留守番~七海視点~
暇だ。
私は拠点内にある、女子宅でボーっとしながら外を眺めている。
外ではザーザーと雨が夕方辺りから降っていて、遠征組が大丈夫か心配になって来た。
「皆は無事かな」
「気になるならリンクで聞いてみたら良いと思うわよ」
「んー……ほら、雨の対策で忙しいかもしれないから、連絡をするならもう少し後の方が良いんじゃないかな」
「それもそうね。しっかし、急に降り出したわね」
「そうだね」
桔梗と一緒になって窓の外を眺めた。
風も結構吹き荒れているのか偶に横殴りの雨になっていて、外を眺めている私達の顔に雨が襲い掛かって来る。
「窓を閉めましょうか。このままだと室内が濡れる事になるわ」
「そうだね」
バタンと窓を閉めてから閂を差す。
窓は残念だけどガラス窓じゃない。木の板で出来た開閉が出来るタイプの窓。しかも放置するとパタンパタンと風で勝手に開け閉めされてしまうから閂をしておく必要がある。
「そういえば、塩ってどんな感じなんだろう? お母さん」
「お母さん言わない! 全く……。えっと、塩よね。以前の塩は最低品質だって彼は言っていたけど、それでも普通に使えるモノだったわよね」
「お母さんがダメならママ? っと、確かに海水を煮詰めて作っていたのに比べたら随分と良かったかな」
「ママでも無いから。それが低品質になったって事よね。うぅん、想像がつかないわ」
塩のバージョンアップがとリンクで聞いた時は盛り上がった。それはもう皆で騒いだ。
でも、こうして一日が過ぎた後に桔梗と二人っきりになった後だと、「あれ? でも、私達は味ってわかんないじゃん」となった。だって、報告が入った時に直接味見をしたのは望月君だけだったから。
だから私達は、想像して期待しするしかない……冷静になってみると、その想像する為のベースが無いから、あれだけ騒いだのは? と思ってしまう。
が、どうやら望月君は私のそんな心を見透かしたのか、タイミングよくとんでもない爆弾を投げて来た。……ううん、本人には全くそんな気なんて無いんだろうけど。
「ピコン♪」とスマホから通知音が響いたと同時に、私と桔梗はそれぞれのスマホを手に取りリンクを起動。
「ん? なんか花がどうとか言ってる」
「あらそうね……とりあえず「花ですか? えっと、私達が居る場所から見る限りは無かったような気がするわね」っと。七海も見てないわよね?」
「そうだね。ネズミ狩りとかで散策はしたけど、以前の場所に比べるとほとんど見なかったと思う」
記憶を辿りながら脳内に森の中の映像を浮かべてみて……無かったなと思い、桔梗の言葉に肯定。そして私も、リンクに『私も確認出来てない。花よりも木や蔦が多いイメージ』と、思い出した映像から出て来た情報を打ち込んでおく。
ただ、この後にとんでもない爆弾が投下された。
と言うのも、私が『はーい。って、どうして花を?』と打ち込んだら、望月君から『あー……糖分がね。ほら、最低品質だったのが低品質で作れるようになったから』なんてワードが返ってきた。
そう! 糖分! 糖分と言えば甘い物!! そんな力のあるワードに飛びつかない訳が無い。
私は思わず『なるほど! 期待して待ってます!!』なんて、らしく無い返し方をしながら桔梗の方を見た。すると桔梗も私の方を見ていて、フルフルと震えながらその口を開いたと思うと。
「甘味よね?」
なんてことを言いだした。
そうだ、甘味だ! 私達は甘い物に飢えている!! と言うのも、花蜜から錬金術を使い砂糖を生成している事は知っていた。でも、その量が限りなく少なく、出来た砂糖は望月君によって徹底的に管理されている。
だから、甘い物がどうしても私達には不足してしまっていた。
そして……。
「きっと、こっちに花があるかどうかを聞いたって事は、残っている砂糖は少ない? あ、でも今回は品質が関わっているから……」
「桔梗。元々砂糖は少ないから」
「あ、それもそうよね……と言う事は、今後の糖分事情が! だってこっちに花って少ないのよ!?」
「た、大変だ!!」
これはもう、遠征組に何とかして砂糖を用意してもらえるように祈るしかない。あぁ、出来ればサトウキビか甜菜を発見してください……と。
「……もう少し遠くまで調査範囲を広げるべきかしら?」
「ママンそれは危険だと思うよ。進むべき先にはゴーレムが居るし、違う方向はそり立つ崖か海かって言った感じだから」
「反対側は元々居た拠点から崖に向かった場所なのよね……確かに捜索する方向は一ヶ所しかなくて、しかもそこにはゴーレムなのよね」
あ、ママン呼びをしたのにスルーされちゃった。これは内容が内容だけに突っ込みどころか、ママンと呼んだことすら忘れているのか、それとも突っ込み疲れちゃったのか。
どちらにしても糖分の話題からの流れだから、桔梗を疲弊させる糖分おそるべし。
「とりあえず、ゴーレム対策を考えないとダメか。きっと、倒した先に私達が求めるモノがある気がする」
「それは楽観視し過ぎだと思うわよ。七海が思っているぐらい簡単に手に入るなら良いのだけど……ゴーレムが相手なのよねぇ」
確かに倒すだけで一苦労しそうな相手。
「そういえば、以前の蜘蛛は望月君が一人で倒したんだっけ」
「そうそう。彼が一人でね……一体何をやったら倒せたのかしら?」
やっぱり錬金術師だから道具でも作ったのだろうか。だとすると、ゴーレムも何か道具を作って……。
「あ、駄目だ。無意識に望月君を頼ろうとしてた。ここは私達だけでも如何にか出来る方法を考えないと」
「道具を真っ先に考えちゃったのね。気持ちは分かるけど、そればっかりだと私達が此処に居る意味が無いわよ」
「だよね」
あはは……と、桔梗に乾いた笑いをみせつつ考えをリセット。私にできるのは敵を弓で射る事だから、そっちの方向でまずは考えないといけないんだ。強敵が相手だから、一度強敵を倒した望月君へ頼ろうとするなんてね。私らしくない。
「相手は射貫く。後にも先にもそれで解決するのが私だし!」
「言っている事は正しいのだけど、後にも先にもって学校に居た頃は射貫いていなかったでしょ」
「ぶ、物理的には射貫いていないだけで、精神的には射貫いていたし!」
「……主に私が論破して、雪の何気ない一言と言う毒で止めだったと記憶しているのだけど?」
「ぐふっ……」
た、確かに。舌戦ともなると桔梗の独壇場だった。
私は無言でその状況を見ているだけで、エリカはあわわと言った感じで慌てていたっけ。……あるぇ? 私達ってそう言う時役に立ってない?
「い、いや。しっかりと視線で射貫いていたはず……うん、睨み合いも大切だから」
「そんな状況にならないように気を付けてはいたのだけど? 舌戦になる時は、大抵クラスで何かをする決め事だったり、先生のミスを訂正した状況だったはずよ」
「うぐぅ……」
あ、あれ? 桔梗の刃が私に向かってないかな? さっきから、言葉の刃がグサグサと刺さっている気がするんだけど。
「的外れな事を言うからでしょう。それに、ママンと言った事は忘れてないわよ?」
「あ、覚えていたんだ」
「言わないように! って言ったわよね?」
あ、あ、桔梗の笑顔が怖い。うん、ちょっと弄り過ぎたかも。
そんな事を感じていると、桔梗は一度手をパァン! と叩いた。どうやら、これでリセットと言う事みたい。
「とりあえず、この話は此処まで! 糖分にしろゴーレムにしろ、これは皆が帰って来てからよ。どうせ雨が降っているし、拠点から出て狩りが出来ると言う訳でも無いのだから」
「まずはしっかりと留守番かぁ……でも暇なんだよね。ほら、鶏達の卵も私達じゃ見分けられないし」
「餌を上げたりするだけで精一杯よねぇ。農業の方も直ぐに結果が出るモノでは無いから、確認するぐらいしか出来ないのも暇の要因よね」
あぁ、皆が早く帰ってこないかな。帰って来たら、思いっきりモンスターを射貫きに森へ行きたいかも。
なので今は、三人が無事帰って来れるようにと雨が止むように祈っておこう。
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留守組の状況です。
とは言え、お仕事が留守番ですので……ぶっちゃけ彼女達が出来る事ってありません。鶏を見たり農地を見たりする程度で、後は壁の上からネズミ達が拠点へと近寄って無いかチェックを行うと言った感じ。と言うかそれがメインなのですけど。