選択したのは
ジョブを選択する。この行為に対して半分は期待を、半分はネタだろうと思っていた。
何故か? そんなもの、ジョブなんて現実的に考えたらあり得ないだろう! という当たり前の思考から来るモノと、この場所ならば何が起きても不思議ではない。何せ先ほどの石碑でとんでもない物を見たじゃないか! というモノから来る期待。
ただ、どちらにしてもジョブを選択しなければ何も先に進まないのでは? という考えもある。……何せ見えない壁で通れなくされていたりするしな。
という訳で、最後の候補をチェックしてみる事にした。
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アルケミスト
錬金術師だよ。ちょっとした戦闘、それなりの生産が出来る……ぶっちゃけ器用貧乏。
全体の中で一人いたらいいかなぁ? 戦闘は初級魔法が使えるだけだよ。
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それにしても、アルケミストは生産系じゃなくて特殊系だったのか……まぁ、ゲームやら漫画とかにあるアルケミストって生産系と言うよりも何でも屋さんだからなぁ。
ただ! ソロで活動するという点からして、これほど便利な職って他にはないのでは? と思う。
なんせ、自衛程度の戦闘に生産も出来るんだろう? 確かにそれぞれの特化に比べたら、出来る事の程度は低いだろうけども、何でもできると言うのはそれを補えるレベルで惹かれる。
今後、ジョブ変更が出来たりサブが設定出来るかどうかわからない。
そして、俺自身は仲間を増やすつもりなど無い。となれば……自分一人で何でもこなさねばならない。
「って事で、此処はアルケミさんを選択かなぁ……サモナーやテイマーも惹かれるんだけど……」
ただ、サモナーだと生産系は何も出来ないだろう。テイマーだとテイムしたモンスターにあれやこれやとやらせる事が出来るとは言え、テイムするまでが大変だ。もふもふとかを集めたい気はするけども! ここは生き抜く事を最優先しよう。
「って事で、アルケミをぽちっとな」
画面に出ている〝アルケミストにしますか?〟という文字の下にある〝YES〟をタップ。
すると、スマホは突然光り出したかと思うと再び宙へ浮かびあがった。そして、宙に浮くスマホから、何かコードの様なものが大量に出て来たかと思うと……。
「な!? スマホの反逆!?」
スマホはそのコードを俺の左腕に巻き付け、ギチギチと腕を締め上げ始めた。
「ちょ!? 痛い、痛いって!!」
右手でコードを掴み引き千切ろうとするも、コードはかなり頑丈なのか全くびくともしない。
縛り上げ締め上げてくるスマホ。ソレを剥がそうとする俺。この攻防で一体どれだけの時間が経っただろうか? 案外数分だったような気もする。
ただ、スマホは俺に対して攻撃をしているという訳では無かったようで……作業が終わり次第、そのコードをシュルリとスマホ内へ収納し……って、一体どこにコードが入っているんだ。
「何だったんだ……って」
締め上げられていた左手を見ると、ぎっちりとコードの痕が……これは何だか恥ずかしい。
とは言え、何かその痕が模様になっているという訳でもなく、ただただ締め上げられていただけの様で……。
『ピピッ。ジョブの設定が完了しました。詳細を確認してください』
何だったんだ? と考えていると、スマホから音声が流れて来た。
どうやら締め上げる事で作業を終えたらしいが……一体どういった理由で、と少し憤りを感じながらもスマホをチェックしてみる。
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ステータスだよ!
ジョブ
アルケミスト:Lv1
スキル
錬金術(初級)
鑑定(初級)
魔法(全属性・初級)
追記
HPとかMPとかパワーとかあると思った? 残念! ありませんでしたー!!
なんでないかっていうと、数値に頼り切った馬鹿が数値信者になって阿呆な事をするからだよ。
生き抜くには数値だけでは見ない方が良い。スキルを上手く使っていってね♪
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……数値に頼るなと言っているのに、ジョブにはレベルがあるんかい。
いやでも確かに、日本人って数値信者になりやすい面があるからなぁ……良くゲームとかでも、マナーだとかなんだとか言って、最低ラインのレベルや装備の数値を押し付けるなんて事は良く目にする話だし。
とまぁ、本当に数値よりもPSだろう? って思うんだけどさ。なんなら初期装備で狩るとかの縛りプレイの方が……げふんげふん。
と、それは良いとして。
馬鹿はソレでマウントを取ってきたりする。ただ、それを言い出したらジョブやらなにやらでも同じことが言えるんだけど。
……てか、このアプリを作っているモノって一体何者なんだろうか。
変に配慮してみせたり、かと言えば何やら説明不足が多いというか……大雑把過ぎるんだよなぁ。しかも、何だか挑発して来るような文章だし。
っと、とは言え! 今はソレの検証をしている暇はない。
頭上を見れば結構日が傾き始めているし……今から拠点へと戻るか、それともここらにキャンプ地を作るか判断せねばならないだろう。
「うーん……ただ、ここら辺にどんな生物がいるかもわからないからな。一夜過ごせた場所の方が安全ではあるか?」
たまたま昨夜は何もなかっただけかもしれないが、それでもここら辺で新しく寝床を作るよりは……と考えてから、ふと一つの事に気が付いた。
「魔法があるなら、この崖を削って洞窟でも作れないか?」
そう考え……其処で魔法ってどうやって使うんだ? と壁にぶち当たった。
とりあえず、スマホでチェックだ! という事で、ステータスの欄から魔法の項目を調べてみると。
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魔法
火魔法
ファイアLv1
水魔法
ウォーターLv1
風魔法
ウインドLv1
土魔法
ロックLv1
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……え? これだけしかないん? こうもっと、色々とあるものじゃないのか。
それぞれの属性にひとつずつしかないし、全属性と言う割には四つしかない……あれ? でも、魔法職の所を見た時に、回復魔法だとか光だとかもあったと思うんだけど。
これはあれか? レベルが足りませんとか、練度が足りませんって話なのだろうか。
「これはまた……洞窟掘削計画は保留だな」
やはり当分は、あの海辺の拠点で生活するのが良さそうだ。
色々と物を作りながら魔法のレベルを上げて、其処から活動範囲を広げるのがベターだろうな。
しかし、こうなるとジョブの選択が正しかったか少し不安になって来るところではある。
「ジョブの切り替えは出来ません……か」
一度設定したジョブの変更は今のところ出来ないらしい。
とは言え! チェックしたのは魔法だけだしな。とりあえず、拠点に戻って錬金術とやらを試してみるとしよう。
もしかしたら、期待を裏切るような生産能力かもしれないけど……選んでしまったモノはどうしようもないからな。後は工夫をしてやっていくしかない。
ただあれだな。せめて食べられるモノや使えそうなモノが分かったり、海水から塩や植物から砂糖でも取る事が出来ればそれだけで十分ではあるかな。
願わくば……がっかりしすぎない程度の能力でありますように。