもその理由が、スキルのレベルが足りませんだよ。
本当に一体どうしたら良いんだよ! って、誰しもが叫んじゃうんじゃないかなぁ。
と言う事で、今日行って知った内容を包み隠さず女子へと告げていく。
「あらぁ……それはまた。スキルマックスでスキルレベルが足りませんなんてのが有るのね」
「初級だからね。如何にかして中級とかにでもしたら大丈夫だとは思うんだけど」
「その手段が分からないんだよね。もしかしてゴーレム狩りの先にあるのかなぁ?」
「可能性は高いと思う」
誰も今まで考えていなかったからなぁ。レベルが足りませんなんて事があるなんて。
「もしかしたら、ジョブのレベルを上げたら変化するなんて事もあるんじゃない?」
「七海……それも有りそうだよぉ」
「……レベル上げ」
「でもネズミではもう上がりにくいのよね? となると、やっぱり新しい場所を開拓する必要がある訳で、どっちにしてもゴーレムを狩れって事よね」
はぁ……と思わず皆の口からため息が出る。
いや、確かにゴーレム狩りは予定していたからその事は良いんだけど、それでもと思う部分はあるからね。なんて面倒な状況を用意してくれているんだ! って。
明らかにゴーレムとか、今戦う対象じゃないと思うんだけど……もしかして、とっても簡単な弱点でもあるのかな。兎に角、明日はゴーレムについて徹底的に調べて行かないと。
ブックマークに評価などなど、ありがとうございます(*'ω'*)
雪ちゃんの召喚した〝ネズミ〟が大活躍でした。
同じネズミの姿ですからね、相手も警戒などせず探索していたネズミをスルーしていたのかもしれませんね。




